2019年10月号
2012年12月以降の景気回復を背景に、広告市場が堅調だ。電通の調べによると、2018年の総広告費(国内で1年間に使われた広告媒体料と広告制作費の合計)は前年比2.2%増の6兆5300億円と、7年連続のプラス成長となった。(【図表1】)
広告市場は、媒体別に「マスコミ4媒体(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)」と「インターネット」、広告看板やチラシなどの「プロモーションメディア」という三つで構成される。2018年の内訳は、マスコミ4媒体が前年比3.3%減の2兆7026億円、インターネットは同16.5%増の1兆7589億円、プロモーションメディアが同0.9%減の2兆685億円となった。
このうち、まず目につくのがマスコミ4媒体の減少だ。ピークの2000年(3兆9973億円)から約1.3兆円の広告費が消えた。特に減少が著しいのは紙媒体(新聞、雑誌)で、ピーク時に比べ新聞は約3分の1(1990年:1兆3592億円→2018年:4784億円)、雑誌も半分以下(2005年:4842億円→2018年:1841億円)に減った。一方、ラジオはピーク時から半減したものの底入れし、近年は安定した推移を見せている。テレビも衛星放送が地上波の縮小をカバーし、1.9兆円台を維持している。
【図表1】日本の総広告費の推移
プロモーションメディアも4年連続の減少と元気がない。「折り込み(新聞チラシ)」(6.2%減)、「DM(ダイレクトメール)」(0.6%減)、「屋外(看板、ビジョン)」(0.3%減)、「フリーペーパー・マガジン」(5.4%減)などが前年を下回った。半面、「交通(中吊り広告や駅看板など)」(1.1%増)、「POP(店頭展示販促物)」(1.3%増)、「展示・映像ほか(イベント関連)」(5.8%増)が堅調だった。デジタルサイネージ(電子看板)の設置需要が伸びたことが要因だ。(【図表2】)
頭打ちの既存広告メディアとは対照的に、ネット広告は1996年から22年連続の増加、さらに5年連続の2桁増と好調だった。ネット広告が総広告費全体に占める割合は26.9%となり、シェアが4分の1を超えた。2018年のネット広告費(1兆7589億円)の内訳は、媒体費(広告主がメディアに支出した広告料)が18.6%増の1兆4480億円、制作費が7.7%増の3109億円で、媒体費がほとんどを占めている。
【図表2】プロモーションメディア広告費の推移
媒体費の約8割は、検索ワードに応じて表示される「検索連動型広告」(5708億円)と、サイトやアプリの広告枠に表示される「ディスプレイ広告(バナー広告)」(5638億円)が占めた。次いでYouTube(ユーチューブ)やニコニコ動画などの「ビデオ(動画)広告」(2027億円)、広告視聴者が何らかの行動を起こすと報酬が発生する「成果報酬型広告(アフィリエイト)」(990億円)などが続く。(【図表3】)
なお、電通グループでは2019年のネット広告媒体費が1兆6781億円(前年比15.9%増)に拡大すると予測。うち7割をスマートフォンやタブレット端末などのモバイル向け広告(1兆2493億円)が占めるとみている。このモバイル広告市場で急拡大が予測されているのがビデオ(動画)広告である。
【図表3】インターネット広告媒体費の広告種別構成比
サイバーエージェント(オンラインビデオ総研)の推計(【図表4】)によると、国内動画広告市場は2017年の1374億円から、2020年に2900億円、2024年には4957億円(17年比3.6倍)に達するという。「今後1年間で動画広告への投資割合を増やす」と答えた企業の広告宣伝担当者が約半数に達しているとの調査結果もあり、動画広告への投資を増やす企業の動きが加速していくことが見込まれている。
【図表4】動画広告市場規模推計・予測
その動画広告でいま、新たなプロモーション手法として注目されているのが「YouTuber(ユーチューバー)」の活用だ。ユーチューバーの国内市場規模は313億円(2018年、推計値)で、ユーチューブ広告収入(192億円)とタイアップ広告(95億円)で9割を占める(残りはイベント・グッズ収入の26億円)。ユーチューバー市場は5Gが実用化される2020年に475億円、2022年には579億円に伸びると予想されている。(【図表5】)
最近は人間だけでなく、CGキャラクターが動画を配信するバーチャル・ユーチューバー(Vチューバ―)も増えている。Vチューバー数は2019年5月に8000人を突破(ユーザーローカル調べ)し、積極的に活用する自治体や企業が続々と表れている。架空のアイドルや仮想キャラクターとタイアップし、プロモーション動画を制作・配信する中小企業も増えそうだ。
【図表5】国内YouTuber市場規模推計・予測
SNSやブログを通じて情報発信し、特定の層に強い影響力を及ぼす人を「インフルエンサー」と呼ぶ。オンラインでプロモーションを展開する上では、ユーチューバー、インスタグラマー、ブロガーといったインフルエンサーをマーケティングに活用することも重要である。インフルエンサー・マーケティングの市場規模(デジタルインファクトが推計)は、2018年で219億円、2028年には933億円に達する見込み。広告主の企業規模を問わず幅広い成長が期待されている。(【図表6】)
その一方、最近はネット広告需要の高まりとともに、不正な手段で広告効果を水増しするデジタル広告詐欺、いわゆる「アドフラウド(AdFraud)」の被害に遭う企業が増加しているという。適切な広告表記に関するルールの徹底や販促効果の「見える化」など、業界全体で早急な対策を講じることが課題となっている。
戦前、売上高の3分の1を広告宣伝に投じ、“日本の広告王”と呼ばれた森下仁丹の創業者・森下博氏は「広告による薫化益世を使命とする」(広告は単なる商売道具ではなく、社会に貢献するものでなければならない)と述べたことで知られる。ネット広告業界は、広告主を広告費の無駄打ちから防ぐためにも、今後はコンプライアンス(法令順守)体制の強化がいっそう求められよう。
【図表6】インフルエンサー・マーケティング市場規模