法人の農業参入、制度改正前の約5倍ペース
ネックは人材とノウハウ不足
2019年1月号
2009年12月15日施行の「農地制度改正」、いわゆる“平成の農地改革”以降、企業の農業参入が増加している。同改正は農地貸借を自由化し、農機と労働力があれば個人・法人を問わず誰でもどこでも農業に参入できるものだ(【図表1】)。農林水産省の調べによると、農業経営を行う一般法人は3030法人(2017年12月末現在)に上り、改正前に比べて約5倍のペースで増加しているという。(P29【図表2】)
【図表1】法人が農業に参入する場合の要件
【図表2】一般法人の農業参入の動向
農業参入法人の内訳(業務形態別)を見ると、「農業・畜産業」(740法人)に次いで「その他(サービス業ほか)」(684法人)、「食品関連産業」(632法人)、「建設業」(335法人)などが続く。また、営農作物別では、「野菜」(1246法人)を生産する法人が最も多い。なお、1法人当たりの平均農地面積は2.9ha(ヘクタール)である。
このうち、参入法人数が3番目に多く、農業との親和性が高い「食品関連産業」に注目し、異業種企業による農業参入への取り組み状況を見てみよう。
日本政策金融公庫が食品関連企業(約2500社)を対象に行った調査結果(2018年10月)によると、「すでに(農業へ)参入している」企業の割合は12.7%で、前回調査(2010年=9.4%)から3.3ポイント増加した。(P29【図表3】)
【図表3】食品関連企業の農業参入状況
ただ、農業参入を「検討または計画している」企業は4.8%(前回比0.7ポイント減)にとどまったほか、「関心はあるが検討していない」企業が24.9%(同3.0ポイント減)と、それぞれ減少した。一方、「参入に関心がない」企業は56.4%(同1.8ポインド増)に増えている。つまり、食品関連業界では企業の農業参入が進んでいるものの、新たに参入に関心を持つ企業は増えていない。
なお、参入企業(検討・計画中の企業を含む)に農業参入の目的を聞いたところ(複数回答)、最も回答が多かったのは「原材料の安定的な確保」(69.1%)で、次いで「本業商品の付加価値化・差別化」(51.4%)、「(地産地消による)地域貢献」(43.3%)などが続く。「原材料の調達コストの削減」(24.4%)は最も少なかった。
また、参入済みの企業に対し、「農業部門が黒字化するまでに要した期間」を尋ねたところ、5年以内に黒字化した企業は37.9%と4割を下回り、「現在も赤字」は44.7%も占めていた(P30【図表4】)。農業参入企業が早期の黒字化に手間取っている背景には、作付けから収穫までが年1回転のため農作業の習熟に時間がかかることや、農業参入の主目的が本業の安定稼働(原材料の安定的確保など)にあるため、そもそも農業部門単体の採算を重視していないといったことも挙げられる。
【図表4】農業参入後、農業部門が黒字化するまでの期間(食品関連企業回答)
農業参入における課題については(複数回答)、「人材の確保」(63.2%)が最も多く、次いで「採算性の判断」(50.5%)」、「農地または事業地の確保」(39.2%)、「技術習得」(38.9%)などが続く。このうち特に目を引くのが「人材の確保」の急増だろう。前回調査(36.2%)から27ポイントも増加し、2番目に多い「採算性の判断」を約12.7ポイント上回っている。また、「技術習得」が5.5ポイント増えたことも注目に値する。(【図表5】)
【図表5】農業参入における課題(複数回答)
食品関連業界においては、農業参入の動きが進んでいるものの、農業参入へ新たに関心を持つ層は逆に減少傾向にある。これは事業としての採算性の問題に加え、人手やノウハウの不足が大きなネックになっているとみられる。異業種から農業への参入に際しては、自社単独ではなく、人材や技術・ノウハウを有するプロフェッショナルのパートナーとアライアンス(戦略的提携)を組むことが最善の策と言えよう。