その他 2018.03.30

米国視察リポート2017 第4回

 

2017年9月に、タナベ経営・ビジネスモデルイノベーション研究会が主催した「シリコンバレー&サンフランシスコ視察ツアー」。これまで3回にわたって、現地の視察内容とビジネス事情をリポートしてきたが、今回で最終回となる。視察から得られた知見や全体の総括を行い、本連載を締めくくりたい。

 

イノベーションが生まれる
「ダイバーシティー文化」の真価

 

トヨタ自動車がシリコンバレーに設立した、AI(人工知能)開発子会社「トヨタ・リサーチ・インスティテュート」(TRI)のギル・プラットCEOは、「シリコンバレーの特徴は人材、文化、資金である。世界中から優秀な人材が集まり、失敗を恐れずチャレンジを繰り返す文化があり、そこに世界中のIT企業、投資家が積極的な投資を行っている。この循環によりイノベーションが生まれるのがシリコンバレーである」と述べている。

 

シリコンバレー興隆の本質は人材である。そして、それは米国が持つ「ダイバーシティー(多様性)文化」によるところが大きい。すわなち、国籍や人種、経歴もスキルも異なる組織や人材が世界中から集まり、互いに切磋琢磨しながらより高みを目指し続けていることである。

 

例えば、本リポート第2回で紹介した、スタートアップ企業の支援施設「プラグ・アンド・プレー・テックセンター」には、米国企業だけでなく、先進国のグローバル企業も参画している。同じく第2回で紹介した、ビッグデータを分析するベンチャー企業「インスタピオ」は、スタートアップに際してトルコ出身の元経済学者をCEO(最高経営責任者)として招へい。また、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校には、世界各国から優秀な頭脳を持つ人材が集まってくる。

 

シリコンバレーには、米国経済を支える5銘柄「FAANG」(フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグルの頭文字)のうち、アマゾンを除く4社が本拠を置く。これらの巨大企業群は、今、相次いで本社キャンパスの拡張を進めている。これにより、新たに数万人規模の雇用が生まれるといわれている。

 

労働力の減少によって人手不足に悩む日本とは異なり、シリコンバレーでは人材に事欠かない。米国内だけでなく、IT分野に強みを持つインドをはじめ、あらゆる国々から入社希望者が集まるためである。もともと移民国家の米国は、ダイバーシティーそのものが国家のDNAとなっており、まさにその真価がシリコンバレーで発揮されている。

 

また、保守的とされる東海岸ではなく、開放的・先進的な西海岸でそれが昇華しているのも、決して偶然ではないだろう。優秀な人材が集まるだけでは、イノベーションは生まれない。イノベーションとは、異質・異分野が接触して起こる化学反応の結晶なのである。シリコンバレーには、その基盤と集積がある。

 

チャレンジを続ける
パイオニア・スピリッツ

 

シリコンバレー企業の成長スピードが、近年すさまじい。例えば、グーグルは1998年の創業から、時価総額が10億ドルに達するまで8年を要したが、フェイスブックは2004年の創業から5年、イーロン・マスク氏が率いる電気自動車メーカー・テスラは4年で達成した。そして現在、その期間が2年程度まで短縮している。米経済誌『フォーチュン』が毎年発表する企業番付「フォーチュン500」選出企業の平均が「20年」であることを考えれば、驚異的な短さである。

 

時価総額が10億ドルを超える非上場のベンチャー企業を「ユニコーン企業」と呼ぶ。その代表格ともいえるのが、ライドシェアのリーディングカンパニー「ウーバーテクノロジーズ」。同社もシリコンバレー発のベンチャー企業だ。

 

どこにいても、スマートフォンをタップすれば車を手配できるライドシェアサービスは、乗りたい時に見つからないタクシーの不便さや非効率さ、またドライバーのマナーの悪さなどに不満を持っていた利用者と、空き時間に自分の車で収入が得られるドライバーの双方から圧倒的な支持を受け、米国で瞬く間に普及した。

 

一度ダウンロードすれば、同じアプリを世界各国で使用することができるため、現地の言葉が分からなくても問題はない。ユーザーにとって大変便利である。しかしながら、日本ではタクシー業界の強い反発もあって規制緩和が進まず、ウーバーの戦略は暗礁に乗り上げている。

 

シリコンバレーでは、イノベーティブな技術開発や、ビジネスモデルを許容するための規制緩和、また新たなルールの設定など、変革を推進しやすい柔軟な土壌がある。そのため、いくつもの会社を起業し、成功させている人(「シリアル・アントレプレナー」と呼ぶ)が続々と現れる。シリコンバレーでは、ペイパルや前述のテスラ、スペースXなどを次々と起業したイーロン・マスク氏が有名だ。

 

それに対して、起業して何度も失敗している人を「シリアル・ルーザー」と呼ぶ。何度も失敗できること自体、日本ではあまり考えられないが、シリコンバレーではそうした人たちにも投資家から声が掛かり、アイデア次第では次のチャレンジ機会が与えられるという。社会・経済そのものがチャレンジを奨励し、促進する仕組みになっているのだ。

 

今回の視察ツアーにおいて、参加者は次の5つの学びを得ることができた。

①世界をリードし、変革に導くシリコンバレーの風土
②イノベーションを持続し、促進する仕組み
③外から見る日本経済の現状と課題
④ビジネスモデルイノベーションへの挑戦の刺激
⑤成長意欲の高い異業種・異業界リーダーとの交流

 

さらに存在感を増すシリコンバレー。日本ではメディアに取り上げられる機会が多いため、シリコンバレーに関する情報や知識は得やすい。だが、紙面や液晶画面だけでは、分かったようで分からない、理解した実感を伴わない学びに終わってしまう。やはり現場で体感して得られる学びや気付きに勝るものはない。ビジネスモデルイノベーション研究会が基本方針としている「現地・現場での学び」を、シリコンバレー・サンフランシスコ視察で実践し、成果を得られたことは貴重な体験であった。

 

最後になるが、本視察ツアーの趣旨に賛同し、参加をいただいた方々に、この場を借りて御礼を申し上げたい。

 

PROFILE
著者画像
村上 幸一
Koichi Murakami
タナベ経営 経営コンサルティング本部 副本部長 ビジネスモデルイノベーション研究会 リーダー。ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案・マーケティング・フィージビリティースタディーなど多角的な業務を経験。タナベ経営に入社後も豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを実施。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導している。