今回は、2018年7月号の米国シリコンバレーリポートに続く、第2弾。2018年10月2日から7日にかけてビジネスで訪れたニューヨークをレビュースタイルで紹介したい。
Columbia University1754年創立の名門大学。バラク・オバマ前米大統領をはじめ、世界各国で活躍するリーダー・研究者を輩出している ×Techがデジタルトランスフォーメーションを加速 デジタルトランスフォーメーションとは、AI、IoT、クラウドなどの最先端ICTによりビジネスモデル変革や新規事業創出を目指すことである。金融街で知られるニューヨークの「×Tech」は日本でもおなじみのフィンテックがけん引し、デジタルトランスフォーメーションを加速させている。 当然と言えば当然なのだが、デジタル、金融、ブランド、人材などの資源が全てそろっているのがニューヨークだ。シリコンバレーとの違い、個性がここにある。東京オリンピック・パラリンピック後の目指すべき姿のひとつがニューヨークにはある。 冒頭に述べた通り、ニューヨークは全米第2位のベンチャー企業への投資額を誇る。そのニューヨークを拠点に、アクセラレーターとしてスタートアップを支援しているERA社を紹介したい。アクセラレーターとはスタートアップ企業に資金や人脈などの面で援助し、ビジネス拡大をサポートする機関のことである。 同社は年2回、投資先の選定と育成を目的に、4カ月間のアクセラレーションプログラムを立ち上げている。1回当たりの投資金額は10万ドル規模であり、約1000社の応募から同社に選定された10~15社に資金が振り分けられる仕組みになっている。ニューヨークをベースに活動する同社は、金融関係のスタートアップを選定することも多いそうだ。 選定されたスタートアップは同社のオフィスで働くことができる。先に紹介したWeWorkと同様にシェアオフィスを運営しているのだ。同社の厳しい審査に合格したWoveon社とBikky社のCEOに話を聞くことができたので紹介する。 まずWoveon社は、法人のコールセンター向けのソリューションを開発する創業8カ月(当時)のスタートアップ企業である。ソリューションの大きな特徴は2つあり、コールセンターにアクセスするユーザーの認証システムの開発と、コールセンターのマニュアルの適正化である。 さらに、同社はAIを用いた分析システムの開発にも着手しており、コールセンターに集まったカスタマーデータをAIで分析し、企業のブランディングや売上高の向上に役立つアナリティクス(解析方法)の提供も行っている。 次にBikky社はフードテックのスタートアップ企業であり、特にフードデリバリーを利用するカスタマーデータのアナリティクスを提供するシステムを開発している。例えば、席待ちの客に対して、スマートフォンで登録してもらうと行列に並ぶことなく呼び出しをすることができるシステム。実は、席待ち解消の登録システムが顧客会員化を同時に行い、メールやSNSで情報発信をするという仕組みだ。 また、デリバリーサービスを使用するカスタマーの注文状況の履歴を利用した注文トレンドのビジュアライゼーションから配達地区のマッピングまで、視覚的に捉えることができる分析ツールも提供している。 2社のスタートアップ企業の事例を挙げたが、両社に共通しているのは、「カスタマーエンゲージメント」分野のソリューション提供を行っているという点と、テーマに特化したテクノロジー(×Tech)を開発している点である。 日本でも、顧客から共感を得られるような商品・サービスを提供するカスタマーエンゲージメントの分野は、今後ますます重要になるだろう。事実、テクノロジーを活用したカスタマーエンゲージメントの構築に向けた取り組みの重要性が高まってきている。 次に紹介するのは、ブランディングを専門に扱うStarfish Branding社である。同社は設立16年とのことだが、CEOのDavid Kessler氏は、「ブランディングとは、ブランドと顧客の接点をつなぎ合わせたカスタマージャーニーのインターアクションを総合的にコントロールすることである」と設立当初から主張している。 インターアクションとは、例えば、顧客がブランドを調査し、商品を購入するというように、顧客とブランドの接点の中で生まれるアクション(行動)のことである。 それらの接点をつなぎ合わせ、購入後のSNSでの発信を通じたエンゲージメントからブランドロイヤルティーの形成も包括したブランド体験を総称して、「カスタマージャーニー」と表現している。そして、そのカスタマージャーニーの中には、「モーメント・オブ・トゥルース(真実の瞬間)」と同社が定義する最も大事な顧客との接点が存在し、それを見つけることが重要という。 例えば、金融機関であれば、ファイナンシャルプランナーと実際に会って話をしている時や、インターネットで資産管理の情報を調べている時のように、顧客にとってそのブランドを使う一番重要な接点がある。それを発見できると最適なリソースの配分にも手を打つことができ、顧客のブランドロイヤルティーはさらに高まるであろう。 ただし、複雑化したカスタマージャーニーの中で、伝えたいメッセージを「モーメント・オブ・トゥルース」の時に顧客へ届けるには、ITやAIの活用抜きには実現が困難なのではないかとも思う。ブランディングの観点からも、デジタルトランスフォーメーションの必要性が問われている。 続いて、デジタルトランスフォーメーションに必要なテクノロジー企業の事例を2社紹介する。まずはTalk Walker社を紹介したい。同社は2009年に設立され、ルクセンブルクに本社を構え、主要サービスとして、AIを活用したMA(MarketingAutomation)ツールを提供する。Talk Walker社は大別するとデータの収集、結合・解析、ビジュアル化の3つの機能を有している。まずはデータの収集であるが、複数のオンラインおよびオフラインのデータソースからデータを収集できる。 具体的には、Twitter、Facebook、Instagram、Yahoo!などのサードパーティー(第三者企業)から得られるデータを収集する。次に、集まったデータに、自社のコールセンターで収集されるデータや、すでに企業が有している顧客データなど、企業が独自に収集しているデータを全て統合。結合されたデータをAIなどのツールを使って画像解析を行うのだ。 ピザ店の出店計画の場合、Instagramに投稿されている写真データをAIが解析し、ピザの消費量が多い都市や地域を特定し、またその際にどのような人(男性・女性など)がどういった飲料を同時に消費しているか、人気店の特徴(屋外スペースがあるなど)なども特定し、出店計画に役立てる。最後に、そこから得られた洞察・分析結果をビジュアル的に捉えることができるように、見える化する。 このようなツールを使用することで、ブランディングの側面では前出の「モーメント・オブ・トゥルース」の発見につながり、効果的なターゲティングやメッセージングを考察できる。そしてそれは共感を呼ぶプロモーションとなり、ROI(投資利益率)向上にも寄与するだろう。 最後に紹介する企業は、2010年に設立されたWork Fusion社である。同社はMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究所から派生し、AIやマシンラーニングのプラットフォーム開発として始まった経緯を持つ。同社はSPA(スマート・プロセス・オートメーション)とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の2つのソリューションを有している。 RPAが定型業務のオートメーション化を実現するのに対して、SPAは非定型業務のオートメーション化までを実現する。SPAでは、例えば請求書の処理業務に対して多様なフォーマットの請求書の中からAIが自動的に必要な情報を探し当てて、処理を行っていく。 また、RPAやSPAは見込み顧客の発掘にも活用ができる。あらかじめ条件を設定することで自動的に見込み顧客になり得る人のLinkedInなどにアクセスし、自動的にデータを収集する。 必要な情報が全て見つかるとは限らないが、名前や会社名、部署名、Eメールアドレス、電話番号などの欲しい情報が見つかれば、それらを顧客管理ソフトに転送し、データベースを作るところまで自動化できる。これまで、こういった作業に時間を取られていた営業担当者らにとっては効率化が図れ、本来の営業担当の仕事である顧客と向き合うことに時間を多く割くことができるわけだ。
ERAニューヨークを拠点にスタートアップを支援するアクセラレーター。シェアオフィスも運営する
Starfish Brandingブランディングを専門に扱う同社CEOのDavid Kessler氏にブランディングの要諦を聞く
Talk Walkerルクセンブルクに本社を構えるテック企業。AIを活用したMAツールを提供している スタートアップファースト志向による革新性 今回はニューヨークのデジタルテクノロジー企業を中心に紹介したが、日本においても今後ますますデジタルテクノロジーを活用する重要性は高まってくる。 そのデジタルテクノロジーがあらゆるドメイン・業種別に開発されていくことだろう。従って、世界に目を向ければ、それらの技術を駆使することで業種や規模に関係なく、スタートアップ企業のテクノロジーを起点に、新しいサービスを生み出すことができる。これを「スタートアップファースト」と呼ぶ。 日本では今後の20年間で労働力人口の減少がさらに進み、GDPは下がり続けてもおかしくない状況である。働き方改革関連法が2019年4月から順次施行され、生産性がますますキーワードとなる中、テクノロジーの活用によるデジタルトランスフォーメーションへの取り組みは企業の必須課題であろう。そして、その新しいテクノロジーの源泉は紛れもなくベンチャー企業やスタートアップ企業である。 タナベ経営でも、日本経済新聞社主催のピッチイベント「スタ★アトピッチ関西」の協賛として参加するなど、有力なスタートアップ企業の発掘に力を入れている。 顧客が求める付加価値が「モノからコト」へシフトし、労働力人口の減少といった外部環境により、企業は少ないリソースでもこれまで以上に付加価値を顧客へ提供し続けなければ、その存在価値は薄れてしまうだろう。企業はテクノロジーの活用などにより、これまで以上の生産性で顧客からの「共感」を得られる商品・サービスを提供し続ける必要がある。 さらに今後は、ポスト東京オリンピック・パラリンピック、消費税の増税、SDGs(持続可能な開発目標)への対応など企業を取り巻く価値観は大きく変化していくだろう。 変化する環境への対応に向け、スタートアップ企業やベンチャー企業の先端技術に再度注目し、バックキャスティングで2030年を見据えたイノベーションを促進してもらいたい。
Work FusionMITの研究所から派生した企業。SPAとRPAの2つのソリューションを提供