DXの実装に当たっては、まず社内の課題(戦略的課題・組織的課題)を解決しなければならない。挑戦すべきことは、「DXカルチャーの創出」「DX組織の構築」「DX人材の育成」である。
(1)DXカルチャーの創出
DXにおいて最大の成果となり得るのは、全社員がデジタルに対して正しい知識と理解を持ち、デジタルが「当たり前」の企業文化を創ることである。一部の社員だけがDXを推進するのではなく、全社員がデジタルを前提として仕事を組み立てられるようにならねばならない。
したがって、経営トップがDXの過程において、社員に対してどれだけ推進力を持ち、DXの重要性を社内に理解させることができるかが、DX価値を実装する上で重要となる。
DXカルチャーを根付かせるためには、ある程度の年月を要するが、社員とのコミュニケーションの中でDXによる成果を全社的に取り上げ、メリットを訴求していく。それとともに、カルチャーが定着するまでは現場の意見をこまめに聞き、細かな部分であっても改善しているという姿勢を見せ、社員に我慢をさせないことが重要である。
当初は、「できないこと」ばかりが注目され、ネガティブな意見も多くなるのが常だが、改善姿勢を見せることで、やがて「できること・したいこと」にフォーカスされ、建設的な意見が増えていく。
(2)DX組織の構築
DXは一時的なシステムやツールではなく、恒久的な仕組みである。システム・ツールの導入時は、一時的なプロジェクト形式で実施することが基本だが、システム・ツールが全社の機能として「当たり前」に定着するためには、最低でも3年の年月を要する。
その間も、PDCAを回して常に改善していかなければならない。その推進を担う組織をデザインすることが、DX実装における大切な要素であり、最も難易度が高い部分でもある。
DX組織に最も必要な人材は「戦略リーダー」だ。DXは、各機能・組織においてプロジェクトを組成して推進するため、基本的には各機能・組織におけるDX責任者を立てる必要があるが、DX組織においてはその責任者と同じ目線でプロジェクトを進行でき、かつ競争優位を発揮するための全社戦略に関わる必要がある。
その人材として、全社的な視点を持ち、組織を横断的に見ることができる戦略リーダーの存在が必要となる。戦略リーダー以外にも、ITスキルやデジタルの知識に長けた人材、アライアンス(渉外)担当や社内窓口などの人材も必要となる。
また、DX組織は全社活動の推進力を求められるため、経営トップ直轄であることが望ましい。(【図表2】)
【図表2】DX組織の構築例
(3)DX人材の育成
DXは、トップダウンだけでは成立しない。全社における課題を正しく認識し、アイデアを生み出す人材が必要不可欠である。
IT人材と、「DX人材」は似て非なるものだ。IT人材がIT専門スキルに精通し、自社のシステム開発や保守を担う人材であるのに対し、DX人材は企業の経営課題や戦略課題に向き合い、デジタルを通じて解決することができる人材である。
DX人材は、育成からしか生まれない。ITに関する知識・スキルがある人材を採用しても、すぐに経営課題や戦略課題を解決するには至らず、現在の社員からDX人材を生み出そうとしても、まずはデジタルリテラシーを高める必要があるからである。
したがって、DX人材の育成ストリーは、大きく次の2つに分けられる。
①IT人材を採用し、実務を通じて自社のビジョン・業務内容を理解させる
DXを進めるに当たって、IT人材の採用は欠かせない課題である。しかし、採用しただけでDXを推進することはできない。まずは、実務や社員とのコミュニケーションを通して自社のビジョンや現状を理解してもらい、経営課題や価値判断基準を擦り合わせていく必要がある。
②自社を理解している既存社員を登用し、デジタルリテラシーを高める
前述した通り、IT人材を「DX人材」に育成していくには、ある程度の支出や時間を要する。したがって、当初はITスキルがなくとも、自社の業務内容を深く理解している既存の社員を登用し、プロジェクトや教育を通じてリテラシーを高めていくことも必要である。
すでに自社のビジョンや業務内容を理解しているため、ある程度のベースとなるデジタル知識を教育することで、DX人材として成長することができる。
これら2つの育成ストーリーは、どちらかを選ぶというものではない。ITに関する知識・スキルを持った人材と、自社を理解している人材でチームを編成することにより、相乗効果が生まれてDX人材の成長スピードをさらに加速させることができる。
DX人材は、デジタルを通じて経営課題や戦略課題を解決へ導くとともに、社員への啓発活動を通じて全社のリテラシー向上を図り、DXカルチャー創出の一端を担う。そのため、DX人材の育成に挑戦すること自体がDX推進につながる。