ビジネスDXによる事業モデルの進化
講師:タナベ経営 執行役員
ドメインコンサルティング東京本部長
村上 幸一(むらかみ こういち)
ビジネスDXとは、「事業戦略やビジネスモデルのデジタル化により顧客価値を向上させ、他社との優位性を確立して企業価値を高めていくこと」と定義できます。今やデジタル化への取り組みは、企業にとって死活問題とも言えるでしょう。
日米企業を比較すると、DXを推進する際、日本企業の多くが「業務オペレーションの改善や変革」「既存ビジネスモデルの変革」を目的としているのに対し、米国では「新規事業・自社の取り組みの外販化」「新製品やサービスの開発・提供」を目的とする企業が多いことが分かっています。
この比較からも分かる通り、日米企業間ではビジネスDXの取り組みに対して大きな差が開いています。より詳しく見ていくと、ビジネスDX推進における日本企業の課題として、①ゴールイメージ・to be modelの欠如(DXを通じてどうなりたいか、ゴールイメージが曖昧)、②推進組織・体制の不整合(トップを中心とした変革が不可欠)、③IT人材の不足、の3つが挙げられます。
一方、ビジネスDXの先進国では、体内認証チップによる乗車検札システム(スウェーデン)、生体認証システムを活用した無人コンビニエンスストア(米国)、生活のあらゆる場面での二次元バーコードによる決済(中国)を実現しています。
ビジネスDXは、「コスト・リスクの最小化」(バリューチェーンの各機能にDXを実装)、「収益の最大化」(デジタライゼーションビジネス※の推進によるサービスのデジタル化)、「企業価値の最大化」(プラットフォームビジネスを展開して新たな付加価値を創造)という3つのカテゴリーに分類できます。各カテゴリーは互いに関わり合い、全体的に拡張していくMRCE(Mutually Relative and Collectively Expansive)な関係性を持っています。
「全社戦略としてのビジネスDX」(明確なゴールイメージを持って全社的なビジネスDXを展開)、「3つのDXカテゴリーとMRCEアプローチ」(自社の状況に応じたカテゴリーのDXを推進)、「高速で進化し続けるDXに対応した組織づくり」(DX専門部署の設立、ITリテラシーの高い人材育成)の3つに注力し、ビジネスDXの推進に努めていきましょう。
※SaaSモデル(必要な機能を必要な分だけ利用できるソフトウエアを活用したビジネスモデル)やイノベーションモデル(3Dスキャンによる採寸でジーンズがオーダーできるといった革新的ビジネスモデル)
ecomoから学ぶDX推進の着眼
講師:タナベ経営
ドメインコンサルティング東京本部
部長
石丸 隆太(いしまる りゅうた)
自然素材の家づくりを展開するハウスメーカー、ecomo(神奈川県藤沢市)は、プロモーション、集客、商談、契約、施工・現場管理のDXを、①置き換え、②効率化、③競争力強化、という3ステージに分けて取り組むことで実現しました。
ポイントは「トップダウンによるDXへの明確な意思」「専門部署設立による実施体制の整備」「専門人材育成によるITリテラシーの向上」。情報システム部門などに丸投げするのではなく、トップが主体となって啓蒙活動を行い、全社最適な組織づくり、人材育成を実施することがDX推進には不可欠となっています。
IT情報プラットフォームによる進化
講師:タナベ経営
ドメインコンサルティング東京本部
部長
井上 裕介(いのうえ ゆうすけ)
Retail AI(東京都港区)は、最先端のIoTデバイスを店舗に導入し、小売・流通業界に新たな付加価値を創出しています。同社の「Retail AIプラットフォーム」を活用し、消費者の購入情報を小売やメーカーに即時発信することで、スピーディーな商品開発が可能になります。
また、店内AIカメラやRFIDタグと連動した「スマートショッピングカート」で消費者の購買を促進。さらに、メーカー・小売間での情報連携により、流通の効率化・最適化を図っています。事例を参考に、商品開発・マーケティング・サプライチェーンの進化を実現させるデジタルプロセスの開発に取り組みましょう。
事業・商品のサービス化によるビジネスモデル革新
講師:タナベ経営
ドメインコンサルティング大阪本部
本部長代理
森田 裕介(もりた ゆうすけ)
ファーストグループ(東京都渋谷区)は、自動車整備工場から事業転換し、現在はMaaS※を見据えたDXサービスを提供する「カーライフテック企業」として注目を集めています。同社のビジネスモデル革新の成功要因として、「DXによる事業・サービスのマルチ化」「AIを活用したアフターマーケット攻略」「同業・異業種との連携によるDX推進」が挙げられます。
今後、あらゆる事業はサービス化する動きが強まり、事業の成長を後押しするのはDXです。「既存事業のDX化」「新たな顧客創造モデルの設計」「DX推進のための連携強化」へ取り組んでいきましょう。
※Mobility as a Service:あらゆる交通手段を1つのサービス上に統合し、より便利な移動を実現するサービス