vol.9 働く価値観の変化にマッチしたHR戦略のアップデート
Vol.9では、「レジリエンス戦略」を推進していく上での経営戦略として、「人材」の機能について、具体策をご紹介します。
コロナ禍が自分の仕事の価値と向き合うきっかけになったという声は少なくありません。
そのような急激な環境変化を経験し、新たな生活様式に見合ったこれからの働き方について、次のような変化が想定されています。
◎働く場所の分散化
テレワークやリモートワークを選択しやすくなり、自立した働き方が推奨される。
◎デジタルトランスフォーメーション
AI、RPAなど先端技術を生かした業務効率化により、人が担うべき仕事の価値が変わる。
◎人員体制とマネジメントの変化
リモートワークやシフト調整など組織構造が変化し、マネジメント方法も環境に合わせた変化が必要となる。
◎人事評価の変化
顕在化した結果や行動による評価をこれまで以上に明確にすることで、双方が納得できる評価の仕組みを構築する。
◎雇用形態の多様化
場所や時間の概念が変化したことにより、個人の働き方の選択肢が増え、フリーランス、副業、ギグワークなどの可能性が広がる。
これらの価値観の変化とともに、アップデートすべきHR(ヒューマンリソース/人的資源)機能について検討を進めるべきでしょう。
①メンバーシップ型から「ジョブ型」へ
これからの人材マネジメントを語る上で外せないキーワードとして、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」が挙げられます。メンバーシップ型とは、人を中心とした管理が行われ、仕事と人の結び付きを自由に変えられる人材マネジメントの考え方です。それに対し、ジョブ型は仕事を中心とした管理が行われ、仕事に対して人を合わせるという考え方です。
これまで多くの日本企業では、メンバーシップ型の人材マネジメントが展開されていました。知識も経験もほとんどない状態からポテンシャル(潜在能力)で採用され、学校を卒業するとともに入社します。入社後は社内教育が行われ、配属先は社内研修の前後に決まります。採用時点で配属先や部署まで決まることはまれです。入社時の研修結果やタイプを見て配属を決めるパターンも少なくありません。
その後、配属先の部署でOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)という部内教育が実施され、職能レベルを高めていきます。数年が経過すると、そのような教育の賜物として自立した人材に成長していくのです。1つのキャリアを形成した人材には異動が通達され、1つの会社で広くキャリアを形成していく人材配置が行われます。結果的にさまざまな部門を経験することで、キャリアが広く形成されていき、自社にとって必要なスキルを身に付けたゼネラリストとして管理職を命ぜられます。
一方、ジョブ型はこれまで欧米で展開されてきた仕組みです。メンバーシップ型とは入社時点から大きく異なります。新卒であっても能力や経験が求められ、新卒採用と中途採用に差はなく雇用されます。入社後は保有する能力に応じたジョブを担うことになり、その職務に見合った賃金が支払われます。
そのため、会社全体で上に押し上げていく研修が開かれるのではなく、自ら主体的に専門性を高めてスキルを向上させる必要があります。非常にシンプルかつ自律的な仕組みであるといえるでしょう。
コロナショックを経て、ジョブ型は脚光を浴びていますが、自社に合う仕組みであるかどうかは十分な検討が必要です。大手企業の規模であれば、それぞれの階層に十分な人材の配置が可能となるので適用のイメージを持つことができます。しかし管理職であってもプレーヤー部分を担っている多くの中堅・中小企業にとっては、サービスで職務を広げて隙間を担った人は恩恵が受けられず、割を食う姿が想像に難くありません。そのため、自社の組織に合う仕組みなのか、メリット・デメリットを考慮して判断することが重要となります。
メンバーシップ型とジョブ型のメリット・デメリット
②人材ポートフォリオを再設計する
メンバーシップ型、ジョブ型それぞれのメリットを生かしながら、自社に見合った雇用形態を考える上で、「人材のポートフォリオ」を再設計することが必要となります。人材ポートフォリオの議論をする際には、例えば下記のような切り口で検討します。
◎市場スキル×会社独自スキル
どのような会社でも求められる共通のスキルを「市場スキル」、自社独自で求められるスキルを「会社独自スキル」とし、これまでの人材モデルは正社員を前提とした考え方が中心でした。そのため、正規雇用・非正規雇用の議論から抜け出せず、定型業務は非正規雇用に任せるという考え方にとどまっていました。しかし、前述の通りジョブ型の考えが浸透してくると働き方に多様性が生まれてくるでしょう。
◎業務分類×成果貢献
正社員を前提としたポートフォリオを形成する場合には、業務の分類としての定型と非定型、そして成果や貢献のベクトルで分けることができます。マネジメント人材は組織に貢献していく、いわゆる管理職が該当します。個人としての成果を重視して組織に貢献するタイプはスペシャリスト。定型業務に取り組むことで組織に貢献するタイプはオペレーション人材に該当します。それぞれ必要な人材ですが、バランスを考慮した配置が必要でしょう。また、業務発揮レベルと人事制度は密接に連動することが望ましいです。
◎技術熟練度×技術カテゴリー
事業特性によって、技術軸で分類することもできます。この場合は事業との連動性が重要となります。事業戦略上、どの分野を重視するかによって配置や教育が大きく変わります。