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【メソッド】

旗を掲げる! 地方企業の商機

「日経トレンディ」元編集長で商品ジャーナリストの北村森氏が、地方企業のヒット商品や、自治体の取り組みなどをご紹介します。
メソッド2023.02.01

Vol.88 コロナ禍の地域発ヒット番付

<東>

福岡県 Gigi 「さきめし」(右上)

応援したい飲食店などに、代金を先払いできるアプリ。コロナ禍の初期に大反響を呼んだ

 

福井県 小杉織物「絹マスク」(右下)

2020年春、工場操業停止直後にすぐさま開発。プロ棋士の藤井聡太さんが着用して話題になった

 

東京都 ダルマン 「ムジンノフクヤ」(左上)

古着の無人店舗。若年層の人気をさらい、その仕組みは業界内外に波及した

 

兵庫県 但馬漁業協同組合 「ほたるいか飯」

コロナ禍で買い手の付かないホタルイカを缶詰に。地元高校と協業し、ヒット商品に育てた

<西>

北海道 紋別の人々 「紋別タッチ」(右上)

羽田から紋別に到着後、乗ってきた飛行機でとんぼ返りする“弾丸旅”。110回体験という猛者も

 

愛媛県 網元茶屋など 「えひめ技あり鱧プロジェクト」(右下)

1人の料理人が有していた、ハモの骨を全て取り去る技を県全域に伝授。地元の名物に

 

岩手県 陸前高田の人々 「CAMOCY」(左上)

2021年春グランドオープン。地元中小企業経営者たちの手でにぎわいを創出した商業施設

 

富山県 玉旭酒造、福鶴酒造 「八尾ブレンド」(左下)

商売敵だった2つの酒蔵が「今の敵はコロナ禍」と決断し、両蔵のブレンド酒を完成

 

 

時間こそが勝負

 

本誌の「〈100年経営〉対談」で、タナベコンサルティンググループ代表取締役社長の若松孝彦さんと対談しました。「コロナ禍で企業活動の何が変わったのか」がテーマです。

 

せっかくですから、本稿でも対談とリンクした内容をつづりましょう。この3年弱の間に、全国各地をめぐって現地取材してきた経験を基に、コロナ禍で中堅・中小企業やベンチャー企業がどのようなヒット商品を生み出してきたのか、ここで番付にまとめてみたいと思います。

 

番付を編成するのにかなり悩みましたけれど、三役以上(横綱~小結)として私が推挙したいのは、右ページのような顔触れです。

 

こうしてあらためて見てみると、いくつかの共通項があることに気付かされます。順にお伝えしますね。

 

まずは「時間こそが勝負だった」という点です。企業の存亡に関わる危機が迫っているのですから、決断までに時間を費やす余裕などなかったわけです。

 

東大関の小杉織物は2020年3月末に工場停止を余儀なくされました。国内シェアトップであった浴衣帯の受注がやんでしまったためです。しかし翌日、社長は工場に残っていた素材を使って1枚の絹マスクを試作し、すぐさま問屋に持ち込みました。ここから同社の復活劇が始まったのです。

 

時間がない、といえば、東横綱である「さきめし」というアプリはその点を強く意識しての開発でした。2020年3月、全国の飲食店を応援するためにリリース。消費者が店に飲食代金を先払いし、それを受け取った店に急場をしのいでもらおうという仕組みです。アプリ開発はそれこそ急ピッチだったと聞きました。このアプリの興味深いところは、その後、大手企業であるサントリーグループが協業を申し出たこと。こうした危機下では企業の規模を超えた連携も大事になってくるという話です。

 

 

常識はずれに果敢に挑む

 

もう1つ、この顔触れを振り返って私が再認識したのは「それまでの常識を破る」という部分です。

 

例えば西横綱の「紋別タッチ」。羽田空港からオホーツク紋別空港に飛んで、わずか40分の滞在で羽田にとんぼ返りするという旅です。航空マニアが搭乗ポイント稼ぎのために実行しているのですが、なぜ紋別なのかーー。例えば沖縄などに飛べば、もっと効率的に搭乗ポイントを稼げるからです。つまり、本来ならばわざわざ紋別を選ぶ意味は薄いのです。これは地元のホテル経営者が、マニアの集うSNSで紋別の窮状を真剣に訴えたからでした。羽田便が廃止になると、地域医療を支える医師が東京から来られなくなるという事情がありました。するとマニアたちはそれに呼応して連日のように来訪するようになったのです。2021年夏からここまで、1人で100回を超える「タッチ」を経験したという猛者まで生みました。

 

西大関である愛媛の「鱧プロジェクト」は、1人の料理人から始まりました。ハモの骨を骨切りせずに全て素早く抜き去るという技法を、コロナ禍で営業休止となって時間のできた近隣の飲食店の料理人たちに惜しげもなく伝授したことがきっかけです。2つの意味で常識はずれですね。1つ目は、当たり前と思われていたハモの骨切り以外の方法に光を当てたこと。そして2つ目は、そんな“秘技”を躊躇なく他の料理人にほぼボランティアのような形で伝えたことです。これによって、県内のあらゆるジャンルの料理店がこの技術を会得でき、地元産のハモを十二分に活用する道が開けたのです。

 

西小結である富山の「八尾ブレンド」は、同じ町内で江戸時代からにらみ合う2つの酒蔵が協業した日本酒です。長年の商売敵同士が、「今の敵はコロナ禍だ」と考え、互いの酒を同量ブレンドする酒を造ろうと決断しました。伝統の祭りを催すこともできなかった八尾の町は、蔵元たちの決断に大いに沸き、この酒は見事に完売しました。

 

今回の対談で、私は「覚悟と共感」がキーワードだと述べました。覚悟を決めるには、ここで挙げた例が示すように時間との勝負も大事ですし、また、常識破りも時には必要です。コロナ禍では、そうした点がより問われたとも表現できます。

 

 

Profile
北村 森Mori Kitamura
1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。「日経トレンディ」編集長を経て2008年に独立。製品・サービスの評価、消費トレンドの分析を専門領域とする一方で、数々の地域おこしプロジェクトにも参画する。その他、日本経済新聞社やANAとの協業、特許庁地域団体商標海外展開支援事業技術審査委員など。サイバー大学IT総合学部教授(商品企画論)。
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