その他 2018.10.31

「人生100年時代」は福音をもたらすか
約8割の人が「100歳まで生きたいと思わない」

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2018年11月号

 

 

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【図表1】日本人の平均寿命と100歳以上高齢者数の推移

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出典:厚生労働省「簡易生命表」、「完全生命表」、「男女別百歳以上高齢者数の年次推移」

 

 

「十年樹木、百年樹人」。木を育てるには10年、人を育てるには100年を要するという意味の中国の格言だ。これがいま、現実のものになりつつある。

 

厚生労働省の「簡易生命表」によると、日本人の平均寿命(2017年)は男性が81.09歳、女性は87.26歳となり、過去最高を更新した。50年前の1967年は男性68.91歳、女性74.15歳だった(【図表1】)。つまり、日本人はこの50年の間、1日当たり約6時間ずつ寿命が伸びたことになる。単純計算では、女性は2066年ごろ、男性は2095年ごろに平均寿命が100歳に達する。

 

欧米では、1世紀を生き続けた100歳以上の人を「センテナリアン」(百寿者)と呼ぶ。世界一の長寿国・日本は、百寿者人口が過去最多の6万9785人(厚労省調べ、2018年9月6日時点)を数え、48年連続で増加中だ。特に21世紀に入って以降は年平均約3000人増のペースを続けており、いまや人口規模は1967年当時(253人)の約276倍、高齢者(65歳以上)人口の0.2%を占める。

 

英ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授の予測によると、主要先進国では「2007年生まれの子どもの50%が100歳を超える」とされ、中でも日本の子どもたちの半数は107歳まで生きる可能性があるという(次頁【図表2】)。人間の生存期間が1世紀(100年)に到達する時代が、まもなくやって来ることになる。

 

ただ、平均寿命がいくら延びたところで、病院のベッドの上で過ごす期間が延びるようでは意味がない。健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間、「健康寿命」をどう延ばすかが重要となる。日本人の健康寿命(2016年)は男性72.14歳、女性74.79歳で、平均寿命と約10歳の差がある。しかも近年、その差は縮まっていない

 

 

【図表2】2007年生まれの子どもの50%が到達すると期待される年齢

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出典:内閣官房・人生100年時代構想推進室「第1回人生100年時代構想会議」(2017年11月、リンダ・グラットン議員提出資料)

 

 

【図表3】日本人の健康寿命の推移(推計値)

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出典:厚生労働省「健康寿命の算定結果の概要:全国の推移」(2018年3月)

 

 

人手が足りないのは、輸送量が増えているためか。そうではない。国内貨物輸送量(トンベース)の推移を見ると、バブル景気が崩壊した1992年から現在まで、ほぼ右肩下がりで減少している(【図表3】)。輸送量は減っているのに人が足りない要因は、インターネット通販の拡大に伴う宅配便取扱個数の急増と、企業間取引での多頻度小口輸送需要の高まりがある。輸送量は減っているが、負担が増しているのだ。

 

(【図表3】)。世界保健機関(WHO)の国際比較でも、日本は平均寿命がトップの割には、健康寿命との差である「不健康な期間」の長さは他国と大きな違いがない。いかに健康寿命を延ばし、不健康な期間を縮めるかが課題だ。(【図表4】)

 

一方、「人生100年時代」に対し、さまざまな懸念が指摘され始めている。例えば、「資産寿命の伸長」(ウエルスケア)だ。高齢化の進展に伴い、2025年には認知症患者数が約700万人(約5人に1人)に増加すると予想されている(内閣府「高齢社会白書(2016年版)」)。加齢により認知能力が低下し、資産運用や資産承継に影響を及ぼす恐れがある。

 

また、定年~死亡の期間が延びる間に資産が目減りし、老後の生活を維持できないリスクもある。総務省統計局の「家計調査」(2017年)によると、老後の1カ月の生活費は世帯主65歳以上(総世帯、1世帯当たり)で21.2万円。65歳で現役を引退し、100歳まで余生を過ごすと8904万円(21.2万円×12カ月×35年)が必要だ。仮に、老後資金の1500万円を毎月10万円ずつ取り崩し、何も運用しなければ12.5年でゼロ※。77~78歳で底を突くことになる。

 

 

【図表4】主要国の健康寿命・平均寿命・不健康な期間(2016年、男女平均)

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出典:世界保健機関(WHO)「世界保健統計2018」

 

 

【図表5】100歳まで生きたいと思うか?

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※20歳代~60歳代男女1000名が回答
出典:アクサ生命保険「人生100年時代に関する意識調査」(2018年7月)

 

 

アクサ生命保険が発表した調査結果(2018年7月)によると、約8割(78.8%)の人が「100歳まで生きたいと思わない」と答えたほか(【図表5】)、4人に3人の78.6%が「長生きはリスクになる」と考えていた。大多数の人が、収入の減少や判断・身体能力の低下、生きがいの喪失などを理由に、長生きに不安を抱いている。

 

こうした長寿の不安から、「もっと働き続けたい(就労寿命)」「美肌を長く維持したい(美容寿命)」「今の家を住み継ぎたい(住宅寿命)」「認知症予防のため学び続けたい(頭脳寿命)」など、ワークケア、ビューティーケア、ハウスケア、ブレインケアといったさまざまな寿命延伸ニーズも生まれるだろう。

 

政府は現在、「健康寿命延伸産業創出推進事業」を展開し、2020年に健康寿命延伸産業の市場規模として10兆円を目指すとしている。人生100年時代は、ビジネスチャンスを数多く生み出す有望市場の到来でもあるのだ。

 

※野村証券ホームページ「マネーシミュレーター『みらい電卓』~生活編」で試算