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コラム 2026.06.10

『中堅企業白書』が大学ゼミへ 立命館大学経営学部・寺﨑ゼミでの活用

タナベコンサルティングが2025年12月に発刊した『中堅企業白書2026』が、立命館大学経営学部・寺﨑新一郎教授のゼミにて授業の題材として活用された。2026年5月22日に行われた寺﨑ゼミでは、経営学を学ぶ学生たちが白書を手元に置き、コンサルタントとともに中堅企業の姿について議論する一コマが実現した。

 

当日の概要

当日は、タナベコンサルティング戦略総合研究所本部長・細江一樹が講師として登壇。白書の内容をもとに、グループワークも織り交ぜた講義が行われた。参加したのは、立命館大学で経営学を学ぶ4年生のゼミ生たちだ。就職を目前に控え、企業で働く未来像が現実味を帯びる中、学生たちは企業がどのような環境下にあり、何を考え、求めているのかに強い関心を持っている。講義中は熱心にメモを取る様子が見られ、講師との対話も終始活発に展開された。



「なぜ今、中堅企業なのか」——新たな企業区分が生まれた背景

講義はまず、「中堅企業」という区分そのものの説明から始まった。「中堅企業」が法的に定義されたのは2024年のことであり、それ以前は大企業と中小企業という二区分が一般的であった。新たに設けられた中堅企業の定義は「従業員数2000人以下かつ中小企業を除く企業」だ。現在、日本全国に約9000社が存在するとされている。

 

なぜこの区分が生まれたのか。その背景には、日本が直面する人口減少と国内市場の縮小がある。市場は飽和し、人口が減り続ける中で「量の拡大」を追い続けることは難しく、企業は「質の転換」を迫られている。

 

そうした環境下で注目されたのが、大企業にはない機動性(意思決定の速さ)と、中小企業にはない継続投資の余力を併せ持つ中堅企業という存在だ。国はこれを「地域経済のハブ」と位置付け、日本経済成長の主役として期待を寄せている。大企業が約1300社にとどまる一方、中堅企業は約9000社が全国各地に根を張る。その広がりと厚みこそが、地域雇用と経済を支える力になるのだ。

 

こうした日本経済の構造的課題や「中堅企業」を取り巻く現状を整理した上で、学生たちとのディスカッションは進んだ。

 

グループワークから生まれた議論

グループワークでは、白書の調査データをもとにした議論が行われた。

 

テーマ①:中堅企業のトップが最重視する経営課題とは 最初のテーマは「中堅企業のトップマネジメントが、今の経営環境において特に重視している役割」である。白書にまとめられた「中堅企業経営に関するアンケート調査」では、回答1位(40.2%)が「社員の意識改革・人材育成」という結果であった。学生たちはグループに分かれ、なぜこの項目が首位になるのかを議論した。

  トップマネジメントとして、今の経営環境において特に重視している役割

出所:タナベコンサルティンググループ「中堅企業白書2026」

 

——リソースが限られているからこそ、一人一人の生産性を上げることがパフォーマンスに直結するのではないか

 

——同じ理念や目標を共有することで、人材の定着率向上にもつながるのではないか

 

——人が入れ替わるたびに教育コストがかかる。だから育成と定着が最優先になる

 

各グループから出た意見は、いずれも本質を突くものであった。これに対し細江は、こう補足した。

 

「今は企業が人を取り合っている時代。大手も中堅も中小も、採用難という点では同じ状況です。だからこそ、今いる社員にどれだけ活躍してもらえるかに軸足が移っています。転職が当たり前になった時代だからこそ、エンゲージメントの向上が最重要課題になっているんです」

 

「転職を前提としたキャリアを考えているか」という細江の質問には、約6割のゼミ生が挙手。「同じ会社で働き続けたい」と答えた学生も、より良い条件の会社が他にあれば転職する可能性はあると話した。

 

テーマ②:サステナビリティへの取り組みをどう見るか 続くテーマは「企業がサステナビリティに取り組む理由」。「中堅企業経営に関するアンケート調査」では、約65%の企業が何らかの取り組みをしていると回答している。

  サステナビリティ(ESGを含む)への対応状況

出所:タナベコンサルティンググループ「中堅企業白書2026」

 

学生からは企業の動機について、「企業イメージの向上」「大手企業との取引に必要」「規制への対応」など多様な見方が出た。一方で「サステナブルな商品が少し高くても買うか」という問いには、手を挙げた学生は20名中わずか1名にとどまった。

 

この結果を受け、寺﨑教授は「製品カテゴリーによって、サステナビリティに対する消費者の感度は大きく異なります。実用品に比べ、贅沢品は生活必需品ではないため、サステナビリティへの配慮によって価格が上昇しても、消費者の不満は生じにくい傾向があります。また、こうした評価には心理的距離も大きく関わります」と指摘。

 

「例えば、フェアトレードのチョコレート。ヨーロッパでこうした商品に対する意識が高い背景には、植民地化の歴史への反省があります。生産地であるアフリカとの心理的距離が近く、自分事として捉えやすいのでしょう。BBC(英国国営放送)ニュースではアフリカ関連の報道が一定割合を占めますが、日本のメディアではほぼゼロに近い。そうした距離感の違いが、消費者行動の差として表れています」。学生たちの実感から、企業の取り組みと消費者意識のギャップという構造的課題が整理された。



学術の視点から見る中堅企業の存在意義

講義の結びに、寺﨑教授は中堅企業が日本経済に果たす役割について次のように述べた。「経済複雑性指数(ECI)によれば、日本の産業エコシステムの多様性は現在も世界トップクラスにあります。その多様性を支えているのが中堅企業です。一社一社の規模は大きくなくても、それぞれが固有の技術や顧客基盤を持ち、産業全体を下支えしています。こうした層を着実に育成していくことが、日本の国力の底上げにつながります」

 

また、グローバル展開の本質的意義についても言及しました。「国内で競合他社からシェアを獲得しても、それは“富の移転”にとどまります。真の“富の拡大”は、海外市場で外貨を獲得してこそ実現します。中堅企業には、その先駆けとして日本経済の成長をけん引する存在となることが期待されています」



『中堅企業白書』のダウンロードはこちらから

PDF版:https://www.tanabeconsulting.co.jp/knowledge/chuken-wp2026.html

 

冊子版:https://www.tanabeconsulting.co.jp/knowledge/chuken-leaf2026.html






寺﨑 新一郎(てらさき しんいちろう)氏
立命館大学 経営学部 教授

早稲田大学商学部卒業。同大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。九州大学経済学研究院助教等を経て現職。専門は経営学/マーケティング、観光学。主著に『グローバル社会の消費者心理:カントリー・バイアスから読む〈こころ〉』、『多文化社会の消費者認知構造:グローバル化とカントリー・バイアス』(ともに早稲田大学出版部)、翻訳書に『インタビュー調査法の基礎:ロングインタビューの理論と実践』(千倉書房)。受賞歴に日本マーケティング学会「日本マーケティング本 大賞2021」準大賞、2022年異文化経営学会賞および日本商業学会奨励賞(ともに著書部門)、2024年異文化経営学会賞(論文部門)など。日本マーケティング学会および異文化経営学会理事。消費者行動研究学会、国際ビジネス研究学会幹事。

 

細江 一樹(ほそえ かずき)
タナベコンサルティング 執行役員 戦略総合研究所 本部長

大学卒業後、商社の企画営業を経てタナベコンサルティングに入社。大阪本社と北海道支社にて地域の大手から中堅企業のコンサルティングに従事。「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成や社員総活躍の場を広げるコンサルティングに定評がある。特に、学校・教育業界における経営改革やマネジメントシステム構築を強みとし、大学、専門学校、高等学校、こども園などの経営改革の実績を持つ。2024年4月より戦略総合研究所本部長。2025年4月に中堅企業経営研究所を発足し、中堅企業の持続的成長に専門特化したナレッジの研究開発や情報発信を推進している。