人と組織の“ベンチャー化”が進む企業の研究開発
2019年5月号
【図表1】 学歴・属性別 研究開発者の新卒採用を行った企業割合の推移
企業の新規事業開発において、重要な投入資源の一つが「研究開発者」である。いくらIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)が進化を遂げたとはいえ、デバイスとアルゴリズム(問題解決のための方法・手順)が自動的に製品・サービス・ビジネスモデルを開発してくれることはない。それらを操り、開発するのは人間の仕事である。
近年、その研究開発者を新卒から採用する企業が増加傾向にある。文部科学省直轄の国立試験研究機関である「科学技術・学術政策研究所」(NISTEP)が2019年1月にまとめた「民間企業の研究活動に関する調査報告2018(速報)」によると、研究開発者の新卒採用を行った企業の割合が2017年度で48.7%に達し、4年連続で増加した。採用した企業の割合、対前年度の伸び幅(11ポイント増)ともに2011年度以降で最大となった。(【図表1】)
これを学歴別に見ると、「学士号取得者」(前年度比8.3ポイント増の27.8%)、「修士号取得者」(同8.4ポイント増の37.5%)、「博士課程修了者」(1.5ポイント増の8.3%)の全ての区分で、採用企業の割合が前年より増加した。
一方、中途採用した企業の割合は27.6%(2.8ポイント増)と2年連続で増加し、こちらも11年度以降で最大の割合となっている。ただ、採用された研究開発者全体に占める割合を見ると、前年度から大きく低下した(4.7ポイント減)。ここ数年、中途採用の占める割合は増加傾向を示していたが、17年度に入って各社が新卒重視へかじを切ったことが分かる。
もちろん、新卒者を増員しても、すぐに研究開発の成果が表れるわけではない。従来の自前主義から脱却し、外部の知見を取り込むことが急務となる。そのため研究開発の促進を目的に、社外組織との連携を模索する企業が増えている。
前述したNISTEPの調査によると、過去3年間(2015~17年度)に研究開発で社外組織と連携したことがある企業の割合は76.8%となり、11年度以降、右肩上がりで実施割合が高まっている。(【図表2】)
連携先として最も割合が高いのは「国内の大学等」(74.7%)。次いで「大企業」(73.4%)、「中小企業」(55.4%)、「国内の公的研究機関」(53.3%)などが続く。前年度と比べ順位に変動はないものの、国内の大学等(0.8ポイント減)と中小企業(1.3ポイント減)が減少し、大企業(2.2ポイント増)と国内の公的研究機関(2.4ポイント増)が増加した。(【図表3】)
連携先のうち、特に増加が目立つのが「外部コンサルタントや民間研究所」(4.2ポイント増の38.4%)と「ベンチャー企業・起業家」(4.5ポイント増の26.5%)だ。現在、大企業を中心に、スタートアップ企業の技術やアイデアを自社の経営資源と組み合わせ、革新的な製品・サービスを開発する「オープンイノベーション」を進める動きが活発化していることが背景にある。
また、国内外のコンサルティングファームや民間シンクタンクがスタートアップ業界に続々と参画。投資や人材育成、成長支援などを積極的に展開しており、こうしたトレンドも反映したとみられる。
経済産業省が発表した「2017年度大学発ベンチャー調査」(2018年3月)によると、大学発ベンチャー企業数が17年度で2000社を突破(2093社)した。政府は2016年4月、大学・研究開発法人などに対する企業のイノベーション投資を3倍に増やす目標を掲げたことから、産業界から大学発ベンチャー企業への投資や事業提携が相次いでいる。
今後、日本企業は社内の研究開発者の若返りを図りつつ、スタートアップとの連携を起点として、イノベーションの実現を目指す動きも加速化していくことが予想される。
【図表3】 企業の研究開発における他組織との連携先の割合