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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

戦略ストーリー確立による企業価値の向上 石丸 隆太

戦略ストーリーとはビジョンに基づいた思考プロセス
 
戦略とはポジショニングのデザイン
 
「意図では山は動かない。山を動かすのはブルドーザーである。ミッションとプランは意図にすぎない。戦略がブルドーザーである。戦略が山を動かす」(P.F.ドラッカー著・上田惇生訳『ドラッカー名著集4非営利組織の経営』ダイヤモンド社)   ビジョンや計画が立派でも、戦略なくしては実現しない。では、企業における戦略とは何か。タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)創業者の田辺昇一は「企業経営における戦略とは、企業が持つ人・モノ・金・技術・信用といった経営資源をどこへ投入していくかということだ」と言った(田辺昇一著『有事経営』タナベ経営)。言い換えれば、「独自性と卓越性で確立された自社のポジショニング」をデザインするということだ。   「FCCフォーラム2024」のテーマである戦略ストーリーとは、ビジョンに基づき戦略を的確に描き出すための思考プロセスをいう。   企業の戦略は、数字より「筋」が大事である。売り上げや利益率などの目標数値を立てることが戦略なのではない。そろばん勘定よりも、ビジョン実現の筋道を描くことから出発する必要がある。社員や顧客は、会社が掲げる数字ではなく、経営理念とビジョンに共感して集まる。数値計画は、経営理念による裏付けとビジョンに基づく筋書きがあって初めて意味を成す。道理に合わない戦略には説得力がない。   むろん戦略を描くだけでは“0点”で、実行してこそ“100点”だ。いくら美しい戦略が出来上がっても、業績につながらなければ戦略を立てた意味がない。本来、戦略は四半期(3カ月)や半期(6カ月)、通期(1年)という短いタームで達成できないものである。中長期的な視点でビジョンを実現する筋道を組み立て、それを社員に浸透させ、行動に移して初めて企業価値向上と持続的成長が実現する。    
ナンバーワンをつかみ取る戦略ストーリーへ
 
戦略ストーリーを描く場合、まず自社がどんなこだわりを持って事業を推進するのかを検討することだ。企業の社会的意義や使命感を示す経営理念・パーパスは、戦略の全てにひも付く。その中で、どこで勝ち、どこで「ナンバーワン」をつくるのかをはっきりさせることがポイントである。   ナンバーワンはハードルが高く見えるかもしれないが、マーケットの切り口を柔軟に捉えれば、自社が勝てる場をつくることができる。例えば、自動車マーケットをマクロで捉えると、世界販売台数が4年連続首位のトヨタ自動車がナンバーワンである。   だが、カテゴリーの切り口を変えると、軽自動車はダイハツ工業、国内EV(電気自動車)は日産自動車、商用車はいすゞ自動車、クロスオーバーSUV(スポーツタイプ多目的車)はマツダ、また海外に目を移すとインド市場ではスズキが圧倒的なシェアを誇る。戦う土俵を絞り込むことが肝要だ。   これは大企業でも中堅・中小企業・零細事業者においても考え方に変わりはなく、自社が勝てる領域をどこでつくるのかということである。   「オンリーワンを目指す」という考え方もあるではないか、という声が聞こえてきそうだが、オンリーワンとは顧客にとっての価値の話であり、オンリーワンの価値を発揮してナンバーワンを目指すというのが正しい。なぜなら、ナンバーワンこそ市場の変化に最も柔軟に対応できるポジションで、最も生き残る可能性が高いからである。そんな戦略ストーリーを、要素として組み込んで考えていくことが必要である。
戦略ストーリーを組み立てる
 
自社の現状を知る
 
❶ 強み(コアコンピタンス)は何か 企業成長の軸は「強み」であり、これを理解することで自社の戦略は効果を発揮する。強みとは、“他社には負けない核となる力”であり、ライバルとの競争の中で差別化要素となるポイントである。   ❷ バリューチェーンから強みを見つけ出す バリューチェーンとは、企業の活動を価値創造の一連の流れとして捉えたものである。その中で、自社のコアコンピタンスや差別化要素がどこで生まれ、どのような価値を創造しているかを理解する必要がある。バリューチェーンにおける自社の強みを発見するためのポイントは、大きく次の3点に集約できる。 ① 自社のクライアントが自社製品・サービスを使う理由を聴取する ② ライバル企業・商品と比較して自社が優れている部分を確認する ③ 自社の顧客や製品・サービスの特徴を分析する   ❸ 成長の歴史から強みを見つけ出す 仮に10年先の成長戦略を打ち出したい場合、過去10年間の成長の歴史を振り返ると良い。過去の成功要因には、何をもって成功したのかが示されているからだ。その「何をもって」が自社の強みを見つけるヒントとなる。発見ポイントは、次の3点である。 ① 売上高が極端に伸びたタイミング ② 利益率が極端に伸びたタイミング ③ 平均成長率(CAGR)が高い期間   ❹ 自社の課題を洗い出す 強みを追求するだけで企業は良くならない。課題に対して手を打つことも大切である。社員から匿名で自社の課題を募集すれば、ある程度見えてくるだろう。また、日頃からライバル企業と戦っている営業部門に話を聞けば、他社より何が劣っているかという商品面の課題が出やすい。    
市場で自社の先行きを見る
 
❶ 「将来」と「未来」を見る 市場環境の分析フレームとしては「PEST分析」や「3C分析」がよく知られる。市場環境を分析する際は、現状を把握すると同時に、それを踏まえて今後の先行きをイメージすることが重要である。すなわち、「将来」(近い時期)と「未来」(遠い先)について見ることだ。遠い先々の成り行きを俯瞰ふかんしながら(大局着眼)、身近なところまで目を配り(小局着手)、機敏に対処する心構えが必要である。   特に、遠い未来を見ることが重要である。未来は完全には予測できないが、ある程度のシナリオを想定して備えることはできる。具体的には、基本シナリオ(現状の延長戦上の未来)、代替シナリオ(十分に起きる可能性のある未来)、例外シナリオ(予測し得ない未知のイノベーションが起きた未来)という3つの未来に対し、自社はどのように、どこまで、いつまでに準備するのか。また、準備期間やかかるコストはいくらかなどを明確にする必要がある。   シナリオを検討するフレームは、縦軸に「蓋然性がいぜんせい(物事が発生する確実性の度合い)」を、横軸に「自社へのインパクト」を置いたマトリクスで整理する。このフレームの活用には、大きく2つのステップがある。   1つ目は、マクロのメガトレンドを知るということだ。その分析手法としてPEST分析がある。PEST分析から導き出せる主な経営課題は、労働力の確保、労働力に代わるAIやデジタルへの理解と投資、調達手段の見直し、カーボンニュートラルに対応できる技術力の向上などが挙げられる。   ステップの2つ目は、自社が属する業界固有の動向を整理することである。その際は、①業界内の競争(競合他社との競争要因)、②買い手の交渉力(顧客のニーズ)、③供給業者の交渉力(材料や機器の供給ならびに外注先の人材の供給)、④新規参入の脅威(従来とは違う競合他社の参入)、⑤代替品・サービスの脅威、という5つの力(ファイブフォース)の強弱が、業界の長期的な成長性や収益性、生産性を規定すると考えると、業界の変化を押さえやすい。   ❷ シナリオを策定する 前述の分析を踏まえた上で、シナリオ策定のフレームワークに当てはめたものが【図表】である。着目すべきは、AIやデジタル化の進捗動向だ。建設需要は横ばいで推移している一方、人手は減少していく。深刻化する人手不足に対し、DXやAIによる解決策を提供して新たな市場を獲得しようとしているのがIT各社である。   【図表】シナリオ策定(例:建設業界) 【図表】シナリオ策定(例:建設業界) 出所:タナベコンサルティング・戦略総合研究所作成     とりわけAIの進歩は飛躍的で、システム建築(部材やプロセスを標準化した建築方法)の大型施設といったパッケージ型の現場を中心に、イノベーションが起こる可能性は高い。この場合、ゼネコンなどは外注管理の負担を大きく削減でき、自社完結型のモデルを構築することも可能となる。   シナリオ策定では、このように業界で起こっていることを有機的に結び付けて、今後何が起きるかを予想しながら対策を練っていく。
SWOT分析と3つの方向性
 
❶ SWOT分析とは 自社のバリューチェーンから導き出された強みや弱み、また自社を取り巻く内外の環境を整理するための有効なツールが「SWOT分析」である。内部環境分析の結果である強み(Strength)と弱み(Weakness)、外部環境分析の結果である機会(Opportunity)と脅威(Threat)を所定のフレームに当てはめていく。   ここで重要なのは、SWOT分析は客観的事実に基づく自社分析、環境分析であり、決して自分たちがやりたいことや主観の入った課題をまとめるものではないことだ。あくまで現状の事実を整理するためのツールである。   ❷ 3つの方向性 自社の強みや市場環境の動向、将来に起こり得る未来を考える上で必要なのは、「自社はどのポジションで動いていくか」である。自社が属する市場にはリーダーやチャレンジャー(2、3番手)が存在するだろうし、自社の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)には限りがある。商流上の関係性など無視できない事情も抱えている。それを踏まえながら、次のような自社のタイプ別に方向性を見いだす必要がある。   環境創造型:業界環境の現状および将来の変化を自社で起こそうとするパターン。機会や脅威の先にあるニーズをくみ取り、市場を形成するために動き出すタイプである。破壊型イノベーションや新しい需要を狙った新事業や新商品への投資、業界ポジションを大きく動かすM&Aが代表的な戦略行動として挙げられる。 環境適応型:業界の現状や将来の変化を既定路線として認識し、機会や脅威に対して能動的に取り組み、環境変化に適応していくパターン。競合他社の模倣、事業ポートフォリオの組み直しによる多角化、顕在化した新規需要の獲得などが代表的な戦略行動として挙げられる。 環境分離型:外部環境の変化に左右されずに経営基盤を構築していくパターン。現状の自社を踏まえた上で、経営理念やビジョンの実現に不足している経営資源を補う最低限の投資を前提とする。具体的には、コストの見直しや財務体質の改善、限定的なアライアンスの実施、人材育成などが代表的な戦略行動として挙げられる。    
市場×バリューチェーンの組み立て方
 
❶ ビジネスモデルの構築 戦略を具現化するためのビジネスモデルを組み立てる必要がある。自社製品・サービスの付加価値をどのような事業領域に展開し、収益を獲得していくのか、仕組みを検討する。マネタイズ(収益化)を考慮しないビジネスモデルはあり得ず、ビジネスモデルを切り離した戦略構築もまたあり得ない。   ビジネスモデルの基本的な考え方は「自社のこだわりは何か」である。当然、こだわりが付加価値になっていることが前提だが、そのこだわりを軸に自社のビジネスモデルを組み立てる。   こだわりを生かしたビジネスモデルには、次の4つのタイプがある。   ① 市場・顧客展開型(マーケティング型):メイン(事業領域)やエリアにおける課題を見つけ、展開するパターンである。世の中に存在する困り事を分析して解決策を提示する、またその周辺領域で事業展開している企業などがこれに該当する。マーケットにおける課題やニーズを面で捉え、自社が保有する資源をどう生かせるかを検討し、勝てる場と勝てる条件を発見する。成功の要素は、いち早く顧客課題を発見するマーケティング力である。先陣を切って攻略すれば、シェアを獲得することができる。   ② 追求型(ポジショニング型):自社のこだわりを徹底的に追求し、オンリーワンのノウハウに高めることで、他社に追随を許さないポジションを確立するパターンである。誰にもまねできない技術を持つ企業や、特殊分野・専門領域のニッチトップ企業などがこれに該当する。成功の要素は、自社の技術力や豊富な経験、他社が追い付けないほどのインフラやサプライチェーンを生かし、独自の立ち位置を構築することである。   ③ 仕組み型(マネジメント型):自社の管理ノウハウや業務プロセスの仕組みを生かし、他の事業領域や類似のドメインに展開するパターン。特別なモデルではないが、堅実性の高い安定経営企業によく見受けられる。M&Aによる事業取得や新規事業への参入において、在庫管理や製造方法などのオペレーションノウハウを応用して効率化や生産性を高め、コスト面での利点や利便性を訴求できる。   ④ 複合型(ハイブリッド型):①~③の組み合わせによってビジネスモデルを形成するパターンである。市場の変化に対応しながら長期にわたって成長を続ける企業は、自社の保有するこだわりを新旧ミックスして変化させ、新しい価値を創出している。   ビジネスモデルとは、ターゲット顧客に対し、どのような付加価値を、どのようなオペレーションで提供するかだ。また、最終的に収益化することが最も重要である。ビジネスモデルを通じてどれくらいの利益(利益率)を確保できるかを設計する。   ❷ 戦略の方向性を決める ビジネスモデルを確認した後は、そのモデルをベースに、長期にわたる展開の方向性を決める。これが戦略である。戦略策定に当たっては、いくつかのフレームワークが広く流通している。代表的なフレームが、前述のSWOT分析を応用した「クロスSWOT分析」である。自社の強みや弱みを市場環境と対比して、何をしなければいけないのかを検討する分析だ。環境適応型や環境分離型の中堅・中小企業が、戦略を考える場合に適しているフレームワークといえる。   クロスSWOT分析において最も重視すべきは、自社の強みを生かして市場のチャンスへ展開していくことである。自社の得意分野で展開するのが最もやりやすく、最も成功しやすいためである。   他にも、「アンゾフの成長マトリクス」という代表的なフレームワークがある。これは前述した環境創造型の大手企業を中心に活用されるフレームワークで、「誰に」「何を」提供するのかといったマーケティング戦略の方向性を整理するための手法だ。   「誰」は市場・顧客を、「何」は事業・商品・サービスを示し、それぞれで既存と新規の2軸を設定して4象限に分類。今後のマーケティング戦略を大きく4つの方向性で検討する。   ❸ 差別化の4つのタイプ 戦略の方向性が定まれば、次に実施するのは「差別化」である。よほどの規制業界でない限り、いかなる市場にもライバル企業・商品は必ず存在する。異業種の新規事業に参入しても、新たなライバルが出現するだけで、基本的には競争が起きる。ホワイトスペース(既存市場で他社が未発見の空白領域)やブルーオーシャン(従来は存在しなかったまったく新しい領域)と呼ばれる無風のマーケットもあるが、自社がそこで成功すればすぐに他社が続々と参入してくるだろう。   いずれにしても、企業は差別化を図らざるを得ない。その差別化には、大きく4つの要素がある。   ① オンリーワン:唯一無二の製品やサービスを提供し、他社にはない独自価値を提供することである。ラグジュアリーブランド、人気アニメキャラクターのオリジナル商品、期間限定のイルミネーションイベント、知的財産権で保護された商品などがこれに当たる。 ② スピード&ネットワーク:どこでも早く着く、欲しい時に届く、待たずに買える、どこでも入手可能で探す手間がないなど、スピードの速さやサービス網を価値として提供することだ。宅配便、コンビニエンスストア、インターネット通販などが挙げられる。 ③ ローコスト&ロープライス:価格の安さを価値として提供することである。開発・調達・製造・配送・販売などの工程において、コストを可能な限り下げるための施策を展開し、それを売価に反映させて高回転・大量販売で収益を確保していく。 ④ フォーカス&ディープ:特定の領域や場所でのみコスト力、サービス力、スピード力、ネットワーク力などを発揮するパターンである。①~③を特定カテゴリーに絞って提供することで、業界大手に対抗しようとするものだ。   ❹ やめることを決める戦略を推進する上で欠かせないのが、「やめることを決める」ことである。特に、慢性赤字で改善する見込みがない事業は、撤退を視野に入れた検討が必要だ。具体的な基準を設定して、それに抵触した事業や商品、技術開発案件などは、縮小、撤退、廃止といった判断をする。   事業の多角化は社員のモチベーション向上や企業のリスク分散につながる一方で、経営資源が分散して非効率化してしまう。一方、多角化と対極的な事業の再構築においては、よく「選択と集中」がいわれる。これは事業を絞り込み、資源を集中投下していくことであるが、多角化においても重要な考え方である。自社の足元の業績と将来の有望度を見て、現状の資源投下が見合っているかどうかを見極める。   ❺ M&Aは戦略構築に必須のオプション 戦略を構築する上で重要な考え方が、「事業ポートフォリオの再構築」である。ROIC(投下資本利益率)やROE(自己資本利益率)、売上高経常利益率、CAGR(年平均成長率)などの向上や新規分野・市場への参入に向け、自社の事業の組み合わせをどう見直すか。不足するノウハウが欲しい、改善に要する時間を短縮したいといった課題を、速やかに解決へ導くのがM&Aである。
戦略ストーリーを推進する
   
組織を構築する
 
企業の組織の形態には、大きく3つの基本パターンがある。1つ目は「ファンクション組織(機能別組織)」。販売・製造・管理といった機能が組織単位になっているパターンだ。単一事業に多い組織形態であり、各案件を組織単位で分業しているといえる。   2つ目は「ビジネスユニット組織(事業部制組織)」。製品やサービス、エリアなどのカテゴリーを1事業単位として、事業部ごとに販売・製造・調達などの機能を配置するパターンである。カンパニー制もこの形態に近く、独立採算事業として自立させる意思が表れた組織だ。   3つ目は「マトリクス組織」。機能と事業が交差する形をしており、パターン1と2の進化系といえる。事業の変遷に合わせて柔軟に組織を編制できるメリットがある。例えば、エリア拠点別に事業部制組織を組成している企業が、風土も価値観もそれぞれ異なる各エリア固有の既存顧客や社員を維持しながら、新規事業・プロジェクトに応じて職能や機能を横断的に組み合わせるといったことである。   組織を機能させるためには、ヒト・モノ・カネや情報・時間・技術など、経営資源をどのように再配分するかを決めることも重要となる。貴重な資源を、どの分野へ重点的に割り振るか。戦略(ビジョン、中長期経営計画)と現状の組織図を照合してみると、人材の不足と機能の弱体に気付くだろう。   そこで、部課の廃止・統合・新設、人材の採用・育成・処遇などの強化を進める。組織とは、経営理念に従って立てられた中長期ビジョンと経営計画を達成するための手段である。今、何が必要なのか。捨てるか、改めるか、新しく追加するか。目的と手段がうまくバランスするように重点項目を選別し、組織に分けることが重要だ。    
アクションプランを策定する
 
策定した戦略を日常業務にまで落とし込み、円滑に推進していく必要がある。ビジョンや中期経営計画を策定する際、1年程度のプロジェクトを立ち上げる企業は多いが、戦略を策定した後、具体的に推進していくためのプロジェクトがないケースが多い。   そこで、いつまでに・誰が・何を実行し、何を成果とするのかを示す「アクションプラン」が必要になる。戦略を実現するための業務の把握と、適切な管理を行うための行動計画である。計画通りに進むことはまれだが、実行したいことを推進するには業務を整理する必要があり、また、うまくいかずに計画を修正する際の指針になる。自社の戦略をマネジメントするためのツールと考えれば良い。   アクションプランを記載する際の留意事項は、現場のメンバーが何をしなければならないのかを明確にすることである。戦略は上からつくり、下に落とすが、実行は下からの積み上げによって計画の達成に近づく。そのため、現場に理解されなければ、本当の意味での戦略になり得ない。   アクションプラン策定に当たっては、KPI(重要業績評価指標)の設定も必要になる。KPIとは、目標達成のプロセスを計測するための指標である。   例えば、売り上げを増やしたい場合、基本的なKPIの公式は「数量×単価」である。営業部門でKPIを設定する場合、この公式は「訪問件数×歩留まり×単価」に展開できる。このうち訪問件数は、新規先や既存先、重要度順(ABCランク)などで分けられる。また、歩留まりは「提案数×決定率」、さらに単価であれば「販売商品数×商品別商品平均単価」などに展開できる。企業のビジネスや業種によってKPIは異なるが、重要なのはKPIを「定数」と「変数」で分けることだ。定数は基本的に「変わらない数字」であることが多いのに対し、変数は「変えることのできる数字」である。   つまり、KPIを達成するには、変数をどう変えていくかだ。それを戦略とひも付けて設定し、目標として掲げる。すると、現場での戦略推進は加速度的に進む。設定を間違えてしまうと、その逆になる可能性も高い。    
会議体を決める
 
取締役会や部門会議はあるものの、「戦略を推進するための会議体」を持たない企業は意外に多い。中長期の戦略を着実に実行している企業は、「中期経営計画進捗しんちょく会議」「戦略進捗会議」などの名称の会議体を設置し、マネジメントを行っている。   会議体で重要なのは、アクションプランに基づくKPIの達成状況を、抜けや漏れなくモニタリングすることである。一度出た結果は変えられないが、出る前に行動を変えれば、結果を変えることができる。また、その修正する時期が早ければ早いほど、最終的な結果は大きく変わっていく。   したがって、変化する行動を起こす時期をなるべく早く見極める必要があり、そのためのツールが会議体である。会議体では、KPIの進捗状況に基づいて課題を洗い出し、対策を練る。進捗管理の期限は四半期または半期ごとに実施していく。最も駄目な会議のパターンは、売り上げや利益の計画数値との差額にとらわれ、責任追及ばかりで対策の議論がないケースである。  
年1回は計画を見直す
 
外部環境や自社の状況を踏まえた戦略は、一度決めたら過去のものとなる。なぜなら、環境は今、この瞬間から変わっているからである。環境が変われば戦略も適宜、見直さなければならない。   環境の変化に合わせることによって大きな目的を達成できる。経営理念や創業者の志など、自社の信念に当たるものは変えるべきではないが、そこにたどり着くまでの過程や道筋(ビジョンや中期経営計画)は柔軟に変えていくべきである。   個別の施策は、四半期や半期ごとに見直しを実施していく必要があるが、全体の点検については1年に1回、外部環境の変化点を確認し、自社の中期経営計画の実行状況を踏まえて見直すと良い。そうすることで、常に鮮度の高い戦略を推進できる。  
プロフェッショナル人材を育てる
 
企業の成長は人の成長に比例する。社外から新たに採用することに加え、既存社員の成長も不可欠である。とりわけ、戦略ストーリーを実現するためには、「プロフェッショナル人材」が必須となる。   プロフェッショナル人材を多く育成するためにも、階層別の教育や教育システムを整えることが重要だ。特に、現在のデジタル化の波を考えれば、従来の教育コンテンツに、デジタル人材を育成するためのコンテンツを組み入れる必要がある。今は、ITリテラシーが低い企業から順番に淘汰とうたされていく時代である。そのため、最近は旭化成や大林組、サッポロホールディングスのように、「全社員デジタル人材化(DX人材化)」を掲げてデジタル教育を強化する企業が増えている。  
事例に見る戦略ストーリーのパターン
 
4つのポイントを見極める
 
本誌掲載の事例13社は、いずれも明確な戦略ストーリーを持ち、持続的成長を遂げてきた企業である。各社に共通するポイントは、次の4点だ。   ❶ 本質を見極める 自社はこの世の中に何のために存在し、いかなる価値を社会に提供すべきか。創業の精神や経営理念、ビジョンをあらためて吟味し、その意義と本質を理解することが、事業展開の筋道となる。事業は書物と同じである。ストーリーがない製品・サービスのページを開く人はいない。自社が存在・存続する本質を見極めることが大切だ。   ❷ 強みを見極める 自社の強みが分からない、あるいは他の要素を強みと混同している企業が多い。何でもできる「多芸多才」が自社の強みだと思っていても、顧客から見れば全て中途半端で、抜きん出たものが何一つない「器用貧乏」という弱みになるケースも少なくない。自社の真の強みは何なのかを見極めることが重要である。   ❸ 顧客を見極める 自社が価値を提供すべき相手(ターゲット)は誰なのか。顧客が見えていない企業は意外に多い。自社の強みを理解してくれる消費者や会社はどこにいるのか。自社の強みで解決が可能な課題を持つ業界・購買層はどこか。現在取引している顧客は“真の顧客”なのか。今一度、さまざまな切り口から自社の顧客を洗い出す必要がある。   ❹ 市場を見極める 自社が事業を展開する市場(マーケット)は衰退産業か成長産業か、マーケットトレンド(投資の潮流や消費の流行など)はどう動いているかを見極めることだ。競合過多で価格競争が激しいレッドオーシャンであれば、強みを応用して他の成長市場に“転籍”する、もしくは従来存在しなかった未知の市場を自ら創造するなど、戦略行動を急ぐことが求められる。   経営理念や創業者の思いを文字として表面的に捉えるのではなく、実現可能性を伴った事業計画にまで落とし込むことが、本当の意味での戦略ストーリーとなる。もちろん、戦略を実現するには、経営者や幹部だけでは完結しない。全社員一丸となって戦略を実施していくことが重要である。   そのためにも、事業を成長させたい、会社を変えたいという意識を持つ、経営者の同志ともいうべき社員を1人でも増やすことが求められる。彼・彼女らこそが、自社の戦略ストーリーを推進する真の原動力となるのである。  
PROFILE
著者画像
石丸 隆太
Ryuta Ishimaru
ストラテジー&ドメイン 執行役員 金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋をつくる」ことを得意とする。また現場においては、決めたことをやり切る自立・自律した強い企業づくり、社員づくりを推進し、クライアントの成長を数多く支援している。