業績によってM&Aの打ち手が分かれる
タナベコンサルティングは、全国の企業経営者、役員、経営幹部、管理職、経営企画部責任者・M&A担当者を対象に実施したアンケート調査の回答を基に、2025年12月、「2025年度 M&Aの取り組みに関する企業アンケート調査」をまとめた。本稿では調査結果の一部を抜粋して紹介する。
業績が好調な企業では、「会社・事業の譲受(買収)」について「検討・実施」(34.6%)や「関心あり」(53.8%)が突出しており、成長を加速させる手段として譲受を志向している結果となった。一方、業績が不調な企業では「譲渡(売却)」について「検討・実施」(6.9%)や「関心あり」(27.6%)が相対的に高く、再編や撤退を視野に入れていることがうかがえる。業績状況によって、M&Aの方向性が大きく分かれる実態が明らかとなった。
M&Aに関する検討・実施状況を年別に見ると、2025年には「譲受(買収)を検討中・実施済み」(21.7%)と「譲受(買収)に興味・関心あり」(34.8%)を足すと過半数に達しており、2023年から一貫して上昇傾向にある。一方で、「譲渡(売却)」についての検討・実施や関心は約1割にとどまり、「検討していない」は31.5%と前年とほぼ変わらない結果となった。自社の成長を目的とした譲受への関心は、年々高まっていることが分かる。(【図表】)
【図表】M&Aに関する検討・実施状況
出所 : タナベコンサルティング「2025年度 M&Aの取り組みに関する企業アンケート調査」 よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
検討していない理由として、「M&Aに頼らない自力成長を柱としている」と回答した企業が69.0%に達し、過去3年間で最も高い割合となった。前年の49.4%から大きく上昇しており、企業の多くがM&Aを選択肢に含めつつも、自力成長(オーガニック成長)を優先する姿勢を示している企業も一定数存在することが分かる。
譲渡を検討したきっかけとしては、「自社の成長を目的とした他社とのアライアンス」(27.3%)が最も多く、「後継者の不在」(22.7%)が続いた。かつては「後継者不在」が過半数を占めていたが、2023年と比較すると半減している。
また、「会社・事業の再建」(13.6%)や「不採算事業の整理」(13.6%)も一定数挙がっており、単一の要因ではなく多様な理由が上位に並ぶ構図へと変化していることが分かる。アライアンスや事業承継に加え、成長や再編を目的とした選択肢としてM&Aが位置付けられている状況がうかがえる。
譲受側に求める条件としては、「企業風土」(63.6%)と「今後の成長戦略」(54.5%)が過半数を占める結果となった。前年と比較すると「企業風土」は13ポイント以上上昇しており、企業文化的な親和性を重視する傾向が高まっていることが分かる。一方で、「経営者の人柄」(31.8%)は前回調査時より大きく減少しており、属人的な要素から組織全体の将来性や企業文化的な相性へと評価基準がシフトしている様子がうかがえる。
譲受(買収)に向けた検討状況では、上場企業では「実際に交渉・検討を行っている案件がある」(28.6%)や「社内で検討はしているが、具体的な対象は未定」(28.6%)が中心となった。一方、非上場企業では「社内で関心はあるが、何も着手していない」(22.9%)が比較的多く、上場企業に比べて初期段階にとどまる割合が高くなっている。
上場・非上場で異なる買収課題と体制整備
M&Aを検討・実行する上での懸念点として、上場企業では「ターゲット企業の情報が得にくい」(38.1%)や「PMI(経営総合プロセス)に不安がある」(33.3%)が上位を占めた。
一方、非上場企業では「M&Aを担う人材・経験者が社内にいない」(42.2%)や「譲受企業を任せる経営人材の不足」(36.1%)、「中期経営計画やM&A戦略の不明確さ」(33.7%)が目立ち、人材体制や戦略面に関する課題が多く挙げられた。上場企業と非上場企業で懸念点の性質には違いが見られるものの、いずれの場合でも継続的にM&Aを実施していくための社内の仕組みなどの整備が必要であることが分かる。
M&A人材の育成や知見の蓄積状況について、上場企業では「専門人材を配置している」(57.1%)が過半数を占めており、一定の体制構築が進んでいることが分かる。
一方、非上場企業では「知見・ノウハウが蓄積されていない」(36.1%)や「今後整備したいが未着手」(32.5%)が多く、外部への依存傾向が強い状況が見られた。上場企業と非上場企業の間で、専門人材などの整備の進捗度合いに明確な差が表れていることが確認できる。
M&Aを成功に導く3つのポイント
❶M&Aの目的と方向性を明確化する
業績状況や経営環境によってM&Aの動機は異なり、譲受・譲渡の双方に幅広い要因が挙がっている。まずは自社にとってのM&Aの目的を整理し、成長の加速、事業再編、承継などの方向性を明確化することが重要である。
目的を明確にすることで、候補探索や条件交渉においても一貫性を持った判断が可能となる。現状は業績の良い企業であっても、外部環境の変化によって反転する可能性があることも踏まえ、早期にM&Aに着手することが必要である。
❷ 外部機関との接点を拡充し、情報基盤を整える
譲受への関心は高まっているものの、情報や候補先の不足がM&Aの実行を制約している状況が見受けられる。
信頼できる専門家との接点を増やし、市場動向の把握や譲渡・譲受候補の探索、条件設定の知見を獲得するなど、情報基盤を整備することが必要である。また、信頼できる専門家と出会うためには、自ら積極的に行動することが重要である。
❸M&A人材育成と体制整備の必要性
非上場企業を中心に、「未着手」や「人材不足」といった回答が多く、M&Aに関する体制整備や知見の蓄積が進んでいない実態が明らかになった。M&Aを一過性の活動とせず、継続的に取り組むためには、社内の専門人材の育成やOJTの仕組み、責任体制の明確化など、組織的にM&Aを推進できる基盤を整える必要がある。
【調査概要】
| 調査名称: | 2025年度 M&Aの取り組みに関する企業アンケート調査 |
|---|---|
| 調査主体: | (株)タナベコンサルティング |
| 調査手法: | インターネットによる回答 |
| 調査目的: | 企業におけるM&Aの取り組み状況、課題を把握し、今後の成長と発展を支える提言を行うため |
| 有効回答数: | 217件 |