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コラム 2024.01.10

収益拡大に向けた投資判断基準が不明確な企業は約60% 「2023年度 企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート調査」リポート

タナベコンサルティングは、上場企業を中心とする全国の企業を対象に実施したアンケート調査結果(有効回答数:168件)をもとに、2023年12月、「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート調査REPORT」をまとめた。本稿では調査結果の一部を抜粋して紹介する。

 

 

企業価値を測る指標にROEを活用する企業は約80%

 

企業価値とは、企業全体の経済的な価値である。具体的には、将来的に創出されるキャッシュフローが現時点でどのくらいの価値なのかを判断する財務指標だ。この指標において重要となるのが資本生産性である。

 

調達した資本(負債・株主資本)を用いてどれだけのリターンを創出できるのか、そのリターンがステークホルダーから求められている基準を満たしているのかを判断するためには、資本生産性の計測が不可欠である。

 

その資本生産性を判定する指標として現在最も活用されている指標はROE(自己資本利益率)であり、約80%の企業が採用している。近年、注目されているROIC(投下資本利益率)は計測手法や社員浸透度合いから、まだメジャーであるとは言えない。

 

 

 

 

また、投資判断基準が明確になっていない企業が約60%と、ファイナンスリテラシーが十分でない企業が多いことがうかがえた。特にCFO(最高財務責任者)が不在もしくは機能していない企業ほど、この傾向が顕著だった。

 

 

 

 

 

収益向上に向け、約70%の企業が事業開発や拡大へ再投資

 

収益向上に向けた今後の取り組みとして、最も回答数が多かったのは「事業開発や拡大への再投資」(約70%)。次いで「DX(デジタルトランスフォーメーション)」(約60%)だった。コロナ禍を経て蓄積した潤沢なキャッシュを投資に振り向けている企業が多いと推察される。

 

 

 

 

半面、投資判断基準については、「基準が明確になっていない(存在しない)」と「(基準はあるが)運用が不十分」を足した回答が、どの収益拡大戦略においても約80%だった。明確な基準がない、もしくは基準に基づいた判断が実行できていない中で、意思決定を行っている企業が多いといえる。

 

 

 

 

 

非財務戦略のマテリアリティとKPIを設定できている企業は40%弱

 

近年、非財務資本(人的資本、社会資本など)を軸とした、非財務的な企業価値が注目されている。「財務資本を背景とした経済的価値に、非財務資本である社会的価値と環境的価値を統合したものが、真の企業価値である」という認識が広まりつつあるためだ。

 

ESG・SDGsへの取り組みを通じて非財務資本を最大化し、有効活用することが、持続的な企業価値の向上につながる。企業は財務的アプローチだけでなく、非財務的アプローチにも取り組む必要がある。

 

しかし、自社のマテリアリティ(重要課題)を絞り込み、KPI(重要業績評価指標)を設定してマネジメントできている企業は約40%に満たない。

 

 

 

 

企業の間でESG・SDGsに対する認識は浸透しており、かつ約80%の企業が、非財務資本向上の取り組みは企業価値向上につながると認識している。しかし、マテリアリティおよびKPIを設定できている企業は半数に満たないなど、回答企業のジレンマがうかがえる。

 

 

 

 

 

企業価値向上の取り組み状況は売上規模で“二極化”

 

今回のアンケート結果で浮き彫りなったのが、売上規模の大小で取り組み状況に差がある“二極化”である。売上規模が大きい企業は、投資判断基準が明確かつ運用できており、ESG・SDGsへの取り組みも十分に行えている。半面、売上規模が小さい企業は、明確な価値判断がないまま戦略を行っていたり、非財務資本への取り組みも不十分だったりする実態がうかがえる。

 

また、CFOの存在も非常に重要である。CFOが存在しない、あるいは財務責任者としての役割を十分に行えていない企業は、資本コストへの意識が低く、投資判断基準が不明確など、経営戦略の指針を有していない状態にある。そのような中、財務戦略家としてのCFOを有している企業は全体の約50%にとどまっており、人材確保の課題は大きい。

 

非財務資本向上の取り組みも必要不可欠である。しかし、売上規模が小さい企業だけでなく、上場企業であっても十分に取り組めていない実態がある。東証が掲げる基準「PBR(株価純資産倍率)1倍以上」に向け、ESG・SDGsへの取り組みは避けては通れない課題といえる。

 

 


【調査概要】

アンケート名 : 企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート
調査目的 : 企業における「企業価値向上に向けた取り組み」に関する内容を把握し、今後の企業の成長発展に向けた取り組みへの参考情報として提供する
調査方法 : インターネットによるアンケート調査
調査期間 : 2023年10月16日~2023年11月2日
調査エリア : 全国
有効回答数 : 168件

 


「2023年度 企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート調査REPORT」の全体版(無料)には、業種別の回答など、より詳細な調査結果と、タナベコンサルティングの提言を掲載しています。