タナベコンサルティングのビジネスモデル・イノベーション研究会とアグリサポート研究会は、2026年9月6日~13日にフランスを訪問し、10社を視察した。本稿では、「食・農・観光・ブランド」による高付加価値ビジネスモデルの学びを紹介する。
【小売・流通】
SAMARITAINE(サマリテーヌ)視察
世界的ラグジュアリー企業LVMHによる老舗百貨店の再生事例
サマリテーヌは、パリの歴史とともに歩んできた由緒ある百貨店である。1870年、アーネスト・コニャックと妻のマリー=ルイーズ・ジェイがポンヌフ通りに開業した小さな店舗を起点に、セーヌ川沿いの一等地へと事業を拡大した。アールヌーヴォー様式を取り入れた華やかな建築と、衣料品から生活用品まで幅広くそろえた品揃えによって、長年にわたりパリ市民の支持を集めてきた。しかし、消費行動の変化や競争激化、建物の老朽化、安全基準への対応などを背景に経営が悪化し、2005年に安全上の理由から営業を停止した。
その後、フランスを代表するラグジュアリー企業LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)がサマリテーヌの大規模な改修プロジェクトに着手した。2021年に営業を再開し、現在は百貨店に加え、ホテル、オフィス、飲食店などを備えた複合施設となっている。
特に注目されるのが、欧州最大級のビューティーフロアである。香水、メイクアップ、スキンケアを中心に、肌診断やトリートメントなどの体験型サービスも充実しており、単に商品を販売するのではなく、ラグジュアリーな顧客体験を提供している。立地も大きな強みである。ルーヴル美術館から徒歩約5分の距離にあり、さらにセーヌ川沿いの観光動線上に位置するため、パリ市民だけでなく、世界中から観光客を引き付けている。伝統を守りながら新たな価値を加えた、歴史資産を活用した都市再生と高付加価値化の好事例と言える。

サマリテーヌ内観。2万平方メートルの売り場面積を誇り、ヨーロッパ最大級のビューティーリテールスペースを併設した歴史的百貨店である
大手スーパーマーケットCarrefour(カルフール)視察:
ワンストップ×デジタルで進化するフランス流ハイパーマーケット
カルフールは、1959年にフランス・アヌシーで創業した世界的な総合スーパーである。1963年にはフランス初のハイパーマーケットを開業し、食品から日用品、衣料品、家電、レジャー用品までを一つの店舗で幅広く、手頃な価格で提供する新しい買い物スタイルを確立した。現在は、ハイパーマーケットやスーパーマーケット、ショッピングセンター併設型店舗、オンライン販売など、顧客のニーズに応じた多様な業態・販売形態を展開している。
視察先であるリヨン2区の「カルフール・リヨン・コンフリュアンス」は、再開発が進むコンフリュアンス地区の商業施設内に位置する大型店舗である。生鮮食品や冷凍食品、飲料、ワイン、日用品に加え、家電や家庭用品まで幅広く取り扱っており、日常の買い物を一カ所で完結できる。また、オンライン注文商品の店頭受け取り、購入商品の宅配、短時間での商品受け取り、セルフスキャン、カフェなどのサービスも充実している。店舗とデジタルを融合させ、都市生活者の利便性を高める顧客接点として機能している点に、世界的に事業を展開するカルフールの強みが表れている。
フランス初ハイパーマーケットのカルフール。食品と日用品を同一フロアで安く売る革新的なスタイルを確立している
総合スーパーMONOPRIX(モノプリ)視察:
都市生活者の身近な存在として選ばれる品質とデザイン
モノプリは、フランスの都市部を中心に展開するスーパーマーケットである。食料品だけでなく、衣料品、化粧品、日用品、インテリア用品などを一つの店舗で扱い、日常の買い物とライフスタイル提案を融合させている。カルフールが、郊外や大型商業施設において食品から家電・レジャー用品までを幅広く低価格で提供するハイパーマーケット型を得意とするのに対し、モノプリは都心の限られた売場で品質やデザイン性を重視した商品を効率よく選べる業態である。
視察したリヨン2区のモノプリは、中心街の目抜き通りであるレピュブリック通りに立地している。徒歩や公共交通機関で訪れやすく、仕事帰りや買い物の途中に立ち寄れる利便性が魅力だ。大規模な駐車場を前提とせず、都市生活者の近くに出店し、短時間で必要な商品を購入できることが、モノプリが「都市型」と呼ばれる理由である。食料品店にとどまらず、都市の暮らしそのものを支える小売拠点となっている。

リヨン2区のモノプリ外観。都心の限られた売場で品質やデザイン性を重視し、短時間で必要な商品を購入できる
オーガニック専門スーパーBiocoop(ビオコープ)視察:
オーガニックを日常にする、生産者と消費者をつなぐ仕組み
ビオコープは、フランス各地に展開するオーガニック専門の協同組合型小売店である。フランス語の「BIO(ビオ)」は「biologique(ビオロジック)」の略語で、日本語の「有機」や「オーガニック」を意味する。フランスにおいて、有機食品としてBIOと表示するにはEU(欧州連合)の有機農業規則に基づく認証を受ける必要がある。
フランスでは、健康や環境、動物福祉、生産者支援への関心を背景に、BIO表示の商品が一部の意識の高い層だけでなく、日常の選択肢として広く支持されている。ビオコープでは、地元産や旬の食品、フェアトレード商品、量り売りなどを重視し、生産者と消費者の距離を縮めている。リヨン店も、都市生活者が安心できる食材を身近に購入できる店舗として消費者の支持を得ている。

ビオコープの売り場風景。生鮮食品、雑穀、洗剤、シャンプーなどの商品において量り売りを採用し、ゴミやプラスチック包装の削減を徹底している
Les Halles de Lyon Paul Bocuse(ポール・ボキューズ市場)訪問:
リヨンの食文化を支える、市民に愛される市場
ポール・ボキューズ市場は、リヨン中心部に位置する市場である。もともとは「リヨン中央市場」として開設され、改装を機にリヨン出身で「フランス料理界の巨匠」と称された世界的シェフ、ポール・ボキューズ氏への敬意を表して、「ポール・ボキューズ市場(Les Halles de Lyon Paul Bocuse)」に改称された。
市場には、厳選された食材を扱う専門店や惣菜店、レストランなど54店舗が軒を連ねている。観光客向けの一過性の施設ではなく、地元の人々が日常の食材を買い求め、家族や友人と食事を楽しむ生活の場となっている。品質に妥協しない店が集まり、「ここで選べば間違いない」という信頼が、市民に長く愛される理由の一つとなっている。地域の食材、職人の技、そして偉大な料理人の名を結び付け、「食文化」そのものを都市ブランドへと高めた事例である。

新鮮な野菜や果物、肉、魚介類、チーズなどの豊かな食材が集まり、地元の人々だけでなく観光客にも人気がある
【アグリビジネス】
La Ferme des Possibles(ラ・フェルム・デ・ポッシブル協同組合)視察
農業を通じた社会的に困難な状況にある人の就労支援機関
ラ・フェルム・デ・ポッシブルは、パリ近郊のセーヌ=サン=ドニ県に位置する農園を核とした協同組合である。約1.2ヘクタールの農園では、さまざまな野菜を有機栽培で生産している。生産した野菜や果物は、そのまま出荷するほか、施設内で調理して企業向けにケータリングするなど、収益の確保につなげている。また、都市農業に関する教育活動などについては、イル=ド=フランス地域圏から補助金を受けた実績もある。
最大の特徴は、農業を単なる生産活動にとどめず、社会的に困難な状況にある人や障害のある人の就労・自立支援の場としている点である。生産から加工、提供、販売までの活動を、施設、および近隣エリア内で循環させている。農業を起点に、地域内の雇用の確保、環境の保全、社会福祉を一体的に実現しようと結成された協同組合である。
ラ・フェルム・デ・ポッシブル協同組合視察の様子
Pierreclos(ピエールクロ)視察:
土地の個性を生かしたワインづくりと地域ブランド
マコンから西へ約10kmに位置するピエールクロ城は、1284年には建物の存在が確認されている歴史ある城館である。19世紀から続くブドウ栽培家の家系がワインづくりを営み、畑の周囲に果樹を植えて生物多様性を守るほか、休閑期には羊を放牧するなど環境と共生する農業を実践している。
ブルゴーニュ地方のワインの魅力は、村や畑ごとに異なる土地の個性が、ワインの味わいや品質に反映されている点にある。土壌や斜面の向き、標高、日照、気候に加え、歴史や栽培技術など、土地と人の営みが一体となった個性は「テロワール」と呼ばれる。こうした地域ごとの特徴や品質を守る仕組みの一つが、「原産地呼称制度(AOC)」である。特定の産地名を表示するには、使用品種や栽培方法、収穫量、醸造方法などの基準を満たす必要がある。現在はEUの「保護原産地呼称(AOP)」制度※のもとでも保護され、地域の名称と生産基準を守る役割を果たしている。
ピエールクロでは、こうした土地の個性と生産者の取り組みが、ワインの価値を形づくっている。生産量の約7割を輸出し、英国や米国の有名レストランでも採用されているという。歴史・自然・品質を生かし、地域の魅力を国際的な評価につなげている好事例である。
※地域の風土や伝統的な製法で作られる農産物やワインの品質と原産地を保証するEU共通の制度

ピエールクロのブドウ畑とピエールクロ外観。環境と共生する農業を実践している
Domaine Lejeune(ドメーヌ・ルジューヌ)視察:
伝統を受け継ぎ、現代的な醸造にも取り組むポマールのワイナリー
ドメーヌ・ルジューヌは、ブルゴーニュ地方のポマール村で1783年から続くワイナリーである。伝統的な醸造技術を受け継ぎながら、1992年に改築した醸造施設に新しい設備を取り入れ、現代的なワインづくりにも取り組んでいる。幅広いスタイルのワインを生産し、長期熟成によって魅力を増す銘柄も手掛けている。
ポマールは、力強く骨格のある「ピノ・ノワール」で知られる、ブルゴーニュを代表する銘醸地の一つである。ドメーヌ・ルジューヌは、土地の個性であるテロワールを生かしたワインづくりを続けている。国内外のコンクールで評価されていることからも、地域に根差した経営と国際的な競争力を両立する、ポマールを代表する生産者の一つといえる。伝統を守りながら技術革新を取り入れ、地域ブランドを世界市場へ広げる好事例である。

ドメール・ルジューヌのあるポマールのブドウ畑
【M&A、メーカー】
MBA Capital(MBAキャピタル)視察:
海外企業とのM&Aや資本提携を支援するクロスボーダーM&Aアドバイザリー会社
フランスにおけるM&Aは、大企業同士の統合だけでなく、家族経営の中堅・中小企業における事業承継や成長戦略の手段としても活用されている。特に、地域に根付いた優良企業を次世代へ引き継ぐ案件や、海外企業との資本提携・買収を通じて市場を拡大するクロスボーダーM&Aが注目されている。一方で、国ごとに異なる法制度、税務、企業文化、商慣習への対応が必要であり、専門家による一貫した伴走が不可欠だ。
MBAキャピタルは、フランス各地に拠点を展開する独立系M&Aアドバイザリー会社である。企業の売却・買収、事業承継、企業価値評価、資金調達、財務戦略まで幅広く支援している。地域企業に密着し、経営者や株主の利益を重視しながら候補先の探索から条件交渉、契約締結まで一貫して伴走支援している。また、業種を限定せず、PMEやETI(フランス語圏における中小企業、中堅企業の略称)の成長・国際展開も支援する。
MBAキャピタルが創設メンバーの一社として加盟するM&A Worldwideは、2004年に設立された国際的なM&Aアドバイザリーネットワークである。36カ国・49拠点において、約390名の専門家が連携し、各国の市場知識を生かして買収候補先の探索や交渉を支援している。

MBAキャピタルでの研究会の様子
Mecalectro(メカレクトロ)視察:
1948年から続く、電磁アクチュエーターの専門メーカー
メカレクトロは、1948年に設立されたフランスの電磁アクチュエーター専門メーカーである。電磁アクチュエーターとは、電磁力を利用して電気エネルギーを機械的な動きに変換する駆動装置であり、同社は顧客の要求に応じた設計・開発・生産に特化している。製品は、航空機、鉄道、防衛産業、原子力エネルギー、医療機器、工場の自動化など、高い安全性と信頼性が求められる産業で使用されている。日本企業では、フジタとも取引実績がある。
同社は1991年にファンド傘下に入り、2020年には別のファンドへと経営主体が移った。その後、2022年にMBO(経営陣による買収)を実施した。新経営陣のもとで迅速な意思決定を重視し、「顧客の声に耳を傾けること」「生産性・効率性・迅速な対応」を経営の軸としている。インドや中国、米国などにも製品を輸出し、約4500社の顧客に向けて約1万種類の部品を取り扱い、月間約1万点を生産している。10人の事業開発エンジニアが在籍しており、社内ラボで電磁石のシミュレーションを行うなど、技術力と開発対応力を高めている。フランス国内に1社、ドイツに3社しかない専門メーカーとしての希少性も、競争力の源泉である。
経営陣が変わってからは、福利厚生にも変化が見られる。多国籍の社員が在籍する同社は、従業員の健康を重視し、社員食堂の設備やメニューの充実を進めた。昼食代は1食当たり約6ユーロかかるが、社員の負担は半額の3ユーロで、残りの3ユーロを会社が負担している。さらに、毎週木曜日には食事を自宅に持ち帰ることもできる。社員の生活を考え、働きやすい職場づくりを進めている同社は、高い専門性と従業員重視を両立するニッチトップ企業の好事例である。

メカレクトロの食堂と工場内部。社員にとって働きやすい職場づくりを進めている

メカレクトロでの集合写真
強みをブランド価値へ昇華し、高付加価値ビジネスを実現するフランス流経営の真髄
今回のフランス視察を通じて見えてきたのは、土地の個性や歴史、文化、技術、人々の営みを一つの物語として編み、顧客がその価値を体験できる形で届けることが、ブランド価値の創出につながるということだ。
市場やスーパー、ワイナリー、農業、製造業、百貨店など、業種や規模は異なっていても、各社には自らの強みと存在意義を明確にし、品質やサービス、空間、情報発信まで一貫して磨き上げる姿勢が共通していた。また、伝統を守るだけでなく、技術革新やM&A、地域連携、社会的包摂を取り入れながら、ブランドを次世代へと進化させている点も印象的であった。
日本企業にとって重要なのは、自社が受け継いできた技術や地域資源を再発見し、独自の物語と顧客体験に昇華させることである。今回得た示唆を、持続的な競争力と選ばれ続けるブランドづくり、そして、それを収益につなげる高付加価値ビジネスモデルの構築につなげていただきたい。

村上 幸一
むらかみ こういち
タナベコンサルティング 常務取締役

阿部 和也
あべ かずや
タナベコンサルティング 執行役員