人材を「コスト」ではなく「資本」ととらえる
経済産業省によると、欧米の主要国と比べて日本は人材への投資が少ない上、投資の割合が年々減少しているという。一方で、投資家のおよそ7割が投資の際に「人材への投資」を重視しており、企業の意識との差が目立っている。企業は人材を「コスト」ではなく「資本」ととらえ、組織と人材が互いに選び合う自律的な関係へと変わるべきである。
従来の経営と「人的資本経営」はどのように違うのか。「人材マネジメントの目的」「アクション」「イニシアチブ」「ベクトル・方向性」「個と組織の関係性」「雇用コミュニティー」の観点で見ると、人材の価値を見える化しオープンであること、経営戦略と人材戦略が一致していること、多様性を生かし個と組織が相乗効果を生む関係であることなどが特長として挙げられる。
経営戦略としての人材戦略を構築する
人的資本経営の基本的な考え方を示すため、経済産業省は2020年9月に「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」(以降、人材版伊藤レポート)を発表した。また、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、人的資本の情報開示が求められたことは記憶に新しい。
人的資本経営を実現するためには、どのような点に留意すればよいのだろうか。人材版伊藤レポートには、人材戦略の「3つの視点」と「5つの共通要素」が記載されている。
【3つの視点】
①経営戦略と連動しているか
②目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握(見える化)できているか
③人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか
【5つの共通要素】
①目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、多様な個人が活躍する人材ポートフォリオを構築できているか(動的な人材ポートフォリオ)
②個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながる環境にあるのか(知・経験のダイバーシティ&インクルージョン)
③目指すべき将来と現在との間のスキルギャップを埋めていく(リスキル・学び直し)
④多様な個人が主体的、意欲的に取り組めているか(社員エンゲージメント)
⑤時間や場所にとらわれない働き方(柔軟な働き方)
人的資本への取り組みを考える中で、最も重要とされているのは経営戦略と人材戦略の連動である。人材戦略の立案は人事部任せにせず、経営層や取締役会が参加し、経営戦略とのつながりを意識しながら、具体的な戦略・アクション・KPI(重要業績評価指標)を考える必要がある。
▼参考資料
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書 人材版伊藤レポート2.0」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf