1.顧客目線でCXを視覚化し、やるべきことをシンプルに表現する
次に、CXを分解する。この分解について、縦割りのワークフローはお勧めしない。業務の目詰まりはよく把握できるが、顧客視点での気付きが弱くなる可能性があるからだ。私は、「円」で分解して示す「ホイールジャーニー」をお勧めしている(【図表3】)。顧客を真ん中に置き、考えることができるからである。
【図表3】顧客の目線からCXを視覚化する
その上で、上質なCXをデザインするステップに移る。顧客の潜在的な課題は何か、顧客のコア業務は何か、それを遂行するために面倒なことは何か、顧客がストレスを感じるところはどこか、顧客はどのような空間・時間・対応に心地良さを感じるかなど、徹底した顧客視点から本質的な課題を見つけ出す。
2.CXのコンセプトとコアバリューをつくり、分かりやすく伝える
CXにおける課題の解決策、すなわち「自社がやるべきこと」をシンプルにまとめる。これが重要なポイントだ。詳細な具体策は後からで良い。全社員が一丸となり、考え始めることが大事である。だからこそ、シンプルなコンセプトとコアバリューを打ち出していくべきなのだ。
3.DX投資と顧客体験タッチポイントへの投資
上質なCXを提供するための投資ポイントは3点ある。どこに投資するかは、その企業のCXコンセプトが何かによって違ってくる。
①UXへの投資:顧客の目に触れるもの全ての心地良さ、分かりやすさ、ストレスフリーを求めた投資
②DXへの投資:顧客視点でのバリューチェーンの最適化が主となる
③リアル体験価値への投資:顧客とのタッチポイントへの設備投資(例えば、スターバックスの“サードプレイス”という考え方に基づいた店舗や、IKEAのルームセットディスプレー)
4.CXを体現する人材育成とカルチャーづくり
CX活動を体現する鍵になるのは人材だ。ポイントは4点ある。
1点目は、エンゲージメントを高めるリーダーの育成。人材づくり、カルチャーづくりでまず大事なことは、リーダーの存在である。ミッションやビジョンを熱く語る、ブランドやアイデンティティーを丁寧に語る、仕事(顧客価値提供)への熱量を持って実践している、良質なCXを経験する場を与えている(部下を成功体験へと導いている)、自らのワーク・ライフ・バランスが取れている、といったリーダーが必要ではないだろうか。
2点目は、顧客について学び、CXを伝えるアカデミー(企業内大学)。良質なCXを顧客に提供するのは人材である。アカデミーを設置し、フロント・ミドル・バックオフィス全ての社員が顧客について学び、良質なCXを提供する上で大切なことを考える「学びの場」をつくる必要がある。
3点目は、徹底した現場への権限委譲(エンパワーメント)。値引きや価格設定などの“権限”ではない。良質な顧客体験を提供する上での判断を現場に委譲していくのだ。分かりやすく言えば、サービスに対する現場への権限委譲を推し進めていくのである。人事考課への反映は後からで良い。まずは権限を委譲し、社員一人一人の成果事例にスポットライトを当てることのほうが大事である。
4点目は、KPIのリアルタイムな可視化(ダッシュボード)。定めたKPIをリアルタイムで可視化するダッシュボードを制作し、全社員で成果を祝福し、喜べるムードをつくってほしい。
CX活動の根幹は、DX(デジタル化)、人材育成、企業文化づくりに継続して全社員で取り組む活動である。長期間積み上げれば、競合他社が追い付けない競争力として、企業のサステナビリティ(持続可能性)を約束してくれるだろう。
コロナ禍にあって増収増益を続ける企業の共通点は、「海外市場での伸長」である。キーエンス、ヤクルト本社、ファーストリテイリング、エムスリー、鹿島建設などだ。国内で磨き抜いた日本流のCXの強みを海外に移転したことが成功要因となっている。
このうちキーエンス(大阪府大阪市)は、日本流の「世界初、業界初を生み出す」「ダイレクトセールス」「当日出荷」を海外に持ち込み、顧客を開拓している。2022年3月期連結決算では、売上高7551億7400万円(前期比40.3%増)、営業利益4180億4500万円(同51.1%増)、経常利益4312億4000万円(同50.5%増)と大幅な増収増益を達成。このうち海外売上高(4449億9400万円)の前期比伸び率は47.7%増であり、海外比率は58.9%(前期は56.0%)である。
日本は人口減少マーケットで頭打ちになることが明白だ。製品を海外に輸出するだけではなく、CX価値を磨いて海外へと移転させることで、グローバルの道を拓いていただきたい。