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コラム 2024.09.06

M&Aを成長戦略と捉え、経営計画に盛り込む企業が増加

「2024年度 M&A・事業承継に関するアンケート」リポート

タナベコンサルティングは2024年8月、「2024年度 M&A・事業承継に関するアンケート調査」リポートをまとめた。本稿では調査結果の一部を抜粋して紹介する。

 

約7割の企業がM&Aを前向きに検討

 

アンケート調査から、およそ7割の企業がM&Aを実施または前向きに検討していることが明らかになった。2023年度と比べると、「譲受に興味・関心がある」は8.6ポイント上昇。M&Aが身近になり、大手・中堅・中小企業間でも活発に行われていることを背景に、M&Aの活用が有効な成長戦略の手段として検討されていることが分かる。

 

特に近年、M&Aに関わるアドバイザー(仲介会社など)が増え、M&A案件に関する情報収集の機会も大幅に増加。そうした中、「興味・関心がある」と回答した企業の割合は増えているものの、「検討中、あるいは直近で実施済」の割合は2023年度とほぼ変わっていない。ここから、M&Aに対する関心は高まっているものの、実行に移すには依然としてハードルがあることがうかがえる。

 

グラフ1 M&Aの検討状況

 

M&Aを検討しない理由で最も多かった回答は、「M&Aに頼らない自力成長を柱としているため」。ただし2023年度に比べ、当該理由を挙げた回答者の割合は大きく減少している。特に経営リソースが限られる中堅・中小企業にとって、非連続な成長を実現するためにはM&Aが有効な手段となり得ている。

 

あわせて、M&A実行フェーズの課題も浮き彫りになった。「自社にマッチする企業が見つからない」「以前M&Aを検討したがうまくいかなかったため」と回答した企業が一定数存在している。

 

M&Aは成長戦略に有効な手段であるが、その戦略を実現するための実行ノウハウもM&A成功の重要な要素である。

 

 

長期的目線で譲渡を検討。譲受企業の見極めを重視

 

譲渡(売却)の検討理由のトップは、2024年も引き続き「後継者不在」(31.6%)だが、昨年の53.1%から大幅に減少した。

 

一方、「自社の成長」(28.9%)や「会社・事業の再建」(15.8%)など、長期的な視野により譲渡の検討をする企業が増加。後継者不在というネガティブな面だけでなく、持続可能な発展に目を向けたサステナブルな成長を目的としたM&Aが増えている。

 

グラフ2 譲渡(売却)を考えたきっかけ

 

譲受側に求める内容としては、昨年同様の「今後の成長戦略」(55.3%)、「企業風土」(50.0%)に加え、「経営者の人柄」(60.5%)も重視される結果となった。ここから、M&A後の企業の将来性や従業員が安心して働けるかを経営者が重視していることがうかがえる。

 

また、「譲渡後、経営者を派遣してくれるかどうか」にも関心が高い(10.5%)。特に後継者不在が原因のM&Aにおいては、マネジメント層派遣が相手選びの重要な要素となる。

 

譲受側に求めることで重視しているポイント

 

譲渡(売却)時期については、「早ければ早いほど良い」が大幅減の2.9%(2023年度:18.8%)となり、逆に「良い相手が見つかったら」が大幅増の31.4%(2023年度:12.5%)となった。これはコロナ禍で落ち込んだ業績が回復し、焦って譲渡する企業が減少したことを示唆している。

 

譲渡企業は、譲受企業が自社の将来性および従業員にとって最適な企業かをしっかり見極めることを重視しているのである。

 

 

「事業のシナジー」「人材」を重視して譲受を実施

 

譲受(買収)を考えるキッカケは、「既存事業の拡大」が40.5%で最も多く、次いで「事業ポートフォリオの拡充」30.4%、「人材の確保」13.5%であった。

 

昨年度は「既存事業の拡大」が86.6%であったが、今年度は「事業ポートフォリオの拡充」の割合が大幅に増加。事業ポートフォリオ戦略に対して関心が強まったことが分かる。

 

※2024年度は同設問の選択肢を改定

 

譲受のきっかけ

 

M&Aの取り組みについて、「過去に1~4社譲受(買収)の経験がある」企業は、昨年とほぼ変わらず31.1%。「相手探しを始めたところ」と回答した企業は11.5%(7.0ポイント増)だった。

 

また、中期経営計画にM&A戦略を「盛り込むことを検討している」「現在盛り込んでいて、M&A実施中」「盛り込んでいるがM&Aは進んでいない」を合わせると61.5%に上る。中期経営計画にM&A戦略は必須であり、M&Aを実施する際の指針の必要性は各社の共通認識になりつつあることがうかがえる。

 

他方、中期経営計画にM&A戦略を盛り込んでいるが進んでいない割合は16.9%に上り、実行フェーズで苦戦している実情が分かる。

 

譲受(買収)側が重視するポイントとしては、「事業上のシナジーの創出」が75.7%と最多。次いで「譲渡価格」が54.1%、「譲渡(売却)側の人材」が50.0%だった。

 

昨年度も上位3項目は同内容であり、譲受企業はシナジーによる成長や人材の確保による企業価値の向上を目指してM&Aに取り組んでいることが分かる。

 

案件を検討する際の重視ポイント

 

M&Aを検討する上での懸念ポイントについては、社内のM&A推進体制(経営企画、担当者)の不足を挙げる企業が56.8%(昨年比12ポイント増)で最多となった。

 

仲介会社やFA会社から案件の持ち込みが増える中、自社の戦略にマッチする案件の初期検討や譲渡側とのやり取りを担う窓口人材が不足していることがうかがえる。

 

また、「デューデリジェンスに懸念点がある」と答えた企業も昨年比7.3ポイント増の30.4%に上る。デューデリジェンスではビジネス、財務・税務、労務、法務等に関して調査を行うが、実施範囲に明確な答えがなく、見落とし等のリスクや調査結果をどのように活かすかという判断が難しいことが影響していると考えられる。

 

 

「今後の成長」を実現するM&Aが必須

 

M&Aは中堅・中小企業にも広く浸透し、9割以上の企業が「一般的な手法」として認識している。今後はM&Aを経営にどのように取り入れていくのかが企業の課題となるだろう。

 

譲渡企業について押さえるべきポイントは3つある。

 

1.譲渡のきっかけが多様化し、「自社の成長」を重視する企業が増加
「後継者不在」によるM&Aブームは落ち着きつつあり、喫緊で事業承継を実現しなければいけない企業数は減少傾向にある。言い換えると、追い込まれて決断するのではなく、「企業存続・成長」の観点から譲渡を選択する企業が増えており、一定の交渉期間を取りながら、「今後の成長」を実現するM&Aが求められる。

 

2.譲受側に求められる「経営者の人柄」「成長戦略」
譲渡企業は、M&A後の自社の姿を重視して検討を重ねている。M&Aを通じてどのように成長していくのか、また自社を委ねられる経営者の人柄であるかがポイントとなる。譲受企業の成長戦略(中長期ビジョンやM&A戦略)を掘り下げ、信頼できるパートナーかどうかを見極める必要がある。

 

3.スピードよりも内容重視
2024年はスピードよりも内容を重んじ、「良い相手が見つかったら実行したい」と考える企業が増加。今後は譲受企業の見極め材料(情報)の入手・判断等の課題が多くなるだろう。譲受企業にとっては、譲渡企業への適切な情報発信が必要となる。

 

 

経営者人材育成はM&A成功のための最優先事項

 

譲受・譲渡側双方にとってポイントとなるのが「経営者人材」である。譲渡企業に経営を任せられる人材がいることはまれであり、譲受企業が経営者人材を派遣するケースが多い。譲渡企業からすると経営者人材のいない会社には任せられない、という判断にもなり得る。

 

一方、譲受企業にとって経営者人材を継続的に輩出することは難しく、譲渡企業からはオーナー退任後も仕組みで回る体制であることを望む声が多い。譲渡企業の成長を実現するため、お互いが「経営者人材」を最優先に育成すべきである。

 

自社の経営者人材や幹部人材など上位層に対しての教育・育成の仕組み、内容についてぜひ一考いただきたい。同時に、M&Aを実施しやすい組織体制の整備も併せて検討いただきたい。

 


【調査概要】

調査名称 2024年度 M&A・事業承継に関するアンケート調査
調査主体 株式会社タナベコンサルティング
調査手法 メルマガ・WEBサイトでのご回答:364件