その他 2022.10.03

顧客価値を最大化する凸版流ボトムアップDX:凸版印刷

 

「Web創注活動」を全社展開

 

タナベコンサルティング・村上(以降、村上) 印刷業界のリーディングカンパニーである凸版印刷はDXの推進に注力されています。貴社のDX事例をお聞かせください。

 

内田 当社は「TOPPA!!! TOPPAN」というキーワードの下、「情報コミュニケーション」「生活・産業」「エレクトロニクス」の3つの事業分野でお客さまの課題解決をトータルに支援しています。私の所属するデジタルマーケティングセンターでは「Web創注活動」というプロジェクトでDXを推進。デジタルマーケティングセンター自らが、ウェブを通じて引き合いを創り、営業と連携して受注につなげる活動で、BtoBのデジタルマーケティング領域における情報発信と集客施策、さらに問い合わせに対する初期対応も行っています。

 

このような活動を行うようになった背景にあるのは、得意先の調達スタイルが変化して「なじみの業者よりもネットリサーチを使う」動きが本格化したことです。

 

こうした流れの中、「TOPPAN DIGITAL」というサイトを2017年に開設して以来、受注金額は順調に伸長。2019年からは経営企画本部を兼務することになり、Web創注活動を全社に水平展開しています。その施策として、デジタル創注基盤の整備とWeb創注活動の推進人材を育成する教育プログラムの提供に努めた結果、2021年度から6部門がWeb創注活動に参画。サイトを立ち上げた後の運営については「Web創注活動 全社連携会議」を月1回開催し、参画部門の支援を続けています。

 

DX推進の中で苦労した点として、「Web創注活動を始めたものの、何をすれば成果が出るのか分からない」「新たなデジタルテクノロジーが次々にリリースされるので、取捨選択の判断が難しい」「取り組む領域を広げて深度も深めたいが、プロジェクトメンバーのモチベーションが上がらない」「BtoBデジタルマーケティングを推進するには他部門との連携が不可欠だが、話がかみ合わない」などが挙げられます。

 

 

ボトムアップDXの推進を支えた「DMAP」

 

村上 DXを推進する過程で、社内の多様なステークホルダーをどのように巻き込んでハードルを越えていったかについてお聞かせください。

 

内田 ボトムアップDXの推進ステップとして紹介します。私がWeb創注活動の推進リーダーになる覚悟をしたのを「ステップ0:立ち上げ」とすれば、多様なスキルを持ったプロジェクト(以降、PJ)メンバーを募って相互理解を深め、PJの成果を創出するまでが「ステップ1:成果創出」。その成果を社内に広報し、PJ外からの理解・共感を獲得してPJ活動の拡大展開を実現させたのが「ステップ2:市民権獲得」になります。

 

私はメンバーに指示待ちではなく自走してもらいたいと考え、自分の好きなテーマに取り組んでもらうという実利を提供する方針を定めました。各人の成果をPJ全体の成果につなげるのはリーダーである私の仕事だと割り切ってPJを進めたのです。ただし、PJの進捗状況(構想→開発→運用→他部門連携など)に応じて、チーム編成を繰り返す必要がありました。

 

また、社内への成果報告にも注力し、PJを拡大展開していくための支援が必要な部門へは、各部門が関心を持つ成果を提供。また、経営層に対しては、成果報告のたびに目標修正を行い、「経営層が期待する成果」の創出に努めました。

 

村上 PJメンバーや関連する部門間の理解・共感を高める上で、どのような取り組みをされましたか。

 

内田 PJメンバー間の相互理解とデジタルマーケティングのリテラシー向上を図るために「DMAP(Digital-Marketing Action Pyramid)」というツールを作成しました。これは戦略・ビジョン→KGI・KPI→マーケティング施策→マーケティング基盤→マーケティング運用体制というヒエラルキーを明確に設定し、一貫性を持ってデジタルマーケティングに取り組むための設計図として、また、チェックシートとして活用できるツールです。DMAPによって「何から手を付けて良いか分からない」といった課題を解決し、「何をすると、どんな結果につながるのか」をPJメンバー間で効率的に共有することができました。

 

 

小さく始めて成果を重ね徐々にスケールアップ

 

村上 デジタルマーケティングを進める上でのキーポイントをお聞かせください。

 

内田 どの会社においても「デジタルマーケティングの導入には総論賛成だけど、傍観者の立場で様子を見る」という方が多いと思います。ですから、DXの推進役には「とにかく自らで推進して、走りながら仲間探しをする」ことをお勧めします。小さく始めて成果を社内に広報していくと、「その成果をこのミッションにつなげよう」と言ってくれる人が現れます。それを積み重ねてスケールアップしていくという流れです。メタ・プラットフォームズ(旧称:Facebook)の創業者、マーク・エリオット・ザッカーバーグ氏が「完璧を目指すより、まず終わらせろ」と言ったように、良い結果だけを求めて完璧に積み上げるよりも、玉石混交した結果を手早く積み上げた方がPJの成果を出せると思います。

 

村上 学ぶべきポイントは、「属人化しがちな営業のプロセスを、DXの活用によって『個対個』から『組織対組織』へ変換する」「成功体験や成果を仲間と共有・共感し、組織全体でDXを進める」「成果を計測・数値化できるというデジタルの強みを生かし、組織で体系化、ロジック展開を推進する」の3点です。気鋭のリーダーが推進するボトムアップ型と経営者の決断に基づいたトップダウンを組み合わせることで、より効率的にDXが実現すると感じました。

 

 

内田 智宏(うちだ ともひろ)氏
凸版印刷 情報コミュニケーション事業本部 マーケティング事業部
デジタルマーケティングセンター ビジネスマネジメント部 部長

 

 

PROFILE

  • 凸版印刷(株)
    顧客一人一人の“今”を理解し、ニーズに合った顧客体験を提供することを企業活動の最重要テーマとし、顧客ごとに最適なシナリオを提供するサービスを展開。また、顧客体験を起点としたマーケティングを設計し、継続的な顧客体験価値の創出を支援している。

 

 

Interviewer

村上 幸一(むらかみ こういち)
タナベコンサルティング 執行役員 ストラテジー&ドメイン東京本部 本部長