その他 2023.10.02

中堅・中小企業が取り組むべき人材投資と、人的資本経営の実装ポイントとは?:コンクリートコーリング

効率的な人材への投資で持続的成長と高収益体質へ

 

タナベコンサルティング・西村(以降、西村) コンクリートコーリングは、専門工事企業として持続的成長と高収益体質への変革を実現されています。まずは事業概要をお聞かせください。

 

 

藤尾 当社はダム・橋・トンネル・鉄道・発電所・河川・空港・商業施設といった公共性の高いコンクリート構造物の撤去・除去に特化した事業を展開しています。日本では高度経済成長期から50年以上が経過。コンクリート構造物でできた社会インフラは劣化し、更新の時期を迎えています。その代表的な事例が、各地の高速道路で実施されているリニューアルプロジェクト(大規模更新・修繕事業)です。

 

このようなインフラの維持・更新を行う際に、当社は老朽化したコンクリートを撤去するという大役を担っています。また、地下鉄のバリアフリー工事でエレベーターを設置するために床に開口をあけたり、駅舎の改造工事で連絡通路を設けるために壁に開口をあけたりする業務も行っています。

 

商業施設では、大阪・梅田の阪神百貨店や心斎橋の大丸百貨店の建て替え工事、駅舎の改造工事では、地下鉄御堂筋線の梅田駅の上下線ホームを行き来できる連絡通路の開口工事などに関わりました。関連会社に機械製造企業を有し、最適な工法開発をオーダーメードできることが当社の大きな特徴です。

 

西村 建設業の課題は人材不足です。コンクリートコーリングの人事・人材面の特徴と課題は何でしょうか。

 

中元 まず採用については、若手社員を中心とした「採用委員会」が主体となって活動し、優れた新卒社員が多数入社してくれるようになりました。

 

2022年11月からは人材採用を目的としたInstagram(インスタグラム)を開設し、インスタライブ(インスタグラム内のライブ配信機能)を活用した会社説明会も行っています。また、2022年度に4名をリファラル採用(社員紹介採用)できました。これは既存社員の満足度が上がってきた証拠だと思います。

 

人材育成については、社内大学「CCCアカデミー」があります。CCCは「コンクリート・コーリング・カンパニー」の略称で、「未経験者でも大丈夫、入社してからしっかり教育します」というポリシーで教育に臨んでいます。

 

その一方で、既存社員や管理職向けの研修が実施できていないという課題があります。一部の社員がアカデミーも兼務する状況で、十分な人員と時間を投資できていなかったことが原因です。その反省から、人材開発部を新設して責任者を配置し、本業としてアカデミーを担当する体制にしました。

 

西村 職場環境の改善について、具体的にお教えください。

 

中元 職場環境については、本社を移転してオフィスをワンフロア化しました。以前は4階建てのビルで部署ごとにフロアが分かれ、各フロアが別の会社かと思うくらい風土に違いがありましたが、ワンフロアにしたことで風通しが良くなったと感じています。

 

ただ、世代間のコミュニケーションギャップは今でも課題です。40~50歳代の社員は、これまでの常識を一度置き、新卒社員に合わせて新しい価値観にアップデートすることで、時代に合った新たな仕組みが作れるのではないかと考えています。

 

また、私自身うれしかったのは、2020年に完全週休2日制へ移行したことです。当時の建設業は土曜日も稼働する現場が多く、年間休日105日という働き方でした。新卒採用の求人票を他社と比較したとき、魅力が少ない要因になっていました。

 

完全週休2日制に絡めて人事制度も抜本的に変えました。昇級・昇格のルールを明確化し、給与の男女差を撤廃しました。人事制度は毎年改善し、「頑張れば頑張った分だけ報われる制度」と好評です。

 

さらに、社内のコミュニケーションを活発にしようと「ビジネスチャット」を導入しました。当社は本社勤務の社員と現場勤務の社員が会う回数は少なく、入社してから3年以上会話したことのない社員がいるのが当たり前でしたが、チャットのおかげで簡単にコンタクトが取れるようになりました。

 

健康経営にも取り組んでおり、屋上庭園を造って息抜きをしてもらったり、自然と歩く距離が増えるようなオフィス設計にしたり、野菜中心としたヘルシーな「置き型社食」を手頃な価格で購入できるようにしています。

 

待遇の改善としては、物価上昇に合わせて基本給の5%をベースアップ。また、長時間労働が問題の職種については、11時間のインターバル制度とフレックス制度を導入しました。さらに、女性の制服を廃止しました。社員からすると朝晩着替える必要がなくなり、会社としては制服代が節約できます。自由な服装で出社できることは、採用面でも良い効果が出るのではないかと期待しています。

 

 

人的資本経営の中核「People Fact Book」

 

 

西村 改善の推進力を高めていくために「People Fact Book」を作成して人事KPI(人事に関する重要業績評価指標)の算出を進めました。

 

中元 People Fact Book作成のきっかけは、タナベコンサルティングの人事研究会で「ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)」の存在を知ったことです。「このガイドラインに従って社内を整備すれば、環境の整った理想的な会社になれるのでは」と考えました。

 

西村 作成の過程で苦労されたことは何ですか。

 

中元 KPIデータを算出してレポートとしてまとめる段階で、藤尾が定期的に発信している内容と、当社のミッションに整合性がないと気付いたことです。

 

藤尾が発信しているのは、「機械化施工やロボットで省人化・省力化を進め、危険なことは機械がやるようにしたい」ということ。一方、ミッションは「環境配慮型の工法開発でナンバーワンになる」で、人に投資しなくても現在の当社の実力でミッションの実現が可能になっていたのです。そこで、「人に投資することで、将来的に何がしたいのか」を考え直す必要がありました。

 

西村 「人に投資して何をしていくのか」を考えることこそが人的資本経営の大義であり、人事戦略の揺るぎない決定的なポイントです。それを明記したのが、People Fact Bookに掲げた「Purpose・Dream・Belief」ですね。

藤尾 Purposeは、「当社が世の中からなくなったら、世界は何で困るのだろう」というところから考えました。大企業とは異なり、スケールは大きくないのですが、「現実的な問題を解決して社会の役に立てるのはどういうものか」と考えた結果です。

 

Dreamは、破壊的なイノベーションを自ら起こしたいという思いから、「どうすれば当社はつぶれるだろう」という逆転の発想で考えました。

 

Beliefは、「Dreamを実現するために快適に働ける環境を提供しよう」ということで定めています。自分自身の健康や当たり前の生活が保障されていない状況では、社会貢献に目を向けることができませんからね。

 

西村 Purposeを達成するためにDreamをしっかりと追い求め、そのためにはBeliefに書かれている3つの大きな方針である人事戦略を実行していくというストーリーになっているのですね。Dreamの実現に向けた人事戦略についてお話しください。

 

中元 Dream実現のためには、ロボットや機械化施工について当社に足りない部分を補えるような人材の確保が必要です。キャリア採用を積極的に行う一方で、私もその中の1つの分野を専門的に学ぼうと考えています。

 

人材育成については、人材開発部が主体となって土木や機械、ロボット、情報システムなどの知識・経験をボトムアップさせる教育カリキュラムの策定・運営に取り組んでいく予定です。

 

職場環境については、心理的安全性の確保を重視しています。対話の際は「安全な場所宣言」から始めて、「傾聴する」「人の発言を受けて発言する」「人の意見を否定しない」というルールを定めています。KPIで弱点を把握して迅速な改善に努めます。

 

 

いかに多くの人の役に立ち喜ばせることができるか

 

西村 人的資本経営を実装する取り組みは始まったばかりですが、現時点での成果と今後の展望をお聞かせください。

 

中元 成果の1つ目は、理想的な会社にするためになすべきことが体系的に分かったことです。人事課題が可視化されたことで改善のスピードが上がると考えています。

 

2つ目は、「人に投資して何がしたいのか」を徹底的に追求して生まれたDreamを実現するためのぶれない方針ができたこと。

 

3つ目は、パブリックコミットメントの効果が得られたことです。毎年、情報を開示すると決めることで強制力が働きます。

 

藤尾 当社は2023年で創業45年になります。これまでの良い伝統や風土は残しつつ、時代や世界の潮流に合わせたアップデートに取り組んでいます。その際、常に考えているのは「いかに多くの人の役に立って、いかに多くの人を喜ばすことができるか」ということです。

 

新しい仕組みを取り入れる際、社内の抵抗はどんな会社でもあります。最初は抵抗されることにストレスを感じますが、だんだんと慣れてきてうまく乗り越えられるようになり、今では抵抗を折り込み済みで推進できるようになりました。

 

会社の持続的な成長という理想が実現するように、まずは行動し、環境を変えてみる。それによって、数多くの中小企業に活力が生まれることを期待しています。

 

西村 本対談を通して学ぶべきポイントは、「人への投資で描ける未来は変わる」「定性的な感覚人事から定量的な戦略人事へ」「人材や組織の価値を再定義する」、この3点です。人的資本として人材の価値を再定義し、投資する対象へと認識を変え、自社での取り組みを進めていただきたいと思います。

 

 

中堅・中小企業が取り組むべき人材投資と、人的資本経営の実装ポイントとは?:コンクリートコーリング

PROFILE

  • コンクリートコーリング㈱ 代表取締役社長
    藤尾 浩太(ふじお こうた)氏
    1998年に入社後、現場、営業、取締役を経て2012年より現職。「社員と家族のしあわせを実現する」ため、柔軟かつ迅速な決断力で社員の挑戦を応援し、社内改革を行っている。安全に対してこだわりを持ち、同業他社では類を見ないほどの現実的かつ厳格な安全作業基準マニュアルを設け、社員及び協力会社に徹底を図っている。BCPを念頭に置いた本社ビルは社員の健康にも配慮し、屋上庭園は社員の癒やしと憩いの空間になっている。また、技術開発も積極的に推進し、新たな価値創造を行うことで安定経営と拡大経営を確立。休日はゴルフで息抜きをしながら、多様な社員たちをまとめる主導者として力強く奮闘中。

 

  • 経営統括室長
    中元 美緒(なかもと みお)氏
    2013年入社。経営統括室にて経営管理、経営企画、戦略採用を担当し、女性初の管理職として経営統括室長に就任。建設業でありながら、あえて建設業らしくない新しい発想で会社のイメージ向上に貢献している。旧態依然とする建設業界の仕事の仕方や風土への疑問から「自分が働きたいと思える会社にする」という強い信念を持ち、公平で透明性のある人事制度やスキルマップの構築などにより戦略人事を推進。人的資本経営については、この必要性を提言し、「ISO30414」をガイドラインに「People Fact Book 2023」をまとめ上げた。何事にも臆さない性格と発想力に満ち溢れたユニークなキャラクターで組織変革をけん引している。

 

 

Interviewer

中堅・中小企業が取り組むべき人材投資と、人的資本経営の実装ポイントとは?:インタビュアー西村直人
西村 直人 にしむら なおと
タナベコンサルティング HR ゼネラルマネジャー

 

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