「グリーン・リカバリー(緑の復興)」を訴えた民主党のジョー・バイデン氏が第46代米大統領に就任した。地球温暖化に背を向け続けたトランプ前大統領の政策をひっくり返すのは確実だ。2019年に離脱した「パリ協定」(地球温暖化対策の国際的枠組み)への復帰、2050年のGHG(温室効果ガス)※排出実質ゼロに向けたクリーンエネルギーのインフラ・技術に対し、4年間で2兆ドル(約214兆円)を投資する計画を表明している。
バイデン新大統領による政権移行チームウェブサイト(https://buildbackbetter.gov)では、クリーンエネルギーの主な投資領域として自動車産業や都市交通機関、再生可能エネルギー、住宅、農業と環境保全、GHGの約7割を占めるCO2(二酸化炭素)の排出技術、充電池、次世代の建築材料、再生可能な水素、先進的な原子力などが挙げられている。
いずれにせよ、世界で2番目にGHGを多く排出する米国が脱炭素化政策にかじを切ることで、2021年の世界経済は環境保全や持続可能な循環型社会づくりで変革と成長を図る「環境革命」へ動き出す。
IEA(国際エネルギー機関)によると、2020年のCO2排出量(307億トン)はコロナ禍による経済停滞で前年から26億トン減少し、1900年以降で最大のマイナスとなる見通しだ(【図表1】)。ただ、コロナ禍の収束以降は再び増加することが確実視されている。UNEP(国連環境計画)の試算では、パリ協定の「2℃目標」(産業革命以降の世界平均気温上昇を2℃未満に抑制)を達成するには、2020年から2030年まで毎年2.7%ずつCO2排出量を削減する必要があるという。
【図表1】企世界のCO2排出量の推移(1900-2020年)
脱炭素化の切り札とされるのが、太陽光発電や風力、水力発電などの世界の再生可能エネルギー(以降、再エネ)だ。IEAの推計によると、2020年の再エネ発電能力は前年比3.9%増の198GW(ギガワット)と過去最大に上る(【図表2】)。これは全世界の発電能力増加分の約90%を占めるという。2021年は同9.7%増の218GW、22年は271GW(加速化ケース)と予測。世界の総発電量に占める再エネの割合は2025年までに33%に達し、石炭に代わる最大の電力供給源となると見込んでいる。
【図表2】世界の再生可能エネルギー発電能力の推移
2050年までの世界累計のGDPを
98兆ドル押し上げ(IRENA)
一方、日本は菅義偉首相が2050年までにGHG排出量の実質ゼロを目指す「2050年カーボンニュートラル(炭素中立)」を表明したほか、全国193自治体も「2050年までにCO2排出実質ゼロ」(ゼロカーボンシティ)を宣言。その自治体人口が約9010万人と日本の総人口の7割を超えた(環境省調べ、2020年12月15日時点)。戦後4度にわたるエネルギー転換期を経験した日本は今、脱炭素化という新たな転換点を迎えている。(【図表3】)
【図表3】戦後日本のエネルギー選択と転換のメガトレンド
こうした中、コロナ禍からのレジリエンス(復元)に向け、日本経済の新たな基幹産業として期待されているのが環境産業だ。環境省の推計によると、国内環境産業の直近(2018年)の市場規模は105兆3203億円(前年比3.1%増、以下同)、雇用規模は約260.9万人(1.0%増)といずれも過去最大を記録(【図表4】)。全産業に占める環境産業の市場規模の割合は2000年の6.1%から2018年には10.1%へ上昇し、日本の経済成長の主要エンジンとなりつつある。
【図表4】国内環境産業の市場規模(推計)
分野別(市場規模)では、最も市場規模が大きい「廃棄物処理・資源有効利用」が47兆8165億円(0.2%減)、次いで「地球温暖化対策」が37兆712億円(9.7%増)、「環境汚染防止」12兆326億円(0.6%増)、「自然環境保全」8兆3999億円(1.4%減)となり、2桁近い伸び率となった地球温暖化対策市場が全体をけん引した形となった。
地球温暖化対策分野は、自動車の低燃費化(低燃費・低排出認定車、ハイブリッド車)や太陽光発電システム市場の成長で2000年(3兆9931億円)から約9倍と急激に拡大している。内訳を見ると「省エネルギー化」15兆1019億円(7.2%増)、「自動車の低燃料化」15兆267億円(15.3%増)、「クリーンエネルギー利用」6兆8940億円(4.1%増)、「排出権取引」486億円(0.4%増)といずれもプラス成長だった。
環境産業は今後も拡大を続け、2050年の市場規模は約133兆4674億円まで成長すると予測(環境省)されている。このうち最も構成比が大きいのは地球温暖化対策(62兆6342億円)の46.9%。地球温暖化対策分野の内訳を見ると「自動車の低燃費化」(24兆7932億円)が最大規模で、次いで「省エネルギー建築」(19兆2069億円)、「クリーンエネルギー利用」(10兆5245億円)、「省エネルギー輸送機関・輸送サービス」(5兆4677億円)などが続く。
環境産業の市場拡大に伴い、企業によるグリーンインフラ・技術関連の研究開発投資も増加傾向にある。総務省が発表した統計データによると、2019年度における日本の環境・エネルギー分野の研究開発費は2兆4548億円(前年度比7.5%増)と3年連続で増加しており、この中で最も投資額が大きいのは企業による投資である(【図表5】)。企業の研究開発費は1兆9354億円(同7.9%増)と、環境・エネルギー分野全体の約8割を占めている。
【図表5】日本の環境・エネルギー分野への研究開発費の推移
政府は企業のグリーン投資を後押しするため、2021年度税制改正で脱炭素化へ設備投資を行う企業の減税措置を設けたほか、重点14分野で実行計画と数値目標などを盛り込んだ「グリーン成長戦略」を策定。脱炭素化の技術開発を支援する2兆円の基金を創設し、約15兆円の研究開発や設備投資を引き出したい考えだ。政府はこれらの施策による経済効果を2030年に年90兆円、2050年には年190兆円に上ると見込む。目標年度(2050年度)に向けて企業のグリーン投資が長期的に活発化していくとみられる。
IRENA(国際再生可能エネルギー機関)によると、大規模な脱炭素化を進めるには最大130兆ドルの再エネ投資を要するものの、エネルギーシステムが転換されれば世界のGDP(国内総生産)を2.4%押し上げ、その上昇分は2050年までの累計で98兆ドルに達し、1ドルの投資に対して3~8ドルの見返りが得られるという。
そのため脱炭素化への投資は大きなビジネスチャンスになるとみて、世界の有力企業も事業化に本腰を入れ始めている。例えば、アマゾン・ドット・コムやマイクロソフトは2020年に気候変動ファンドを新設(「ベゾス・アース・ファンド」「気候イノベーション・ファンド」)し、環境・エネルギー関連企業へ積極的に投資を行っている。またアップルは2020年7月、2030年までに製造サプライチェーンや製品ライフサイクル全体でカーボンニュートラル達成を目指すと発表している。
※GHG:Greenhouse Gasの略。二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスなど