2019年9月号
日本の製造業で「現場のデジタル化」が進んでいる。経済産業省がこのほど公表した2019年版「ものづくり白書(製造基盤白書)」によると、生産現場でのデジタル化に取り組んでいる企業(取り組む意向がある未着手企業を含む)の割合は86.1%に上るという。(【図表1】)
※経済産業省「2019年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」
また、デジタル化によって収集したデータの利活用も進んでいる。製造工程における機械の稼働状態の「見える化」やトレーサビリティー(生産履歴の追跡)管理など、収集データを具体的な用途に活用している企業の割合が、過去3年間で増加傾向を示している。
だが、こうしたデジタル主導の見える化が進むにつれ、「(見せたくない情報を)見られる化」のリスクが高まっている。
ロシアの情報セキュリティー大手・カスペルスキー研究所が世界14カ国のビジネスパーソン7000人を対象とした調査(2019年5月)によると、企業内でデジタル化された雑多なドキュメント(書類)が整理・整頓されず、積もり積もったデータ(デジタルクラッター)となってさまざまな混乱を引き起こしているという。(【図表2】)
例えば、33%のビジネスパーソン(日本では34%)が、退職した職場の共有ファイルや共同作業向けサービス、メールに「いまだにアクセスできる」と回答した。これはデジタルクラッターが適切に削除されず、またファイルの共有や共同作業をするサーバーへのアクセス権の管理も不十分だったことが原因だ。
同調査では、業務でファイル共有や共同作業向けサービスを使う人(5866人)のうち、退職者やプロジェクトから外れた人のアクセス権を削除すると回答した人は43%(日本は30%)を占めた。また、37%(日本は14%)の回答者が、社内の機密情報(同僚の給与・ボーナスや口座情報、パスワードなど)を共有文書やファイル類、メールなどから偶然見てしまったことがあると答えた。
こうしたあふれ返るデータに対し、従業員の大部分(80%)は自分で作成したかどうかにかかわらず、適切な管理を保証する責任を感じていなかった。その一方で、従業員の72%は個人を特定できる情報や機密データ(名前・住所・メールアドレス・生年月日・金融情報など)が含まれる文書を保存していたという。
職場のデジタル化と見える化の進展により、クラウド環境や社内サーバーに保存データがため込まれていく。保護すべき重要なデータが、会社のコントロールが及ばないところに出回るリスクが高まる半面、データの保護責任に欠けている人が多いという現状に、同社は懸念を示す。
ところで、データをため込む可能性が高い人は、どのような性質を持つ人なのだろうか。同社によると、従業員の日常生活の中にはファイルや文書、データの整理状態と相関関係を持つと考えられる習慣が見られるそうだ。
調査結果によると、「自宅の冷蔵庫が片付いている人の95%は、業務で使うデータも整理できている」ことが分かったという(【図表3】)。一方、冷蔵庫に入っている品物の存在に気付かず、同じものを再び買ってしまった人のうち66%は、「職場でファイルや文書を探すのが難しい」と感じていた。
※Kaspersky Lab「デジタルクラッター 職場におけるデータの溜め込みを整理する」(2019年5月)
職場の机上やキャビネットの中はきれいでも、個人のパソコンや社内サーバーの中まで整理・整頓されているとは限らない。社内のデジタルデータの見える化が、きちんと管理・統制されているか。生産性を維持しつつ、サイバーリスクが抑えられているか。その精度を確かめるためにも、職場に置いてある従業員用冷蔵庫の扉を開け、中身をのぞいてみてはいかがだろうか。