コロナショックは世界の人・モノの動きと経済活動を強く制限し、企業経営に大きなインパクトを与えました。影響が長期化する中、企業は「低成長×非連続×高速変化」という環境下で経営のかじ取りを求められています。
コロナショックが従来の経済危機と異なるのは、「しばらく耐えれば、来年には回復する」という見通しが通用しないことです。本連載では、「社会・顧客に対する本質的な価値」を問い直し、事業環境の変化に応じて自らをしなやかにアップデートして、新しい社会を提案していく「レジリエンス戦略」について解説していきます。
レジリエンスとは本来、「復元力・回復力・弾力」という意味を持つ言葉です。これを企業で考えると、「しなやかに、強い」企業ということになります。
ここでは、基本戦略となる「レジリエンス戦略」について、「事業環境の変化に応じて、自らを『しなやかに強く』変幻自在にアップデートして新しい社会を提案していく戦略」と定義します。
「低成長、非連続、高速変化」の環境においては、既存事業の改善やコスト削減の追求に努めても、企業が勝ち残れるとは限りません。理想は、経済危機で受けたダメージに対して復元・回復するというより、そもそも復元・回復が必要となる前に自ら変わり続ける会社をつくることです。
レジリエンスカンパニーに求められる7つの条件
「レジリエンスカンパニー」、つまり「事業環境の変化に応じて自らを『しなやか』にアップデートして新しい社会を提案する」企業に求められる7つの条件を見ていきます。
条件1.【ミッション】新しい社会に問い掛けるミッションの存在
社会の価値観が大きく変化する中、顧客から選ばれる企業であり続けるために、今まで以上に「社会における存在意義(=貢献価値)」の重要性が高まっています。貢献価値は単なる“慈善活動”ではなく、「事業戦略のコア」に進化してきています。
レジリエンスカンパニーは社会の変化・課題に対し、「自社にできること」を自発的に問い掛け、新たな価値を社会に提供しようという行動が生まれるのが特徴です。この行動を継続することが、ステークホルダーとの強い信頼関係やブランド作りにつながります。
条件2.【ビジネスモデル】レジリエンスを実現する多角化戦略
事業の多角化・リスクの分散化が、企業のしなやかさ・柔軟性を決める大きな要素になります。今後さらなる変化が待ち受けることを鑑みると、事業の多角化は必要不可欠です。単なるリスクヘッジではなく、変化に対してしなやかに業績を伸ばす“攻め”の戦略であることも視野に入れなければなりません。
最もポピュラーな多角化戦略は、サプライチェーンの多角化です。市場が衰退しない限り、多角化を突き詰めることでリスクヘッジは理論上、100%に近づきます。ここで、多角化戦略について「守り」と「攻め」の視点で見ていきます。
守りの視点での多角化戦略の意義とはリスク分散であり、自社の価値の広義化が方向性を定める切り口になります。例えば、飲食店の価値を「安心・安全な食生活の提供」と捉えるなど、自社の製品・サービスが消費者にとってどのような価値があるのかを見直すことで、不変的な市場での自社のポジションが見えてきます。
自社の広義の価値を明確化できたら、次は広義でのサプライチェーンの多角化を進めます。既存事業の市場縮小が見込まれる場合、増加が予測される事業領域を選定する必要があります。
一方、攻めの視点での多角化戦略の意義とは「ポートフォリオで成長する」ことであり、自社の強み(存在価値)を生かした社会課題への展開、これまでになかった付加価値の創造に着目すべきです。
そのために企業が取るべき戦略は、広義化された市場内の課題に対し、自社の強みを当てて、網羅性を高めるとともに自社の強み(=付加価値創造の可能性)を高めることです。したがって「攻め」という視点で見ると、中長期的な視点で「事業を育てる」思考が前提となります。
条件3.【組織モデル】変化対応力のあるフレキシブルな組織モデルの構築
新しい戦略やビジネスモデルが構築されても、実行がうまくいかないときには、戦略と既存の組織モデルが不整合を起こしている場合があります。過去に成功した事業と組織が成功体験の呪縛を解けず、環境変化に対応できず機能不全に陥っているのです。
組織に求められる条件は「しなやかさと強さ」です。日本企業の組織の多くは、「決まった製品・サービスを、決まったオペレーションで提供することを前提とした組織設計」です。意思決定についても、オペレーションレベルは現場に委譲されているものの、基本方向の意思決定は組織全体で行われることが大多数。こうした組織は、単一製品・サービスの提供には効率的ですが、「非連続に高速変化する」環境下では対応力が課題となります。
しなやかな組織を運営するのは、まぎれもなく人材です。今後は現場レベルで「カスタマーサクセス(=顧客が求める付加価値をスピーディーに実現する)」を実現するため、臨機応変に意思決定し、事業を推進する「経営者人材」をどれだけ多く備えているかが重要な課題となるでしょう。多様な価値観、能力、特性を持つ人材は、新たな環境に対する対応力の源泉となります。
条件4.【経営システム】OODAループ思考による意思決定モデルの進化
不確実性に翻弄される環境下では、スピード重視の経営こそが競争優位性を高める重要な要素となります。そのためのマネジメント手法として、「OODAループ思考」が求められています。
OODAとは
ビジョンの実現・目標の達成に向け個々の(現場の)意思決定者がリアルタイムでデータを収集し、この瞬間に起きている環境変化に合わせて、現場レベルで判断・実行することにより、組織全体で目的を達成していくための意思決定プロセス
OODAループとは、米国の軍事戦略家であるジョン・ボイドによって提唱された理論であり、Observe(観察)、Orient(情勢の判断)、Decide(意思決定)、Act(行動)という4要素で構成されます。
現場情報に基づいた即断即決型の「即興対応」が競争優位性の新たな源泉であり、それを可能にするのが、「OODAループを組織的に素早く回す」ことです。環境変化に即時対応できる次世代の組織を築くためには、OODAループ思考を取り入れ、組織として取り組むことが求められています。
条件5.【財務・収益モデル】リバウンドしない収益構造と効率重視のKPIモデル
コロナショックによる需要減は長期化する見込みであり、企業経営においては「効率的に利益・キャッシュを生み出す体質」への改革が必須となっています。
一方、対症療法的なコストダウンではなく、効率的に収益性を高めるための投資を進める企業もあります(テレワークの導入・拡大など)。ウィズ・アフターコロナ時代には、次の3つの着眼で財務・収益改革に取り組むことが必要です。
①損益分岐点を軸としたリバウンドしない収益構造改革
レジリエンスカンパニーが目指すべき損益分岐点比率は70%以下です。企業の成長段階で損益分岐点比率のバランスが崩れることがあっても、早期に70%以下に復元させる力を持っているのがレジリエンスカンパニーの条件です。②CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)による資金効率の最大化
CCCとは、原材料などに資金を投入してから売り上げを回収するまでの期間(運転資金回転期間と同義)です。計算式は「売上債権回転日数+棚卸資産回転日数―支払債務回転日数」となります。 CCCが長ければ、より大きな資金が在庫や売掛債権に滞留し、売り上げが増えてもなかなか手元に戻らないため、次の設備投資に回す資金も確保しにくいことになります。逆にCCCが短ければ、売り上げの伸びにキャッシュの増加が伴い、次の投資機会へ迅速に対応できるという好循環が生まれます。③ROICによる投資効率の評価
事業性評価において、効率的に利益を上げられているかを測る指標として注目されているのが、ROIC(投下資本利益率)です。ROE(株主資本利益率)、ROA(総資産経常利益率)の分子が純利益(または経常利益)であるのに対し、ROICの分子はNOPAT(税引き後営業利益)です。 つまり、有利子負債と株主資本を投下して、どれだけ事業で利益を上げることができたのかを測る指標であり、事業の形態にかかわらず、平等に事業のパフォーマンスを測れる点で注目されています。
日本の上場企業(銀行、金融、保険、証券、先物などを除く)のROICは平均約6%といわれています。付加価値アップにより「価格プレミアムを乗せる」、あるいは「製品をより効率的に生産する(コスト削減、資産効率の改善)」ことでROICを向上させることが重要になります。
※本コラムはタナベ経営主催「2021年度経営戦略セミナー」テキストを抜粋・編集したものです。
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