損害保険各社が2022年10月1日以降、火災保険の「10年契約」を廃止する。損害保険料率算出機構が火災保険料の目安となる参考純率の最長適用期間を「5年」に短縮したためだ。ゲリラ豪雨や巨大台風など自然災害リスクの増加により、火災保険の将来の収支予測が難しくなったことが背景にある。「100年」「1000年」に一度といわれる大災害がほぼ毎年発生し、「10年先のリスクまで補償できない」というわけだ。
もっとも、将来の収支予測は10年先どころか5年先すら難しい。一般企業においても、着地のブレ幅が大きい長期経営計画を策定する企業が減少し、3年程度の中期経営計画を策定する企業が増加している。産業経理協会が10年ごとに行っている調査(「わが国企業予算制度の実態調査」)によると、バブル崩壊直後の1992年には長期経営計画(計画期間5年以上)を策定する企業が半数近く(49.7%)を占めていたが、2002年になると2割以下(19.7%)に激減した。一方、中期経営計画(計画期間1年超5年未満)を策定する企業の割合は1992年の約7割(70.8%)から、2012年には8割以上(87.2%)に増加した(【図表1】)。今年(2022年)に実施予定の第4回調査では9割を超える可能性が高い。
【図表1】長期経営計画と中期経営計画の策定状況(策定している企業の割合)
ここ数年来、「VUCA※(ブーカ)の時代」といわれて久しい。洪水や土砂災害だけではなく、東日本大震災や熊本地震などマグニチュード7超の大地震、トンガ沖で発生した海底火山噴火による津波被害など、この10年間だけで想定外の災害が多発した。リスクは自然災害だけではない。リーマン・ショックを端緒とした世界金融危機、新型コロナウイルス感染症の世界的流行、さらにロシアのウクライナ侵攻に伴う大規模な経済制裁など、全く予測不能な変化の波が押し寄せている。
思いも寄らない環境の変化が強く(影響力)、速く(波及スピード)、絶え間なく(短間隔)やってくるとなれば、むしろ周到な長期計画を練り上げるよりも、変化に対して臨機応変に中期経営計画を見直すことが重要となる。「中小企業白書(2021年版)」によると、新型コロナウイルス感染流行後に経営計画を見直し、いち早く実行に移した企業は、コロナ禍による減収から業績を大きく回復させていた。(【図表2】)
【図表2】コロナ禍における経営計画の対応別に見た売り上げ回復企業の割合
経営計画を見直す際は、経営陣の意思決定の精度と速度が求められる。そのため経営判断に資するソフトウエアやサービスの力を活用し、組織内の戦術的・戦略的意思決定をサポートするビジネスが注目を浴びている。
調査会社のマーケッツアンドマーケッツ社の予測によると、経営意思決定支援ビジネスの世界市場はCAGR(年平均成長率)13.5%と2桁台の成長を続け、その市場規模は2021年の48億米ドル(約6000億円、1ドル=125円換算)から2026年には約1.8倍の90億米ドル(約1兆1250億円、同)に達すると見込まれている。(【図表3】)
【図表3】経営意思決定支援ビジネスの世界市場規模の推移
現在はコロナ禍を機にデジタル技術の進歩とリモートワークの普及が進み、経営者だけでなく、業務レベルでの意思決定の迅速化と質的向上に対するニーズも強まっている。そこで鍵を握るのが「デジタルデータ」の活用である。総務省の「情報通信白書(2020年版)」によると、デジタルデータの活用による具体的な変化・影響として、「業務効率の向上」(54.8%)に次いで「意思決定の向上」(45.4%)の割合が高い。また業種・業界や企業規模とは関係なく、同様の傾向が見られる。
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字。不確実性が高く、将来予測が困難な状況を示す造語