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コラム 2026.02.17

取適法(旧下請法)改正による中堅企業への影響~制度対応を「経営体制進化の機会」に変える~

取適法(旧下請法)とは?─サプライチェーン全体を変える転換点─

下請事業者の利益を守るための「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」が改正され、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」として新たに施行された。改正は単なる名称変更にとどまらず、サプライチェーン全体における取引適正化を目指す大きな転換点となっている。

 

法律の題名・用語の変更 出所:公正取引委員会「取適法リーフレット No.01 令和7年8月」より引用

出所:公正取引委員会「取適法リーフレット No.01 令和7年8月」より引用

改正の背景には、近年の急激な物価上昇と労務費の高騰がある。中小企業が賃上げの原資を確保し、持続的な成長を実現するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現が不可欠だ。

 

従来の下請法では、資本金基準のみで適用対象を判定していたため、保護の網の目から漏れるケースが存在していたという。特に、資本金は小さくとも従業員数が多い中堅企業や、フリーランスなどの個人事業主との取引において、不当な取引慣行が温存されるリスクがあった。

 

取適法は、発注者と受注者の対等な関係に基づき、事業者間における価格転嫁および取引の適正化を図ることを目的としている。中小受託事業者への不当な負担を減らし、健全なサプライチェーンを構築することで、日本経済全体の持続的成長を支える基盤を整備する狙いがある。



改正のポイント──「従業員数」という新たな基準が中堅企業を捉える

今回の改正により、取適法は従来の下請法から大きく進化した。主な改正ポイントは以下の通りである。

 

1.取適法の適用対象──「資本金は小さいが従業員は多い」企業も対象に

(1)従業員基準の追加

従来の資本金基準に加え、「常時使用する従業員数による基準」が新たに導入された。資本金基準または従業員基準のいずれかを満たす場合、取適法の適用対象となる。

 

製造委託・修理委託・特定運送委託等の場合:

・委託事業者(発注者):常時使用する従業員数が300人超

・中小受託事業者(受注者):常時使用する従業員数が300人以下(個人事業主を含む)

 

情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成等を除く)の場合:

・委託事業者(発注者):常時使用する従業員数が100人超

・中小受託事業者(受注者):常時使用する従業員数が100人以下(個人事業主を含む)

 

この従業員基準の導入により、「うちは資本金が小さいから関係ない」と考えていた中堅企業が、突如として規制対象となる可能性が生じた。

 

(2)対象取引の拡大──物流・型管理にもメスが入る

従来の4類型(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託)に加え、以下の取引が新たに対象となった。

 

特定運送委託:販売する物品や請負物品の運送を他事業者に委託する取引。物流業界における無償の荷役・荷待ち等の問題に対応するため追加された。

金型以外の型・治具等の製造委託:木型・樹脂型等の無償使用・保管などへの対価支払いを促進する目的で対象化された。

 

適用対象取引 出所:公正取引委員会「取適法リーフレット No.01 令和7年8月」より引用

出所:公正取引委員会「取適法リーフレット No.01 令和7年8月」より引用

2.委託事業者の義務──「曖昧な発注」は許されない

委託事業者(発注者)には、以下の4つの義務が課されている。

 

(1)発注内容等の明示義務

委託内容、代金額、納期、支払期日、支払方法等の重要事項を記載した書面または電磁的方法(電子メール等)で、直ちに中小受託事業者に明示する義務がある。改正により、電子メール等での明示は中小受託事業者の承諾を要しないこととなり、デジタル化が促進された。

 

(2)取引記録の作成・保存義務

取引完了後、取引記録を書類または電磁的記録として作成し、2年間保存する義務がある。

 

(3)支払期日の設定義務

中小受託事業者へ発注した物品等の受領日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を設定する義務がある。

 

(4)遅延利息の支払義務

支払期日までに代金を支払わなかった場合、物品等の受領日から60日を経過した日から実際に支払う日までの日数に応じて、年率14.6%の遅延利息を中小受託事業者に支払う義務がある。
改正により、正当な理由なく代金を減額した場合、減額分についても遅延利息を支払う義務が追加された。

 

3.委託事業者の禁止行為──「知らなかった」では済まされない11の違反

委託事業者には、以下の11項目の禁止行為が定められている。正当な理由なくこれらの行為を行うことは違法となる。

 

1.受領拒否:発注した物品・成果物の受領を拒否する行為

2.製造委託等代金の支払遅延:受領日から60日以内に定めた支払期日までに代金を支払わない行為

3.製造委託等代金の減額:発注後に代金を減額する行為(銀行振込手数料の差し引きも該当)

4.返品:発注物の受領後に返品する行為(不良品は受領後6か月以内は返品可能)

5.買いたたき:同種・類似品の市価に比べ著しく低い代金を不当に設定する行為

6.購入・利用の強制:委託事業者が指定する製品・原材料等の購入や保険・リース等の利用を強制する行為

7.報復措置:中小受託事業者が公正取引委員会・中小企業庁又は事業所管省庁に通報したことを理由に不利益を与える行為

8.有償支給原材料等の対価の早期決済:有償で支給する原材料等の対価を、製造した物品代金の支払日より先に支払わせる行為

9.不当な経済上の利益の提供要請:協賛金や従業員派遣など、委託事業者の利益のために経済的提供を不当に要求する行為

10.不当な給付内容の変更・やり直し:発注の取消し・変更、受領後のやり直しや追加作業をさせ、その費用を委託事業者が負担しない行為

11.協議に応じない一方的な代金決定(新設):中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず協議に応じない、または必要な説明を行わず一方的に代金を決定する行為

 

改正で新たに強化された禁止行為──「価格交渉の無視」と「手形払」にNO

特に注目すべきは、以下の2点である。

 

協議に応じない一方的な代金決定の禁止:価格転嫁を促進するため、受注者からの協議申し入れに応じる義務が明確化された。「忙しいから後で」「うちの方針だから」という一方的な対応は違法となる。

手形払等の禁止:手形による支払いを禁止し、電子記録債権や一括決済方式等で中小受託事業者が支払期日までに現金と交換しにくいものによる支払いをすることも禁止された。



中堅企業への影響──「対岸の火事」ではない、業界別の現実

従業員基準の導入により、従来は下請法の対象外だった中堅企業が、新たに取適法の規制対象となる可能性がある。業界ごとに想定される影響を整理していく。

 

製造業:外注加工・部品取引の価格協議──「従来通り」が通用しなくなる

製造業では、外注加工や部品調達において多数の中小受託事業者と取引を行っている。従業員数が300人を超える中堅製造業は、資本金が小さくとも委託事業者として規制対象となる可能性がある。

 

想定される影響

・原材料費や労務費の高騰を受けた受注者からの価格協議申し入れに対し、適切に応じる義務が発生

・外注先との価格決定プロセスの透明化・文書化が必要──「いつもの価格で」という口頭発注は通用しない

・発注書の電子化や取引記録の2年保存体制の整備

・支払条件の見直し(60日以内の支払期日設定、手形払の廃止)

 

IT・広告業界:業務範囲が曖昧な委託契約の見直し──「とりあえず進めて」が違法に

IT・広告業界では、プログラム開発やデザイン制作、コンテンツ制作などを外部に委託するケースが多く、業務範囲や成果物の定義が曖昧なまま発注されることがある。従業員数が100人を超える中堅IT・広告企業は、情報成果物作成委託や役務提供委託の委託事業者として規制対象となる可能性がある。

 

想定される影響

・発注内容(委託内容、納期、代金額、支払期日等)の明示義務により、曖昧な発注が許されなくなる

・仕様変更や追加作業が発生した場合の費用負担ルールの明確化──「ついでにこれもお願い」は追加費用の対象に

・フリーランスや個人事業主との取引における契約書の整備

・協議に応じない一方的な代金決定の禁止により、価格交渉プロセスの記録・保存が必要

 

物流業界:人件費の転嫁ルール明確化──「無償の荷役・荷待ち」が終わる

物流業界では、特定運送委託が新たに取適法の対象となったことで、大きな影響を受ける。無償の荷役作業や長時間の荷待ちなど、従来の商慣行が見直しを迫られる。

 

想定される影響

・荷役作業や荷待ち時間に対する対価の支払い義務の明確化

・運送委託契約における業務範囲と代金の明示

・ドライバーの労働時間管理と連動した支払条件の設定

・人件費高騰を受けた運送事業者からの価格協議への対応

 

その他業界への影響──建設、卸売、サービス業も無関係ではない

建設業、卸売業、サービス業など、幅広い業界で中小受託事業者との取引が行われている。従業員基準の導入により、これまで規制対象外だった中堅企業も、取引内容と従業員数によっては委託事業者として義務・禁止行為の対象となる。



中堅企業に求められる対策──「後回し」にできない5つのステップ

取適法の施行を受け、中堅企業は以下の対策を講じる必要がある。

 

1.自社における対象取引の洗い出し──「まず自社が対象か」を確認する

まず、自社が委託事業者として取適法の適用対象となるかを確認する。

 

確認すべきポイント

・自社の常時使用する従業員数(300人または100人の基準との比較)

・取引先の資本金または従業員数

・取引内容(製造委託、修理委託、特定運送委託、情報成果物作成委託、役務提供委託のいずれに該当するか)

 

従業員数は「発注した時点」で判定されるため、従業員数が基準の境界線付近にある企業は、定期的に確認する体制が必要となる。

 

2.自社の契約・支払い条件の見直し──「いつもの書式」を疑う

取適法の義務に対応するため、契約書や発注書のフォーマット、支払条件を見直す必要がある。

 

見直しのポイント

・発注書に必要事項(委託内容、代金額、納期、支払期日、支払方法等)が明記されているか

・電子メール等での発注内容明示の仕組みが整備されているか

・支払期日が受領日から60日以内に設定されているか

・手形払や電子記録債権等の支払方法を使用していないか

銀行振込手数料を受注者負担としていないか(減額に該当)

 

3.禁止行為の確認──無自覚に違反となるリスクを排除

11項目の禁止行為について、自社の取引慣行を点検する。特に、無自覚に違反しているケースが多い項目に注意が必要である。

 

注意すべき禁止行為

買いたたき:市価に比べ著しく低い代金設定をしていないか

不当な給付内容の変更・やり直し:仕様変更や追加作業の費用を受注者に負担させていないか

協議に応じない一方的な代金決定:受注者からの価格協議申し入れを無視していないか

不当な経済上の利益の提供要請:協賛金や従業員派遣等を不当に要求していないか

 

4.関係部門への教育──「知らなかった」を防ぐ

取適法の内容を、購買・発注・検収・経理など関係部門の担当者に周知徹底する。

 

教育のポイント

・取適法の目的と自社への適用範囲

・委託事業者の4つの義務と11の禁止行為

・違反した場合のリスク(勧告・公表・罰金、レピュテーションリスク)

・実務における具体的な対応方法(発注書の作成、価格協議の記録、支払管理等)

 

定期的な研修や、eラーニング等を活用した継続的な教育体制の構築が推奨される。

 

5.社内体制・協議フローの整備──「誰が、いつ、どう対応するか」を明確に

取適法に対応した社内体制を整備する。

 

整備すべき体制

・取引記録の作成・2年保存のための文書管理システムの導入

・発注内容の電子化(電子メール、EDI、クラウドシステム等)

・支払期日管理と遅延利息計算の仕組み

価格協議の申し入れに対応するフロー(協議の記録、説明責任の明確化)

・法令遵守状況のモニタリング・内部監査体制

 

特に、価格協議のフローは重要である。受注者からの協議申し入れに対し、誰が、いつまでに、どのように対応するかを明確にし、協議内容を記録・保存する仕組みが必要である。



対策の副次的効果──「コスト」が「競争力」に変わる

取適法への対応は、単なる法令遵守にとどまらず、経営体制の進化をもたらす機会となる。

 

1.価格決定プロセスが整理され、採算管理が精緻に──「どんぶり勘定」からの脱却

価格協議の義務化により、発注価格の根拠を明確にする必要が生じる。これにより、原価計算や採算管理のプロセスが整理され、より精緻な収益管理が可能になる。

 

期待される効果

・発注価格の妥当性を説明できる体制の構築

・原価変動(原材料費、労務費等)を適切に価格に反映する仕組み

・部門別・案件別の採算管理の高度化

 

2.取引条件が明確化され、無用な交渉・摩擦が減る──「言った・言わない」の解消

発注内容の明示義務により、契約条件が明確化される。これにより、後から発生する仕様変更や追加作業に関するトラブルが減少し、受注者との無用な交渉・摩擦が軽減される。

 

期待される効果

・契約内容の明確化による紛争リスクの低減

・仕様変更・追加作業の費用負担ルールの透明化

・受注者との信頼関係の向上

 

3.属人化していた取引判断が減る──「あの人しか知らない」リスクの解消

取引記録の作成・保存義務により、発注・検収・支払のプロセスが標準化される。これにより、特定の担当者に依存した属人的な取引判断が減少し、組織としてのガバナンスが強化される。

 

期待される効果

・発注・検収・支払プロセスの標準化・可視化

・担当者の異動や退職による業務の属人化リスクの軽減

・内部統制の強化

 

4.取引継続そのものの不安定リスクを最小限に抑えられる──「選ばれる発注者」になる

取適法に対応することで、「安心して取引できる企業」というシグナルを取引先に発信できる。これにより、優良な受注者との長期的な取引関係を構築しやすくなる。

 

期待される効果

・法令遵守企業としてのレピュテーション向上

・優良な受注者との安定的な取引関係の構築

・サプライチェーン全体の持続可能性の向上

 

5.取引先との関係が安定する──「Win-Win」の関係構築

適切な価格協議と公正な取引条件により、受注者との信頼関係が深まる。これにより、受注者のモチベーション向上や品質改善、納期遵守率の向上など、取引全体のパフォーマンス向上が期待できる。

 

期待される効果

・受注者のモチベーション向上による品質・納期の改善

・長期的なパートナーシップの構築

・サプライチェーン全体の競争力強化



さいごに──「コスト」か「経営進化のきっかけ」か

取適法への対応は、中堅企業にとって成長段階にふさわしい経営管理へ移行するためのチェックポイントでもある。

 

従来、中堅企業は「大企業ほど厳格な管理は不要」「中小企業のような柔軟な対応が可能」という中間的な立ち位置にあった。しかし、従業員数が一定規模を超えた段階で、組織としてのガバナンスや取引の透明性が求められるのは当然の流れである。取適法は、まさにその転換点を示している。

 

制度対策を「コスト」ととるか「経営進化のきっかけ」にするか。今がその分かれ目のタイミングである。

 

単なる制度対応のコストと捉えれば、最低限の対応で済ませようとする発想になる。しかし、これを「健全なサプライチェーンにおいて自社がさらなる成長を遂げるための経営体制の進化の機会」と捉えれば、価格決定プロセスの整理、取引条件の明確化、内部統制の強化など、企業価値を高める施策へと昇華できる。

 

中堅企業の経営層には、取適法対応を通じて、次のステージに向けた経営基盤の強化を図ることが期待される。今こそ、サプライチェーン全体の持続可能性を見据えた経営判断が求められている。



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【参考資料】

公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」

https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html

 

政府広報オンライン「2026年1月から下請法が『取適法』に!委託取引のルールが変わります」

https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html

 

公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」

https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/oyakinsi.html

 

中小企業庁「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~」

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2025/251014_01.pdf

 

公正取引委員会「取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項」

https://www.jftc.go.jp/toriteki/toriteki_ryuijiko

 


 

本コラムは2026年2月時点の情報に基づいて作成されています。最新の法令・ガイドライン等は公正取引委員会・中小企業庁の公式サイトをご確認ください。