OMO(Online Merges with Offline)とは、デジタルデータを起点にオンラインとオフラインを融合させる体験施策を意味する。あなたの会社の営業やマーケティング、人事などをOMOでデザインし直していただきたい。
コロナ禍が続く今でも、地上戦(リアル)には強いが空中戦(デジタル)に弱い企業・組織がいかに多いことか。これからの時代は、リアルもデジタルも両方を駆使できるハイブリッドマーケティングが必要だ。ハイブリッド戦を制する者が、マーケティングを制する時代なのである。
OMOでビジネスをデザインすると、顧客接点(タッチポイント)の場は激増する。例えば、これまではリアルの店舗で実際に接して感じる前に、オンラインで印象が決まってしまう。オンラインにおける各タッチポイントでの顧客体験の印象が悪ければ、企業のブランドやイメージに悪影響が出かねない。逆に心地良い体験であれば、ブランドやイメージの向上につながる。オンライン上での顧客接点も、企業にとって認知や信頼の醸成に欠かせないものとなっている。
OMOをデザインする上で重要な手法が、「カスタマーサクセス」と「カスタマージャーニー」である。カスタマーサクセスとは、自社製品・サービスによって顧客を成功(顧客が望ましいと考えていること)へ導く取り組みのことである。またカスタマージャーニーとは、顧客が自社製品・サービスを認知・購入・利用・廃棄に至る過程(=旅路)で時系列に顧客体験を分析する手法をいう。私は、これらを同時に実現するメソッドとして「顧客が顧客を呼ぶ『善循環サイクル』をOMOジャーニーでデザインする」と提言している。
カスタマーサクセスを直訳すると“顧客の成功”となる。しかし、カスタマーサクセスは顧客の成功や要望を満たすだけのサポートではない。受動的ではなく能動的に働き掛けることで、顧客の成功と自社の収益の両立を目指すマーケティングの概念である。
私は、カスタマーサクセスの究極は、顧客が顧客を呼ぶような満足度を達成することだと考えている。すなわち、顧客が体験し、購入し、活用して、他人へ紹介したくなる「いいね」を獲得するということだ。
カスタマーサクセスは、顧客に販売して終わりというものではない。顧客が自社の製品・サービスを利用することで得る成功や成長を維持・増幅させられるようにサポートしていくことも、ビジネスの目的になる。したがって、能動的にアドバイスやサポートを行うことが重要となる。
カスタマージャーニーとは、前述したように、顧客が製品・サービスを購入・利用するプロセスを「旅」に例えた概念である。最も重要なターゲット顧客モデルである「ペルソナ」の趣味嗜好や価値観、ニーズ、行動特性などの定性データも組み合わせて、顧客の購買行動を時系列で整理し、購買・利用までの“旅路”を定める。その過程における顧客の「行動」「感情」「商品との接点(タッチポイント)」などを可視化した「カスタマージャーニーマップ」が詳細であるほど、実際の購買活動に沿ったマーケティングが可能となる。
カスタマージャーニーマップは、顧客が何を考え、どのような行動を経て購入に至るかを時系列に可視化したものといえる。したがって、サクセスとジャーニーを組み合わせることにより、「成功体験を得た顧客が、新たな顧客を呼ぶような善循環のカスタマージャーニーをデジタルとリアル(OMO)によってデザインする」ことが重要となる。顧客の購買行動を追い掛けるだけでは、あまり意味がない。善循環のマーケティング体験フローが大切なのである。
DXビジョンを策定する際は、4つのセグメント「ビジネスモデルDX」「マーケティングDX」「マネジメントDX」「HR(人的資源)DX」で整理する必要がある。DXビジョン(DX戦略)においては、どの分野のDXなのか、また優先度なども明確にしなければならない。自社のポジションを再認識し、その上で投資を決断していく必要がある。
【図表】はタナベコンサルティンググループが取り組んできたDX戦略と体験価値を表したものだ。4つのDXが3つの体験価値であるCX、EX、SXとつながっていることが分かる。
【図表】DXビジョンのデザイン(タナベコンサルティンググループの例)
DX、M&A、サステナビリティ、グローバルを要素とした中長期ビジョンを描き、その中でDXビジョンを明確にし、4つのDX(ビジネスモデル・マーケティング・マネジメント・HR)と3つの体験価値(CX・EX・SX)を実装する戦略を描くことが大切である。上位概念としての4つのビジョンと融合することで、企業のDXは加速していく。さぁ、経営に体験価値を実装しよう。