減速する外食、成長する中食
加工食品の比重高まる日本の食産業
2020年3月号
「不況に強い」といわれる日本の食産業が堅調だ。外食、中食(調理済み食品)、内食(家庭内での調理)を合わせた市場規模は2018年で75.7兆円(前年比0.7%増)に達し、2012年から7年連続で増加した(【図表1】)。これは医療・福祉(70.9兆円)や建設(68.3兆円)※1を上回る規模だ。
【図表1】内食、中食、外食市場の推移
ただ、食産業の市場規模を10年前(2008年)と比べると、拡大を維持している内食(16.3%増)や、9年連続増の中食(24.8%増)とは対照的に、外食(5.2%増)の伸びが弱い。いまや食産業は“国民の生命維持装置”と言える不可欠な存在だが、外食市場については今後減退していくとの見方が広がっている。
東京商工リサーチの調べによると、2019年の飲食業倒産件数が前年比8%増の799件となり、2年ぶりに前年を上回った。バブル末期の1990年以降では2011年の800件に次いで2番目に多い。負債額1億円未満、資本金1000万円未満の倒産件数が全体の約9割を占めるなど、小規模事業者の倒産が目立つ。業態別では、「食堂、レストラン」(227件)が90年以降の最多記録を更新した。
同社は倒産増加の背景として、慢性的な人手不足と人件費上昇、消費者の支出抑制などに加え、“起業ブーム”を挙げている。近年、自治体や金融機関が創業支援を推進しており、甘い事業計画で開業する事業者も多いという。また2020年4月より「改正健康増進法」「東京都受動喫煙防止条例」が施行し、飲食店は原則禁煙が義務化※2される。分煙室や換気装置などの設備投資を迫られ、資金難から倒産・休廃業する店が増える可能性もある。
農林水産省の農林水産政策研究所がまとめた食料消費の将来推計によると、2040年時点の日本の外食支出額(総世帯)は2015年に比べ5%減と縮小する見通し。15年比11%増の加工食品(中食)とは対照的だ(【図表2】)。人口減少に加えて、単身世帯の増加で外食から中食への転換が進むとみられている。また2人以上世帯でも内食から中食へのシフトが進み、食料支出のうち半分以上を加工食品が占めるようになるという。
【図表2】食料支出額の予測(2015年=100)
ただ、世界に目を転じると外食産業はチャンスも多い。農水省が取りまとめた世界(主要34カ国)の飲食料市場規模の推計結果によると、外食の世界市場規模は2030年時点で306兆円(2015年の約1.5倍)に拡大、そのうち約7割を北米(125兆円)とアジア(93兆円)が占める。海外の日本食レストランの数はアジアの伸び(2013年約2.7万店→2019年約10.1万店)が突出(【図表3】)。さらに2019年の訪日外国人観光客(3188万人、【図表4】)の飲食費が1兆円の大台を突破した(【図表5】)。その主役を演じたのはアジアである。
【図表3】海外の日本食レストランの数
【図表4】訪日外客数
【図表5】訪日外国人の飲食費
今後の食産業は、需要が内食から中食へとシフトし、加工食品の支出割合が上昇して1人当たり食料支出額は拡大する一方、人口減少の進展で食料支出総額は長期的に縮小するとみられる。特に、中食と競合する外食企業は、増加する訪日外国人観光客の取り込み、デリバリー(宅配)やテイクアウト(持ち帰り)サービスによる中食への参入、アジアを中心とした海外進出など、新商品・新事業・新市場に対する取り組みを急ぐ必要がある。
※1 医療・福祉と建設の市場規模は2017年時点(出典:総務省「情報通信白書(令和元年版)」)
※2 改正法は資本金5000万円以下の事業者かつ客席面積100m2以下の飲食店のみ喫煙可としているが、東京都条例は従業員を雇用する飲食店全てが禁煙(分煙も禁止)となる