種戸 MAツールを導入後、どのような変化が生まれ、成果につながったのでしょうか。
浦部 変化を生むには営業担当者の協力が不可欠でした。MAツールを使ってお客さまにメールマガジンを配信したくても、送り先のメールアドレスがデータ化されていなかったのです。そのため、全社から顧客データを収集して一元管理するためにSansanを使いました。ただ、お客さまの名刺は営業担当者にとって努力して集めた財産です。横取りされる感覚もあったようで、当初は積極的に協力してもらえませんでした。
種戸 その問題をどのようにクリアされたのでしょうか。
浦部 成果はまだ出ていなかったものの、名刺をデータ化できれば一度に大量のメールマガジンを送ることができ、問い合わせ件数が増えると確信していました。お客さまから、「メール見たよ。うちも欲しいんだ、こういうの!」と声が届くと、すぐに営業担当者に報告して営業対応を依頼しました。デジタルを活用した提案プロセスを営業担当者が体験することで、少しずつ「自分が動かなくても、お客さまに会うきっかけを自動的につくれる。しかも、楽だ」と実感する機会が増えると、ようやく軌道に乗り始めました。
種戸 営業担当者はパソコンで楽に顧客情報を管理でき、問い合わせや見込みのある顧客に効率的に提案できるようになったということですね。具体的な数字に表れた成果を教えてください。
浦部 実績は劇的でした。それまで、自社ホームページへの問い合わせ件数は年間6件ほどでした。それが、MAツールの導入後は1年間で90件と、一気に15倍以上に増えました。受注率も20%を超え、受注につながる問い合わせが相次ぐようにもなりました。
種戸 成果が出ると、当然やる気も生まれます。営業手法だけでなく、マーケティングDXの文化の醸成にもつながっていきますね。
浦部 MAツールを使えば、営業プロセスはさらに効率的にできます。デジタルマーケティング手法を用いれば、これまでにない大きな商圏をつかみ取ることができて、受注率も上がる。そんな小さな成功体験を積み重ねることで、社内のMAツールに対する抵抗感が薄れて「デジタルも含めた新しい営業のカタチ」が出来上がると考えています。私の中の「デジタルで目指すゴール」はまだずっと先にありますが、いきなりそんな話をしても誰も付いてきてはくれませんからね。
種戸 若い世代の社員が多いことも追い風になっています。
浦部 営業拠点に所属する年配の社員には、若手社員が主体的にレクチャーしてくれました。今では、年配社員も若手社員も随分と変わりました。スマートフォンって、気が付けば普及してさまざまな世代の方が使いこなしていますよね。それと同じように、「パソコン上で顧客データを見る」「営業戦略を練る」という姿が当たり前になり始めています。
種戸 今後は、「トヨコンのDX」をどのように進化させていく予定でしょうか。
浦部 MAツールを用いた情報提供は、導入当初はメールマガジンだけでした。今ではウェビナーやYouTube、ブログ、他社事例レポートなどの多様なコンテンツを活用し、オンラインによる営業活動もスタートしています。デジタル上の顧客接点は増えているので、「お客さまがどのタイミングで、どの顧客接点を使って情報を収集しているのか」を考えながら、セールス領域も変えていくことがこれからのステップになります。
デジタルかリアルか、どちらかだけではなく、オンライン・オフラインを問わず顧客接点を増やしながら、お客さまが望むタイミングで当社にアクセスできる形を構築していきたいです。
種戸 DXを推進する現場で、特に気を付けるべき課題は何でしょうか。
浦部 自社のサービス、あるいは売り上げや利益だけを考えてしまうとDXは進まないと思います。顧客視点に立ち、「どのようにトヨコンと関わるのか」「どのようなことをトヨコンにしてもらえるのか」と、お客さまが望むことを考えながら推進していく必要があります。
種戸 それは、明石社長が目指した「モノ売りからコト売り」をお客さまに提供することがDX成功の鍵になる証しと言えます。
最後に、明石社長にも、トヨコンのDXの進化形を踏まえて、将来的なビジョンについて教えていただきたいと思います。
明石 おかげさまで、迷いながらも進めたDXが芽吹き、2020年8月にはインサイドセールス(見込み顧客に対して主に遠隔で営業活動を行う手法)の専門部隊を発足しました。先ほど浦部が説明したように、ウェビナーやYouTube動画の制作など、商品PRに向けた取り組みも進めています。若い社員がつくるコンテンツには驚きの連続ですが、「『デジタルネイティブ』と呼ばれる世代がこれからの時代をつくっていくのだな」と、実感しています。
さらに、2021年1月にはIT業界に精通した人材をスカウトし、「DX推進室」を発足しました。浦部が進めるMAツールを用いて顧客接点を強化しつつ、RPA(デスクワークの自動化)やHRテックなど、社内業務の効率化を目指したデジタル化も進めていきたいと考えています。
種戸 マーケティングDX導入の成功によってバックオフィスDXの弱点に気付くことができ、そこに手を加える。その次は、さらにHRDXも拡充していくということですね。
明石 セキュリティー上の問題など、社内にはまだ課題があります。当社は今、2030年ビジョン「Leading Transformation, Succeeding Together(変容をリードし、共に成功する)」を策定しています。「10年後にはもっと変容していくぞ」と、自ら変化していく姿を表すスローガンです。当社が変容し続けることで、お客さまや社会の変容もリードし、ともに成功する顧客貢献、社会貢献を果たしていく。そんな存在になっていきたいですね。
種戸 進化を続け、変容を遂げ、「Transform TOYOCON」を実現してほしいと思います。本日はありがとうございました。
PROFILE
- (株)トヨコン
- 愛知県・東三河エリアを拠点に総合物流サービスを展開。大手事務機器メーカーの精密機器の梱包作業の担い手として1964年に設立。「とことん、トヨコン」をキャッチフレーズに物流に関するトータルソリューションを提供している。2017年にMAツールを導入し、営業工数を削減するとともに成約率を向上させ、前例の少ない業界においてマーケティングDXを推進している。
Interviewer
種戸 則文(たねと のりふみ)
タナベ経営
中部本部 副本部長