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コラム 2024.12.23

外注化が広がる「IR」活動 企業価値が上がる「統合報告書」を考える⑴

IR支援会社の利用率が直近10年で約8割に

上場企業の経営規律を定めた「コーポレートガバナンス・コード」(以降CGコード)が2015年に策定されて以降、投資家に自社の強みと成長性をアピールする「IR」(Investor Relations:投資家向け広報)業務を外注する企業が急増しているという。

日本IR協議会(会長=手代木功・塩野義製薬会長兼社長CEO)の調べによると、IR支援会社を利用する上場企業の割合が2024年で約8割(79.9%)に上り、CGコード策定前の2014年(61.5%)と比べ約18ポイント上昇した。東京証券取引所が上場企業のCG原則をまとめた2004年(52.5%)から14年までの上昇幅(9ポイント増)に比べ倍増ペースである。(【図表1】)

 

 

【図表1】IR支援会社を利用する企業の割合の推移

出所:日本IR協議会「IR活動の実態調査」(第7回~第31回)を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

同協議会が上場企業に今後利用したいIR支援サービスを聞いたところ(複数回答)、「アニュアルレポート(年次報告書)・統合報告書の作成」が47.7%と最も多く、次いで「株主判明調査」(45.0%)や「開示資料の英文化」(43.1%)などが続く。

中でも目を引くのがアニュアルレポート・統合報告書の作成ニーズの高さだ。過去10年の推移(2014~24年、隔年調査)を見ると、今後利用したい企業の割合は33.1ポイント増と大きく上昇した。それとともに統合報告書を作成している企業の割合も10年(2013~23年、同)で38.9ポイント増と大幅に伸びている。(【図表2】)

 

 

【図表2】「統合報告書を作成している」企業の割合および「アニュアルリポート・統合報告書の作成」支援サービスを今後利用したいと答えた企業の割合

出所:日本IR協議会「第31回『IR活動の実態調査』」(2024年5月15日)を基にタナベコンサルティング・戦略総合研究所作成

 

 

統合報告書とは、企業の財務情報(売り上げや利益、資産の状況)と非財務情報(理念や人的資本、知的財産、環境・社会・ガバナンスなどESG)、今後の方針・戦略を取りまとめ、ステークホルダーに向けて発信する報告書である。

従来、財務情報は「有価証券報告書」(有報)や「アニュアルレポート」、非財務情報については「CSR(企業の社会的責任)報告書」と発行物を使い分けてきた。統合報告書はこれらを文字通り一つに統合したもので、上場企業にサステナビリティ情報(人的資本、ガバナンス、多様性、気候変動への取り組み)の有報への記載が義務付けられた2023年以降、作成する企業が急増している。上場企業だけではなく、強みの可視化や社外への宣伝を目的に非上場の中小企業や大学・団体が発行するケースも増えている。

また、株主判明調査とは、株主名簿上には表れない国内外の機関投資家の実質株主を特定するサービスである。企業が株主総会での議案賛否のシミュレーションを行う際に、株主の正確な議決権行使を把握するため調査する。アクティビスト(物言う株主)による社長解任議案や他社による敵対的買収の増加に伴い、対抗措置を講じる目的で調査を依頼する企業が増えている。また、開示資料の英文化については、2025年4月から東証プライム市場で英文資料開示が義務化されるため、ニーズが高まっている。

一方、現在利用している主な支援サービスの年間費用を見ると(【図表3】)、アニュアルレポート・統合報告書の作成が約1381万円と最も金額が高い。株主判明調査(約437万円)や海外IR活動のサポート(約234万円)など、その他のサービスに比べると3~6倍の差がある。ただ、アニュアルレポート・統合報告書は作成費用の負担が重いにもかかわらず、支援会社の力を借りたいというニーズは最も高いことから、それだけ多くの企業が作成に苦労しているということがうかがえる。

 

 

【図表3】IR支援会社の主なサービスの年間平均費用

出所:日本IR協議会「第31回『IR活動の実態調査』」(2024年5月15日)を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

 

なぜ統合報告書を出す企業が増えているのか

前述したように、IR支援会社のメニューで企業のニーズが最も高いのは「統合報告書の作成」だった。事実、統合報告書を作成する企業が近年明らかに増えている。IR支援会社の「宝印刷D&IR研究所」(東京都豊島区、鎌田浩嗣社長)の調べによると、統合報告書の発行企業数は2013年の96社から2023年には1019社と、10年間で10.6倍に急増した。

統合報告書の発行企業が増えているのは、2013年から始まった政府主導のコーポレートガバナンス改革が背景にある(【図表4】)。日本企業がバブル崩壊後の長期停滞から脱するためには、ガバナンスの強化による経営の透明性確保が大きな課題だった。その一環で適切な情報開示と投資家との対話が重視され、財務情報とともに「記述情報」(経営方針・戦略やリスクなどの非財務情報)の充実が必須となり、これらの情報を分かりやすく説明できるツールとして統合報告書が注目されるようになった。

 

 

【図表4】統合報告書が注目される背景

出所:タナベコンサルティング戦略総合研究所

 

 

さらに、近年は統合報告書の発行を求める投資家の声が年々強まっている。生命保険協会(会長=永島英器・明治安田生命社長)が機関投資家に行った調査(2023年)によると、「企業との対話で統合報告書をどの程度活用しているか」との設問に対し、「対話時には必ず確認している」が46.3%、「必要に応じて活⽤している」が26.3%と合わせて約7割(72.6%)の機関投資家が活用しており、2019年から18.6ポイント増と大きく伸びていた(【図表5】)。また、投資先企業がESG情報を開示する望ましい媒体として、最も回答が多かったのも「統合報告書」(81.4%)だった。(【図表6】)

 

 

【図表5】企業との対話で統合報告書をどの程度活用しているか(単一回答)

出所:生命保険協会『生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組みについて』(投資家向けアンケート集計結果、2019~23年度)を基にタナベコンサルティング・戦略総合研究所作成

 

 

【図表6】投資先企業のESGの開示媒体として望ましいもの(3つまで選択可)

出所:生命保険協会『生命保険会社の資産運用を通じた「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組みについて』(投資家向けアンケート集計結果、2019~23年度)を基にタナベコンサルティング・戦略総合研究所作成

 

 

とはいえ、統合報告書はそう簡単に作成できる代物ではない。確かに発行企業数は増えているものの、日本IR協議会の調査(2023年)によれば、まだ半数以上(55.9%)の企業は作成していないのが現状だ。

同協議会が統合報告書を作成していない企業にその理由を聞いたところ、最も多い回答は「作成に向けた人的リソースなどの社内リソースが不足しているため」(56.6%)だった。これはIR業務の外注化を進める企業の動きを裏付けるものといえる。次いで「統合報告書に記載する内容(価値創造ストーリー、マテリアリティの特定など)の整理ができていないため」(39.3%)、「自社にとっての統合報告書の作成意義や、費用対効果がよく分からないため」(28.7%)などが続く。

つまり、統合報告書の作成では、社内リソースの不足、記載内容の未整理、不明瞭な費用対効果という3つが大きな壁となっているようだ。このうち3つ目の費用対効果については、投資家のダイベストメント(資金引き揚げ)防止が統合報告書を作成する最大のメリットと考えられるため、株価下落や融資拒絶などの金融リスクと1000万円超の作成コストを比較衡量すれば、おのずと自社の費用対効果は見えてくる。

問題は残りの2つだが、「餅は餅屋」というように外部の専門家に餅をついてもらった方が効率的・合理的である。どの専門家の力を借りるべきか、協力先の選定が重要なポイントとなる。その際はESGの専門知識や出版物の編集経験だけでなく、経営理念、マネジメント、バリューチェーンなどトータルの視点から企業価値を評価できるパートナーを選びたい。

 

タナベコンサルティングの統合報告書制作サービス

タナベコンサルティングの統合報告書制作サービスは、経営コンサルタントが伴走することでその効果を最大限に引き出すのが特徴だ。経営を熟知したコンサルタントが企業の優れた価値を洗い出し、それらをデザインコンサルタントが視覚的に分かりやすく表現することで、経営視点に基づいた総合的な情報発信をサポートできる。ビジネス戦略とクリエイティブなデザインの融合により、企業のメッセージを明確かつ魅力的に伝え、ステークホルダーの信頼と共感を得られるよう支援している。

統合報告書の制作をご検討の方はぜひ一度ご相談いただきたい。

 

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