物流業界の人手不足感、過去最悪水準に
【図表1】日銀短観:全産業および「運輸・郵便」の雇用人員判断DI(全規模合計)推移
今年春、運送会社の人手不足で希望時期に引っ越しできない、いわゆる「引っ越し難民」が全国で続出したのは記憶に新しい。業者を手配できなかった茨城県庁では、庁舎内の引っ越し作業を職員総出・休日返上で行ったことが話題となった。物流業界の人手不足が社会問題にまで発展している。
日本銀行が発表した2018年6月の「全国企業短期経済観測調査」(短観)によると、「運輸・郵便」(全規模)の雇用人員判断DI(人員が「過剰」企業の割合-「不足」企業の割合)は前期比横ばいのマイナス49と、人手不足が過去最悪の水準だった。全産業・全規模平均(マイナス32)を17ポイント下回り、産業別では「宿泊・飲食サービス」(マイナス62)に次ぐ水準だった。(【図表1】)
物流業界の人手不足感が、ついにバブル期の水準を突破した。その結果、労働市場では“人材争奪戦”が激しさを増している。物流関連の有効求人倍率(パートを含む常用、2018年6月時点)はトラックドライバーなどの「自動車運転の職業」が2.86倍、郵便集配や港湾荷役、倉庫作業などの「運搬の職業」が1.59倍、フィルム包装やラベル・シール貼付などの「包装の職業」は2.98倍。特に自動車運転と包装は1人の求職者に約3社の求人がある「超売り手市場」となっている。(次頁【図表2】)
【図表2】 物流関連職種/有効求人倍率(パートタイムを含む常用)
人手が足りないのは、輸送量が増えているためか。そうではない。国内貨物輸送量(トンベース)の推移を見ると、バブル景気が崩壊した1992年から現在まで、ほぼ右肩下がりで減少している(【図表3】)。輸送量は減っているのに人が足りない要因は、インターネット通販の拡大に伴う宅配便取扱個数の急増と、企業間取引での多頻度小口輸送需要の高まりがある。輸送量は減っているが、負担が増しているのだ。
物流業界は、「拘束時間が長い」「休日が少ない」「重労働なのに低賃金」というイメージが先行し、新卒者の人気がなく、人が集まらない。そのため、人手不足を要因とした企業の倒産が増えている。帝国データバンクの調査結果によると、「運輸・通信業」の人手不足倒産件数(2017年度)は17件に上り、前年度(6件)から3倍近く増えた。業種別では建設業、サービス業に次いで3番目に多く(【図表4】)、業種細分類別(5年間累計)では「道路貨物運送」(26件)が最多だった。
景気回復とネット通販の拡大で人材が不足し、新規受注もできない中で固定費の負担が増し、倒産に至った企業が多かったという。とはいえ、物流企業の人手不足を一気に解消できる特効薬はない。荷主、運送業、消費者の3者が連携して実車率・実働率・積載率を向上する総合的な取り組みが必要だ。
ただ、当面をしのぐ人手を確保せねばならない。まずは運賃・料金の値上げ交渉を荷主と行い、値上げで得た原資を賃上げに回す待遇改善により人材の確保を図りたい。日本ロジスティクスシステム協会の調査結果によると、物流企業から運賃・料金の値上げ要請があった企業の割合は71.6%に上り、うち76.9%が値上げに応じたという(【図表5】)。「値上げやむなし」の機運が高まっているだけに、物流企業は値上げを荷主に働き掛けたい。
デフレが続く日本では、ワンコイン(500円)を払えば質の高いランチが食べられることから、海外で「Japanischeap(日本は安い)」と呼ばれているという。日本の商品やサービスは価値が高いのに価格が安い、すなわち価値に見合った対価を得ていない。物流企業は、いまこそ自らの価値に見合った対価を得るべきだ。
【図表3】国内貨物輸送トン数の推移
【図表4】「人手不足」倒産件数の推移(単位:件)
【図表5】物流企業→荷主企業への値上げ要請状況