その他 2024.03.12

Vol.5 企業経営における人材マネジメント:古田 勝久

 

人材マネジメントは、企業存続のための具体的方法である。では、人材の「何」をマネジメントすれば企業は持続的成長を実現できるのだろうか。タナベコンサルティングのHRコンサルティング事業部による連載「人材マネジメントの流儀」第5回では、人材マネジメントの対象を整理し、それぞれに必要な機能を概観する。

 

なぜ企業には人材マネジメントが必要なのか

 

全ての企業は「存続、売却、廃業、倒産」のいずれかの道をたどる。その中で、創業者であれ、後継経営者であれ、経営のトップは「会社を存続させること」をミッションとして、日夜力を尽くしておられるだろう。では、企業の存続に必要なことは何か。それは「成長」ではなく、「変化」である。経済環境や社会動向、顧客のニーズなど、常に変化する環境に適応していくことで成長が生まれるのだ。つまり、企業を成長させ、存続させていくためには、変化をマネジメントすることが大前提となる。

 

では、変化をマネジメントするとはどういうことか。それは、経営者が成し遂げたいことを実現するために、力を貸してくれる社員をマネジメントすることである。経営は、一人で始めなければ何も始まらない。ただし、一人では何もできない。社員の力を借りて、経営者が成し遂げたいことを実現していくのが企業経営である。

 

人材を育て、生かし、発揮する価値を変化させていくことで、企業経営の変化をマネジメントしていく。そして、その先に企業の成長、存続が待っているのである。これが企業経営にとって人材マネジメントが必要な本質的な理由である。

 

企業の成長、存続を目指して、人材をマネジメントし、変化をマネジメントする。では人材の何をマネジメントするのか。このような視点から、人材マネジメントの対象と必要な機能について整理していく。

 

 

直接雇用以外の手法も含めた「人材獲得」

 

企業経営にとって、人材マネジメントは「人材の獲得」から始まる。戦略を立て、事業目標を達成するために必要な人材を外部(労働市場)から獲得しなければならない。獲得の手段としては「採用」という労働力の調達機能が最も代表的である。それも、企業の戦略やビジョンに合わせて、一種類ではなく、異なる人材のタイプを組み合わせて組織力を高めていく採用が求められる(人材ポートフォリオの発想)。

 

その他、業務委託や請負、アライアンス、M&Aなどによる労働力の獲得もある。また、人材不足の影響を受け、労働力の代替としてのデジタル化(人がやっていた業務をデジタルに置き換えること)も増えてきている。つまり、直接雇用以外の手法も含めた「労働力調達機能」を通じて、人材の獲得をマネジメントしていく必要があるのだ。

 

 

企業と働く人、双方を成長させる投資としての「人材育成」

 

人材を採用したら、個人の能力を高め、長期的に貢献してくれる可能性を高める必要がある。それが「人材の育成」である。しかし、個人の能力ばかり強くすれば良いというわけではない。変化に対応していくためには、常に新しい戦略を創造し、それを効率的かつ効果的に実行していく組織力が継続的に高まらなければならないからだ。

 

また、企業(経営)サイドのニーズばかりではなく、働く人材のニーズにも応えなければ効果的な育成にはならない。自己実現、キャリア形成などの視点から、働く個人が新しい価値を習得できる機会を提供してくことも必要だ。

 

企業(経営)と働く人のニーズの整合性を図りながら、双方の成長を支援していく姿勢が求められる。つまり、人材育成は企業成長と個人の成長の両方に対する投資活動なのである。

 

 

戦略の実現と社員の成長を方向付ける「人材の評価」

 

人材育成をしながら取り組むべきことは「人材の評価」である。評価は賃金の査定のために行うものという印象が強いかもしれないが、それは一面的な捉え方である。評価とは、企業の目標と働く人の目標をリンクさせ(目標設定)、その実績を評価しつつ、次の育成へとつなげるフィードバックを行うことである。また、社員の行動を、企業(経営)が求める行動へと方向付けるために、能力伸長や理念・価値観の実践度合いを評価するのである。

 

評価の仕組みを正しく機能させ、人材の成長につなげるには、社員の間で評価結果に対する納得感がどれだけ醸成されているかが重要だ。被評価者が納得できる評価を行い、適切にフィードバックすることで次の目標への指針を示し、その成長の過程を日々支援していくことが評価の全体像なのである。

 

 

動機付けを支える「人材の処遇」

 

人材を評価したら、「人材の処遇」へと反映させる。処遇とは、金銭的報酬のことだけではない。報酬などの外発的な動機付けと、やりがいを高めるなどの内発的な動機付けを組み合わせて捉えることが重要だ。社外の状況(他社、労働市場の水準など)にも合わせて、人材の労働市場における価値を正しく理解して、それにふさわしい報酬を与えることも人材を処遇する上で必要な視点である。

 

昇進、昇格、抜擢人事など「人材を動かす」こともまた処遇であり、やる気を高めるためのインセンティブとして機能させていくことが必要だ。これは育成の観点からも、人材マネジメントに必要な機能である。会社や組織上の都合だけではなく、キャリア形成における働く人本人の希望なども重視した動かし方が求められてきている。組織が求める能力と人材をマッチさせる機能と、個人のキャリア開発としての機能の両方を兼ね備えたマネジメントが「人材を動かす」ということである。

 

戦略や事業目標を実現するために、採用から定着、活躍までの機能を有機的に結合させ、組織力強化と働く人の貢献価値を高めていくことが、企業経営に求められる人材マネジメントである。

 

PROFILE
著者画像
古田 勝久
Katsuhisa Furuta
タナベコンサルティング HR エグゼクティブパートナー
自動車部品メーカー、食品メーカーの人事部門での採用・人材育成・人事労務業務を経て、タナベ経営(現タナベコンサルティング)へ入社。現場で培ったノウハウをもとに、戦略的な人事・組織の実現に向けて経営的視点からアプローチし、上場企業・中堅企業の成長を数多く支援している。著書に『経営者のための「戦略人事」入門』(ダイヤモンド社)。