その他 2021.03.01

国内消費の主役は「自炊」
外食費「減った」50.4%、内食費「増えた」34.1%


2021年3月号

 

 

 

 

「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」。医学の父・ヒポクラテスが言うように、健康維持には規則正しい食習慣が欠かせない。だが新型コロナウイルスの感染拡大で、食卓が内にあるか外にあるかによって食事が薬のみならず“毒”にもなる事態となり、外出自粛ならぬ“外食自粛”が進んでいる。

 

財務省の「貿易統計」によると、スパゲティ・マカロニの輸入数量が2020年1~11月の累計額で16万6509トン(速報値、前年同期比23.3%増)となり、従来の年間最高記録(2017年:14万9361トン)を上回った。コロナ禍に伴う「巣ごもり消費」で、自宅での調理需要が増えたことが要因とみられている。

 

コロナ禍の影響で、日本人の食習慣が大きく変化しつつある。ノルウェー水産物審議会(本部:ノルウェー・トロムソ)が日本の消費者約400人に行った調査によると、3人に1人(36.6%)が「コロナ禍で料理を作る頻度(1日当たり)が増えた」と回答した。性別で見ると男性が30%、女性は43%が「増えた」と答えていた。(【図表1】)

 

 

【図表1】コロナ禍における料理頻度の変化

出所:ノルウェー水産物審議会「おうち時間の料理・食習慣の変化、およびコロナ禍の悩みに関する意識調査」(2020年10月22日)

 

 

実際、家で食材を調理して食べる家庭内喫食(以降、内食)の出費が増えている。ビッグローブが全国20~60歳代の男女1000人に、2020年の出費について前年(2019年)との増減を聞いたところ、「減った」と答えた人が最多だった費目は「外食費」(50.4%)、次いで「娯楽費」(44.6%)、「洋服・ファッション購入費」(36.5%)などが続いた。逆に、「増えた」と答えた人が最も多かった費目は「食費(内食)」(34.1%)、次いで多かったのが「水道光熱費」(28.0%)だった。コロナ禍により不要不急の外出を控えたため、浮いた外食費や娯楽費などが内食の充実に回ったと思われる。(【図表2】)

 

 

【図表2】2020年の出費の増減状況(2019年との比較、n=1000)

出所:ビッグローブ「2020年に関する意識調査」(2020年12月17日)

 

 

内食の国内市場規模は2019年時点で40兆9254億円(【図表3】)と極めて大きい。そこで総務省統計局の「家計調査」(2人以上世帯)から、コロナ禍における消費者の“自炊”に対する支出動向を確認してみよう(【図表4】)。2020年1~11月累計の食料支出は86万3123円(前年同期比0.3%減)。節約傾向が顕著な消費支出全体(同5.6%減の302万106円)に比べ微減にとどまり、日本人はコロナ禍でも食費を削っていないことが読み取れる。

 

 

【図表3】内食、中食、外食市場の推移

出所:日本フードサービス協会「外食産業市場規模推計について(2019年)」、日本惣菜協会「惣菜白書」(各年版)、日本たばこ協会「年度別販売実績推移表」、内閣府「2019年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA)」よりタナベ経営作成

 

 

【図表4】1~11月累計の家計調査の推移(2人以上世帯、1世帯当たり、単位:円)

※内食支出は「食料支出」から「調理食品(中食)」と「外食」を引いたもの
出所:総務省「家計調査(全国・2人以上の世帯)」を基にタナベ経営が加工・作成

 

 

ただ、食料支出のうち「外食」は11万8329円(同26.3%減)とデータをさかのぼれる2000年以降で最大の減少幅となった。一方、近年需要が拡大している「調理食品(中食)」は11万7367円(同2.8%増)となり、外食とほぼ並ぶ支出額まで増えている。

 

それ以上に伸びているのが内食である。内食への支出額(食料支出から調理食品と外食を引いて算出)は62万7427円(同6.2%増)と大きく伸びている。また、内食率(消費支出全体に占める内食支出の割合)も2020年5月に過去最高(24.3%)となり、それ以降も20%台の高水準で推移している。

 

【図表4】の食料支出を品目別に見ると、とりわけ前年からの伸びが目立つのが「肉類」(前年同期比11.2%増の8万8562円)と「野菜・海藻」(同8.9%増の10万2077円)、「油脂・調味料」(同8.8%増の4万2748円)、「酒類」(同14.4%増の4万1056円)など。近年、サンマやイカなど大衆魚の不漁による価格上昇で購入が避けられていた「魚介類」(同5.0%増の6万6420円)も2015年以来5年ぶりに支出が増えた。

 

肉と酒類への支出の伸びが突出していることから、ビールやワインを片手に自宅でぜいたくな肉料理を楽しむ人が増加していることがうかがえる。また、野菜・海藻への支出が2000年以来20年ぶりとなる10万円台に達していることも注目される。在宅勤務中の人たちが家族に手作りのディナーを振る舞うケースが増えているのかもしれない。いずれにせよ、コロナ禍による外食自粛(オンライン飲み会、自炊頻度の増加)が大きく影響していると考えられる。

 

ちなみに主な農畜産品の消費支出について2000年以降の推移を見ると、「米」が大きく減少し、「生鮮果物」は横ばいであるのに対し、「生鮮肉」「生鮮野菜」は増加傾向が続いている(【図表5】)。消費者のコメ離れに歯止めがかかっておらず、肉と野菜の“主食化”が進んでいる。コロナ禍によるライフスタイルの変化で、食の欧米化がいっそう加速する可能性もある。

 

 

【図表5】主な農畜産品の世帯当たり(2人以上世帯)

      消費支出の推移(各年11月時点、2000年=1.00とした指数)

出所:総務省統計局「家計調査(家計収支編)」(2人以上の世帯)からタナベ経営が加工・作成

 

 

一方、食卓の内食シフトで活況を見せているのがスーパーマーケットだ。日本チェーンストア協会が発表した2020年の全国スーパー総販売額は12兆7597億円、前年比(既存店べース、以下同)0.9%増と、2015年以来5年ぶりにプラスへ転じている。特に好調だったのは「食料品」で、4.7%増の8兆7466億円と大幅に増加した。

 

内訳を見ると、農産品が7.9%増の1兆2723億円、畜産品が8.4%増の1兆620億円、水産品6.3%増の8017億円、総菜0.2%減の1兆576億円など。生鮮3品(鮮魚、精肉、青果)の好調さが目立つ半面、主力部門の総菜(中食)が不調だった。総菜は日持ちがせず買い置きできないため、買い物の外出回数を抑えたい消費者が購入を避けたとみられる。

 

またコロナ禍により、いわゆる「産直農産品」(卸売市場を経由せず直接産地から小売店や消費者に流通させる国産青果物)と呼ばれる市場外流通の規模が拡大している。インターネット通販で生産者が消費者に旬の食材を直送する「オンラインマルシェ」が人気を呼んでいるほか、「道の駅」に併設された農産物直売所や、加工食品メーカーが提携する契約農場なども売り上げが好調という。

 

矢野経済研究所の調べによると、2019年の産直農産品市場規模は前年比4.2%増の2兆9424億円(事業者による流通総額ベース)と3兆円に迫り、4年前(2015年:1兆5131億円)の約2倍に拡大した(【図表6】)。2024年には3兆5489億円(2019年比20.6%増)に達すると同社は予測している。

 

 

【図表6】産直農産品市場規模推移・予測

出所:矢野経済研究所/プレスリリース(2020年9月28日)

 

 

産直農産品は生産者や実需者(小売り・外食チェーン、加工食品メーカーなど)によって価格が設定されるため、相場の影響を受けずに販売できるメリットがある。食材の鮮度を重視する消費者、新たな収入源を確保したい農家、仕入れ価格を安定化させたい実需者という3者の思惑に支えられ、産直農産品の市場規模はコロナ収束後も拡大を続けるとみられている。