タナベコンサルティング・浜西(以降、浜西) サイボウズの会社概要をお聞かせください。
山田 当社は「チームワークあふれる社会を創る」を企業理念に、主に企業向けのグループウエア事業を展開してきました。加えて、社内で挑戦してきた制度・風土改革をチームワークコンサルティングとして事業化し、企業研修や組織コンサルティングサービスとして提供しています。
浜西 素晴らしい企業理念です。創業当時から変えていないのですか。
山田 元々は別の企業理念がありましたが、青野慶久が社長に就任してから一つ一つ意思決定する過程で、「どのような製品をつくりたいのか」「どうすればお客さまが幸せになるのか」「お客さまにどのように幸せになってほしいのか」について考えるようになり、「自分たちのプロダクトの行き着く先はチームワークだ」という考えにたどり着きました。
さらに、「どのようなチームをつくりたいか」を考える中で、「理想への共感」「多様な個性を尊重」「公明正大」「自立と議論」という4つのカルチャーが生まれました。
浜西 サイボウズの「100人100通りの働き方」は、社員の体験価値を向上させる魅力にあふれた人事制度ですが、そこに至るきっかけはありましたか。
山田 創業からしばらくは残業が多く、離職率は一時28%まで上昇しました。2週間に1回送別会があったくらいです(笑)。それでも社員は、「世の中のために頑張ろう」という気持ちで取り組んでいましたが、業績が頭打ちになったことをきっかけに、青野と一緒に「ゼロから良い会社にしよう」と話し合い、企業理念に立ち返って一人一人の個性を生かしつつ、可能な限り一緒に働ける制度を増やしていきました。それが、100人100通りの働き方につながっています。
浜西 今では、離職率は5%未満。働きがいのある会社に関する調査では、毎回上位に入っています。この結果からも、企業理念を構成するパーパス(存在意義)とカルチャーの重要さが分かります。(【図表1】)
【図表1】サイボウズの企業理念
山田 その一方で、「企業理念は絶対ではない」ということにも気付かされました。当社には「企業理念は、石碑に刻むな」という言葉があります。石碑に刻むと、代替わりしても企業理念を変えられません。良いところは残しつつ、時代に合わない部分を変えたり、経営者がその時の思いを足したりする方が、企業理念への理解や共感が高まると思います。
今は、企業理念の根本は変えずに「企業理念2021」「企業理念2022」とバーションアップしています。有名店が秘伝のタレを継ぎ足しするように企業理念を守り、維持していくのが良いと思いますね。
浜西 タレの継ぎ足しはイメージしやすいですね。私自身、パーパスの捉え方に新しい視点を得ました。
山田 会社やチームでは一体感という言葉をよく使いますが、一体感とは「パーパスに対しての一人一人の距離」と解釈しています。メンバー同士が横につながるのではなく、基本的には中心にあるパーパスにのみでつながっている状態です。だからこそ、多くの人に共感してもらうため、パーパスは変化させていく方が良いと考えています。
浜西 同感です。パーパスやカルチャーを浸透させるための秘訣はありますか。
山田 1つは、採用を大事にしています。私自身、会社説明会で「サイボウズは何のためにあるのか」を伝えていますが、企業理念が変わる前と変わった後の話をしてから、会社について説明していきます。そこに共感した方に入社してもらい、一人一人に目を向けながら長く働いてもらえるような制度をつくっていく。さらに、制度で会社がどう変わったかもSNSで発信しています。
浜西 社内の人事制度をSNSで発信するのはなぜですか。
山田 全社員に関係する人事制度は、企業理念やカルチャーとしっかりつながっていることが大事です。だからこそ、SNSなどで発信すると「サイボウズがどのような会社か」「どのようなカルチャーを持つ会社なのか」が伝わりやすい。さらに、新たな制度をつくった理由と併せて発信していくと、採用活動においても当社のカルチャーにフィットした人が集まりやすくなります。
浜西 カルチャーや理念に共感する人が多いほど、企業としての意思決定や行動に軸が通ります。社員の在職中、退職後の取り組みについてもお聞かせください。
山田 共感は重要ですが、残念ながら絶対ではありません。企業理念やカルチャーに共感していても、実際に入社してみたら「イメージと違っていた」「活躍できる場がなかった」「上司やメンバーと合わなかった」など、さまざまな要因による退職は避けられません。しかし、だからこそ、在職中や退職後の選択肢は多い方が良いと考えています。
例えば、副業をしながらフレキシブルに働いてみたり、「大人の体験入部制度」で違う部署を体験することで、働き続けてくれる人もいます。さまざまな選択肢があることが大事だと思います。(【図表2】)
【図表2】サイボウズのワークスタイル制度
浜西 一度退職してから再入社できる「育自分休暇制度」もありますね。
山田 一度違う世界に挑戦して、「やっぱりサイボウズが良い」と出戻った人は、コミットメントの度合いや共感の度合いが高まっています。たとえ途中で3、4年ほど当社を抜けたとしても、戻った後に「自分がサイボウズを選択した」と思えるとエンゲージメントやモチベーションは上がるので、長期的に見るとプラスの面が大きい。人を囲い込むよりも、選択肢をそろえて主体的に選んでもらっています。
浜西 パーパスやカルチャーが軸にあり、100人100通りの働き方で社員が主体的に活躍できる組織になっています。
山田 社員一人一人が中心です。会社のやりたいことに共感して「一緒にやりたい」と手を挙げた人が集まっていますが、一方で、会社が「一人一人のやりたいことをいかに実現するか」も重要。優秀な人材はどこでも歓迎されるため、社員に残ってほしいのであれば要望を聞くことが必要です。その結果、100人100通りの働き方にたどり着きましたが、採用に本気で取り組むことや、「卒業生(退職者)は社外にいる仲間」という感覚を持つことも重要です。退職後も良い関係を築ければ、自社のお客さまや取引先、株主になる可能性は十分にあります。
浜西 同感です。パーパスに共感する人の選択肢を増やすことで、互いに尊重し合える関係性をつくることが、社員の人生や会社にとっても良い結果につながります。
山田 その通りです。また、優秀な人材の確保という面でも企業にメリットがあります。例えば、副業をすると社員の給料は下がりますが、満足度は高まります。つまり、選択肢を広げることでお金を掛けずに優秀な人材を確保できるのです。そのためにも、制度の敷居を低くして、活用してもらうことが大事だと考えています。
浜西 価値観が多様化する中、選択肢が多いことは大きな魅力になります。パーパスやカルチャーとしっかりつながった制度づくりが社員の体験価値を最大化し、組織を活性化させていくことをあらためて感じました。本日はありがとうございました。
PROFILE
- サイボウズ(株)
チームワークを支援するグループウエアの開発・販売を手掛ける。「100人いたら100通りの働き方があってよい」という考えの下、社員のパフォーマンスを最大限に発揮できる環境を整備。理念である「チームワークあふれる社会を創る」の実現に向け、画期的な働き方改革を推進しており、社員の求める制度の導入がエンゲージメント向上につながっている。
Interviewer