Vol.1、2では、レジリエンス戦略を推進するための基本戦略を解説してきました。Vol.3からは、具体的な事業戦略を見ていきます。今回は、レジリエンス戦略を実現するための事業ポートフォリオについて見ていきます。
【レジリエンス戦略を実現するための5つの事業戦略】
事業ポートフォリオのアップデートとは、ニューノーマルの社会の中、変化していく価値観(新たな常識)に合わせて古い事業や時代に合わない事業を見直し、最新の状態にすることです。
リスク分散のためにも、事業ポートフォリオの再設計は重要です。やみくもに新規事業の数だけを増やしたり、相乗効果(シナジー)のある事業だけを選択したりすることではなく、全体としての事業ポートフォリオの最適化が求められます。キーワードは次の3つです。
事業の多角化・分散化によるポートフォリオの再設計
レジリエンスな事業ポートフォリオ構築において、事業の多角化は大きく4つに展開できます。
「取引先が大手1社に依存している」「売上高構成比の大半を主力単品商品が占めている」企業が、コロナ禍によって軒並み売上高を落とし、回復に時間を要しています。これからの時代、リスクを分散する事業ポートフォリオの設計は必須です。今の事業・組織の延長線上で考えるのではなく、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の再配分の断行、また、ミッションに基づいた事業ポートフォリオの設計が重要になります。
シナジーを生み出すポートフォリオの全体最適化
特定エリアに集中して、特定機能(アフターサービス)を強化することで、事業シナジーを生み出している事例を紹介します。
毎年人口が減少し続ける地方都市にあるA社は、新築住宅戸数で10年以上もトップを達成している工務店です。一戸建て新築事業が売上高の70%を占め、その他をリフォーム、不動産、介護事業が占める構成です。
シナジー効果に着目すると、不動産事業によって売り地を確保することで、新築の提供を有利に運ぶことができます。同社がリフォームを行い、改修済み住宅として提供することも可能。さらに、介護事業である機能訓練デイサービスの利用者から、「家を処分したい」といった案件情報を集めることもできます。
中でも同社の強みであり特長と言えるのは、OB顧客へのアフターサービスを徹底していること。具体的には「30年の無料定期点検」といったサービスと引き換えに、顧客を紹介してもらう仕組みがあり、これにより、施主の大半がOB顧客からの紹介で構成されています。同社にとって、アフターサービスは事業ポートフォリオを構築する上で極めて重要なファクターとなっているのです。
M&A戦略で成長を加速させる
ビジネスモデル転換の必要性や中長期戦略の実現のために、今こそM&Aを活用したいという声も少なくありません。
先行き不透明な経済環境の中、安易かつ多額のM&A投資はリスクが高いため、自社の中長期戦略に基づく具体的なM&A戦略を立てることが重要です。今まで以上に、M&Aの実行に「明確な目的」と「判断基準」が求められると言えます。
①インオーガニック戦略で事業ポートフォリオを最適化(M&A戦略の構築)
インオーガニック戦略とは、「既存の経営資源を利用して成長を実現する戦略(オーガニック戦略)」に対し、「他社との提携・他社の買収などを通じて成長を行うこと」。主なメリットは、「時間を短縮できる」「参入障壁を越えられる」の2点です。②欲しい会社を手に入れるターゲットM&A
自社の中長期ビジョン・M&A戦略を明確にした後は、条件に合う企業をリサーチしていけばおのずと具体的な企業名を挙げたリストが出来上がります。戦略に合う具体的企業をリサーチ&リストアップして積極的に買収を打診する方法を、タナベ経営では「ターゲットM&A」と呼んでいます。
ターゲットM&Aの流れとしてまず、自社の中長期ビジョンとM&Aの目的を明確にした後、買収候補先の企業を具体化します。そして、候補先の大まかな基準を設定した「ロングリスト」(絞り込む前段階の買収候補先)を作成します。
リストから事業内容や財務状況などを基準にスクリーニング(ふるい分け)し、候補先を絞り込みます(ショートリストの作成)。具体的な候補先を選出した後、いよいよ買収を提案していきます。
③M&A成功のカギを握るPMI
M&A戦略のゴールは、「M&Aで中長期ビジョンを実現させる」こと。すなわち、グループに加わった買収企業をどのように自社へ取り込んでいくかということと密接に関わります。 買収後の企業価値を高める統合フェーズであるPMIは、買収の意思決定後に決めるのではなく、戦略を立案している段階からゴール感を持って取り組むことが必要です。PMIは、譲渡企業への権限委譲度合いにより、大きく3つのパターンがあります。 1つ目は「集中型」。譲り受け企業側のマネジメントを強化し、譲渡企業側を本社と一体で組織運営していく場合です。再建型や事業承継型のような経営不振・トップ不在の場合に大きな効果を発揮します。 2つ目は、原則として譲渡企業に経営を任せる「調整型」。グループ全体の経営方針など、全社に関わる項目は譲り受け企業から指示を出しますが、それ以外は各社に委ねる方法です。 3つ目は、譲渡企業に全面的に任せる「分権型(ほったらかし型)」。クロスボーダー(国際間M&A)案件や異業種買収時に、企業風土などを損ねないようにするため用いられる方法です。 自社グループにどの方法が適合するかは、M&A戦略を立案する段階で想定し、買収調査を経る過程で詳細を固めていくことで決定されます。企業によっては、あらかじめPMIのルールを決めて買収を実行する場合もあります。 今回は、レジリエンスカンパニーとなるための事業ポートフォリオ戦略について解説してきました。Vol.4では、レジリエンス戦略における事業戦略のうちの「開発戦略」について見ていきます。 ※本コラムはタナベ経営主催「2021年度経営戦略セミナー」テキストを抜粋・編集したものです。 2022年11月2日(水)~11月29日(火)開催の経営戦略セミナーについてはこちら