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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

「はかる」を究めて全世界・全産業に挑む「勝てるニッチ市場」創出戦略 A&Dホロンホールディングス

A&Dホロンホールディングス A&Dホロンホールディングス 代表取締役執行役員社長 森島 泰信氏    
小さい市場でも技術が高ければ成長できる
タナベコンサルティング・石丸(以降、石丸) 家庭用ヘルスケア製品から自動車産業・航空宇宙産業用の最先端測定システムまで、幅広い製品を世界各地で提供する株式会社A&Dホロンホールディングス(以降、A&DホロンHD)は、1977年の創業以来「はかる」技術に徹してこだわり、磨いておられます。世界中に新たなニッチ市場を創出し、経常利益率13%を超える高収益企業に成長させた森島社長にお話を伺います。まず、これまでの歩みをどのように振り返られますか。 A&DホロンHD・森島氏(以降、森島) 47年前、創業メンバーは14名でした。当時から今のような会社を想定してスタートしたわけではなく、「当社の技術で作れるものは、何でも作ろう」と必死に道を切り開いてきた結果として今があります。 最初は電圧計、つまり電子計測器からスタートしたのですが、なかなか日の目を見ませんでした。そのような中、計量器の電子化が求められたタイミングに、顧客からロードセル変換器(荷重を検出して電気信号に変換するセンサー)の開発を依頼されたのです。好機に恵まれ、この事業が一気に花開きました。 それからは、とにかく計量器であれば何でもやろうと、1987年に売上高100億円まで急成長し、事業の基盤を築きました。その後、血圧計を手掛けていた会社と統合し、バブル崩壊後は「当社の技術が生かせるならば」と、自動車産業を含めて新しい事業に幅広く挑戦し続けてきました。私はもともとメカニカルエンジニアなのですが、学生のころから、将来はエレクトロニクス産業が伸びるだろうと肌で感じていました。 石丸 社員の方々とお話しすると、漏れなく「自社の強みは『はかる』技術です」と断言されます。この共通認識は、どのように浸透していったのでしょうか。 森島 「はかる」技術は、産業のマザーツールとも言われます。あらゆる産業において「はかる」ニーズが存在する。ただし、個々の産業別に見ると、市場は決して大きくありません。 例えば、電子天びんは世界的に見ても1000億円前後のマーケットです。大手企業にとっては市場規模が小さくてターゲットにならない場合が多いのです。しかも、市場規模とは裏腹に、深くて新しい技術が求められる。 私たちは「技術屋集団」ですので、新しい技術に対する好奇心や挑戦する力を持っています。理屈ではなく肌感覚で、当社の技術で成功すると感じたマーケットには積極的に挑戦してきました。その結果、現在はさまざまな「はかる」事業を展開できています。しかし、いま手掛けている分野は、全体のごく一部です。まだ十分に開拓の余地があると思っています。 石丸 小さくてもマーケットを見いだして、自社のコア技術を展開することで成長されてきたことが分かりました。顧客とはどのように向き合ってこられたのでしょうか。 森島 まず、当社が強みとする「8つの基盤技術(アナログ回路技術、デジタル回路技術、金属膜・箔技術、信号処理技術、ソフト開発のためのツール技術、計測データ管理技術、CAEを用いた設計技術、物理現象のモデル化技術)」を常に磨いて進化させながら、顧客ごとにそれぞれ異なる「アプリケーション技術」を取り入れて、開発スピードや生産効率の向上に貢献してきました。 事業が軌道に乗り始めてからは、より意識的に基盤技術とアプリケーション技術を分けて考えるようになりました。アプリケーション技術は「お客さまありき」です。顧客のニーズをいち早く理解し、現場の評価を得ながら磨いてきました。 石丸 「現実」「現場」「現品」を大切に、いわゆる「三現主義」で事業を進めてこられたのですね。
長年の信頼関係を礎に経営統合
石丸 半導体フォトマスクの寸法測定装置を開発する株式会社ホロンと経営統合した経緯について、お聞かせいただけますか。 森島 2018年にホロンを子会社化し、2022年に経営統合して、持ち株会社体制に移行しました。ホロンの創業は1985年ですが、実はそれより前からご縁があります。後にホロンに参画する技術者と、A&Dに参画する技術者は、日本電信電話公社の武蔵野研究開発センタ(当時)で電子ビームによるフォトマスク描画装置を一緒に開発した仲間なのです。そのため、ホロンとA&Dは創業当初から技術交流を続けてきました。 これから先、半導体のさらなる微細化・多層化が進む中で、新しい測定装置も求められます。両社の技術を合体させて新しい製品を作っていこうという展望の下、より経営を一体化して運用していくために統合しました。そして、事業の多角化をさらに推進すべく将来を見据えてホールディングス化した次第です。 石丸 長年の技術交流の中で培われた信頼関係をベースに、経営統合されたのですね。2010年3月期以降の業績を見ると、右肩上がりで伸びています。その要因を分析すると、技術力と販売力が際立っていると感じます。その根幹にあるのが「アナログ・デジタル(AD)変換技術」だと思います。 森島 AD変換技術を生かした計量器の電子化事業は、偶然に舞い込んだ依頼がきっかけでスタートしましたが、その時に「日本にも電子化の波が必ず来る」と確信しました。その後、最先端のマイクロコンピューターを搭載した電子天びんを発売した時には、マーケットのインパクトの大きさを肌で感じました。 当時の売上高はまだ20億~30億円程度で、3億円の負債を抱えていましたが、リスクの先に大きな可能性があることを全社員が確信し、集中的に開発したのです。その効果は絶大でした。創業から10年間は、さまざまな技術を融合しながら、マイクロコンピューターを搭載した日本初の電子天びんや、センサー事業・エレクトロニクス事業に不可欠な天びん用ロードセル・ゲージなどを開発し、高い評価を得ることができました。 石丸 海外売上比率は現在どれくらいですか。 森島 計測器・計量器は、全体の半数を海外で生産しています。販売先は海外のユーザーが7割です。半導体に関しても、生産は日本国内ですが、納入先の大半は海外となっています。 石丸 いろいろな企業が海外にチャレンジする中、思うように成果を上げられなかったというニュースも少なくありません。海外で成功できた要因をどのように分析されますか。 森島 現地の出身者をトップに据え、文化を踏まえてニーズに応えてきたことが、一番の要因だと思います。 前述のように、マーケットは小さくても非常に高い技術が求められるため、当社は創業当初から売上高の10%を研究開発費として投入し続けています。「数」を売らなければ研究開発費の償却ができず、競争力も高まりません。国内だけでは成り立たないのです。 当社が初めて海外に進出し、米国に現地法人を立ち上げたのは創業5年目の1982年です。一般的に販売は大手代理店に任せる企業が多いようですが、当社の製品はアプリケーションを熟知した技術営業が直接アプローチしないと販売を拡大できません。そこで、代理店を一切使わず、自分たちの手で売ってきたのです。直接売れば、お客さまの声も直接聞くことができます。 石丸 海外でも現場の声をしっかり聞くよう徹底されているのですね。 森島 顧客とのコミュニケーションは非常に重要だと思います。  
市場変化への対応力が命運を左右する
石丸 A&DホロンHD は、①半導体、②医療・健康、③計測・計量の3領域で事業を展開しています(【図表】)。それぞれの市場における課題と、アプローチ方法をお聞かせください。     【図表】A&Dホロンホールディングスの事業別売上高構成 【図表】A&Dホロンホールディングスの事業別売上高構成 ※DSP:計測・制御・シミュレーションシステム 出所:A&Dホロンホールディングス「2024年3月期決算説明資料」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成       森島 まず全体として、市場変化に素早く対応していかないと事業は存続できないと実感しています。8つの基盤技術は普遍的なものですが、市場の変化が大きければ大きいほど、それに合う事業内容に変えていかなければなりません。 半導体について言えば、IoTやAIの進化を背景に極めて高速な処理能力が求められ、それを使う顧客が増えています。また、国家安全保障の観点から、半導体は、開発・製造のインフラを国ごとに整備する流れが強まっています。現在、中国・米国・欧州は強烈に投資していますし、将来はインドもそこに加わるでしょう。 微細化は2nm(ナノメートル)まで突き詰められて限界に近づいていますので、今度はさらに多層化して高速・省力を実現する技術も現れ始めています。そのような半導体を実現するための測定装置のニーズは極めて大きく、ビジネスチャンスが広がっています。 医療・健康については、地球規模の高齢化を背景に全体として需要が伸びています。また、コロナ禍で遠隔治療のニーズも一気に加速しました。取得したデータに基づいて薬を投与する、あるいは健康維持のプログラムを提供するサービスが大きく伸びています。米国ではすでに、測定データをクラウドに直接転送できるセルラーモジュール搭載の血圧計が普及し始めており、そのデータを第三者や医療機関が利用するサービスも強化されています。今後、こうしたサービスに対応した製品が増えていく中、いかにして今までにない技術を開発していけるかがキーになるでしょう。 最後に、計測・計量についてです。最も大きな流れは、カーボンニュートラルですね。中でも、自動車関連の開発ツールはガソリン・ディーゼル向けの製品からEV(電気自動車)向けの製品へニーズがシフトし始め、新しい技術要素が要求されています。これから世界各国で需要が増えると考えられますので、その対応に総力を上げて取り組んでいるところです。  
技術・ノウハウの継承とビジョンの共有・浸透が持続的成長の鍵
石丸 開発は、A&DホロンHDの経営戦略における柱です。技術はどのように蓄積しているのですか。 森島 それは極めて重要な課題です。技術・ノウハウは人に付随するもので、ソフトウエアのようにはコピーできません。社内では技術継承や各種データの有効利用の取り組みを行っています。特に過去の回路図はノウハウの塊ですので、再利用の仕組みを検討しています。また、日本国内では人口減少が加速しているため、開発のグローバル展開についても模索しているところです。 石丸 海外現地法人との信頼関係を築くために取り組んでいることはありますか。 森島 ビジョンの共有です。米国ではClearly a Better Value というコンセプトを打ち出しました。特に海外は、日本よりビジョンが浸透しやすいと感じています。グローバルで共通言語を持ち、具体的な事例を通して理解を深めていくことが大切です。 石丸 マーケットを三現主義で的確に捉えて、こだわりの技術をぶつけていく。これまでのお話からビジネスモデルがよく分かりました。最後に、それを実現する組織づくりについてお伺いします。 森島 目下の課題は世代交代です。当社では、技術・営業・マーケティングが事業領域ごとに戦略を立てて実行できるSBU制を導入しました。各SBU に一定の決定権を与えるとともに、従来からの機能別組織も動かすことで生産性向上に努めています。マトリクス型組織の交差点では常に激論を戦わせないと解決しないので、運用は非常に難しいのですが、それこそが事業の深い理解につながると考えています。 石丸 戦略を自分たちで考えるマトリクス型の組織を構築していくということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。   ※ Strategic Business Unit:戦略的事業単位。戦略の策定と実行、業績管理を独立して行う事業区分のこと。マトリクス型組織の一種だが、マネジメントやオペレーションを行うための組織体系と一致する必要はなく、複数の組織を1つの事業単位とする場合も、1つの事業部が複数のSBUに属する場合もある。  
PROFILE
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石丸 隆太
Ryuta Ishimaru
タナベコンサルティングストラテジー&ドメイン 執行役員 金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋をつくる」ことを得意とする。また現場においては、決めたことをやり切る自立・自律した強い企業づくり、社員づくりを推進し、クライアントの成長を数多く支援している。