その他 2019.03.29

進む“婦人服”離れ
「DtoC」と“より善い”服作りが再起の鍵

2019年4月号

 

 

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アイビールック、ミニスカート、DCブランド――かつて日本では、「ファッション」の大流行が景気を引っ張った。だが、バブル崩壊以降はすっかり鳴りを潜めている。日本のアパレルが景気の表舞台に立つことは、もうないのだろうか。

 

 

一定期間(100日~1年)、服を一切買わずに過ごす「ファッション断食」が女性の間で静かなブームだという。2014年、『フランス人は10着しか服を持たない』(ジェニファー・L・スコット著、大和書房)がベストセラーになったことは記憶に新しい。最近は服を買わない、持たないことが“ファッショントレンド”になっている。

 

この背景には、消費者の“断捨離”(不要なモノを減らし、生活の質的向上を図る考え方)志向がある。消費者庁が2017年に発表した「平成28年度消費者意識基本調査」によると、「今後節約していきたいと思っているもの」として「ファッション」(37.4%)を挙げる人の割合が最も高く、食費や通信費(電話、インターネット)、交際費などを上回った。(【図表1】)

 

 

【図表1】今後、節約していきたいもの

出典:消費者庁「平成28年度消費者意識基本調査」(2017年6月28日)

 

 

また、「みんなのかくれ資産調査委員会」が行った推計結果(2018年)によると、フリマアプリ「メルカリ」の平均取引価格で換算した、日本国内の“かくれ資産”(家庭内で1年以上使われていない不要品)の総額は約37兆円(国民1人当たりで約28万円)に上り、このうち42%が「服飾雑貨」(11万7159円)だという。(P28【図表2】)

 

 

【図表2】日本の“かくれ資産”

出典:みんなのかくれ資産調査委員会
(監修:ニッセイ基礎研究所、データ提供:メルカリ)

 

 

ファッションを非実用的と感じる人が増えている。当然、その影響はアパレル消費を直撃する。総務省の「家計調査」から「被服及び履物」の支出状況を見ると、2018年の1世帯当たり年間支出額(全国、2人以上世帯平均)は13万6613円(前年比0.8%減)と4年連続で減少し、消費支出全体に占める割合は3.96%と4%を割り込んだ。

 

この「被服及び履物」と「消費支出」のそれぞれ名目金額指数(2000年=100)を時系列で見てみると、消費支出全体では90前後で推移しているのに対し、「被服及び履物」は60台まで低下している。消費支出の水準以上に減っており、他の支出の推移と比べても、被服・履物が節約対象となっていることは明らかである。(【図表3】)

 

 

【図表3】「被服及び履物」全国1世帯当たり
年間支出金額(2人以上の世帯、平均)と名目金額指数の推移

出典:総務省「家計調査」(家計収支編)

 

 

この「被服及び履物」の金額には、クリーニング代や服のレンタルなどのサービス、靴、非日常着の和服、生地などが含まれている。そこで一般的なアパレル支出(男子用、婦人用、子ども用それぞれの洋服、シャツ・セーター類、下着類)に限定してみると、支出額は2000年の14万1459円から、2018年は9万5022円と4万6437円も減少している。(【図表4】)

 

 

【図表4】男子・婦人・子どものアパレル支出
(2人以上の世帯、1世帯当たり年間支出金額平均)の推移

※衣料品計:「洋服」「シャツ・セーター類」「下着類」の合計
出典:総務省「家計調査」(家計収支編)

 

 

特に、金額面で低調なのが婦人用の衣料品だ。支出額は2000年の8万円から、2018年は5.4万円と約2.6万円減少した。男子用(約1.5万円減)や子ども用(約0.6万円減)を上回る減少額である。

 

そのため、これまで婦人服を中心商材と位置付けてきた百貨店が、最近は婦人服の売り場面積を縮小させている。例えば、大丸や松坂屋を展開するJ.フロントリテイリングでは、今中期経営計画(2017~21年度)で婦人服売り場を30%圧縮(2016年度比)させる方針を掲げている。婦人服売り場を改装し、成長分野の美容や食品、生活雑貨を拡大するという。

 

明るい話題が少ないアパレル市場だが、成長分野はある。例えば、衣料品(服飾雑貨を含む)の
BtoC-EC(企業対消費者間の電子商取引)市場が拡大を続けている。経済産業省の推計によると、その市場規模は2017年で1兆6454億円。前年に比べ7.6%増と好調だった。この市場規模は物販系BtoC-EC市場の中で最大である。(【図表5】)

 

 

【図表5】BtoC-EC(物販系)の主要5分野の市場規模推移(下段はEC化率)

出典:経済産業省「電子商取引に関する市場調査」

 

 

成長著しいアパレルのBtoCEC市場をけん引するのが、「DtoC(D2C)ブランド」市場だ。DtoCとはダイレクト・トゥ・コンシューマー(Direct to Consumer)の略称で、中間流通を通さない自社企画品の直接販売モデルを指す。似た業態でユニクロに代表される「SPA」(製造小売業)があるが、SPAは店舗で売るのに対し、DtoCは主としてインターネットで売るという違いがある(最近は実店舗で販売するブランドもある)。

 

BtoC-ECアパレル市場の中心は20~30歳代の女性客。経産省によると女性市場は男性の2倍以上に上るという。今後は男性客や中高年層の女性によるオンライン購入が増えるとみられており、まだまだ市場拡大の余地は大きい。

 

また、メルカリの普及でCtoC(個人間取引)のリユース(再利用)市場が拡大していることも、衣料品の新規購買を促す追い風になりそうだ。フリマアプリのような、個人同士で行われる2次流通(中古品流通)が活性化すると新品がますます売れなくなるといわれがちだが、服を売る消費者のワードローブの中身を減らして収納スペースが生まれ、取引で得た売却益を元手に新品の購入につながるという側面も併せ持っている。

 

スマートフォンから、いつでも誰もが簡単に手持ちの服を売却できるプラットフォーム。そして「服を捨てず誰かに売ることで、環境保護に貢献している」「発展途上国の原材料を使って作られた服を買い、貧しい人々の暮らしを支えている」というエシカル(倫理的、道義的)な動機が加われば、現在の消費者は自発的にタンス在庫の服を売り、新品の服を買い、それをまた換金して新しい服を買う、という新たな消費サイクルが回り出すだろう。

 

消費者庁の調査によると、エシカルな商品・サービスの購入意向がある人の割合は約6割を占める。また、すでに購入経験がある人の割合は約3割で、商品別に見ると食料品、その他生活用品、そして衣料品、家電・ぜいたく品の順に高くなっている。エシカルな衣料品に対し、通常品より割高でも許容できると回答した人の割合は約6割(63.2%)を占めた。

 

「より好い(格好)」から「より良い(価格)」、そして今後は「より善い(消費)」に貢献する服作りが、景気のけん引役になるかもしれない。