こどもが関わる環境をワンストップでプロデュース
福井県敦賀市に本社を置く株式会社ジャクエツは、幼児保育の教材教具や遊具などの企画・製造を行う幼稚園、保育業界のリーディングカンパニーである。
同社は全国に約4万施設ある幼稚園・保育園・こども園の約70%と取引があり、現在は色紙1枚の製造から幼児教育のノウハウを生かした街づくりやコンサルティングまで、あそび環境に関わる製品やサービスをワンストップで提供。創業以来、「すべてはおさな子のために」という理念を掲げて、「子どものあそぶ環境」を軸に社会課題の解決に取り組んでいる。
同社の創業は1916年。創業者の徳本達雄氏が、「これからの地域をつくっていくには幼児教育が重要である」との使命感に基づき、早翠幼稚園を開設したことが始まりだ。ビジネスの視点ではなく、社会事業としての創業であり、そのとき掲げた「すべてはおさな子のために」という理念は今もなお同社の戦略展開における軸となっている。
同社の強みは徹底した現場主義、実証主義、品質主義にある。全国約70カ所の営業拠点は全て直営店だ。約300名の営業担当者は直接顧客の元へ足を運び、自らの目で現場を見て、顧客の声を聞き、悩みを解消するために日々尽力している。
また、全ての製品を自社生産する同社は、品質マネジメントシステムの国際規格である「ISO9001:2015」を取得。さらに、国の基準よりも精緻な独自の「JQ 遊具安全規準」(ジャクエツ・クオリティー規準)を設定し、より高いレベルの安心・安全を追求し続けてきた。この体制こそが、いち早く顧客のニーズを拾い上げ、顧客に寄り添った新しい製品・サービスを開発し、選ばれる価値を生み出し続ける原点である。
幼稚園の開設から幼児向け教材のメーカーへと成長を遂げてきた同社だが、1973年をピークに国内の出生数が減少に転じると、戦略のターニングポイントを迎えた。少子化という逆風の中、戦略を時代に合わせるべく原点である幼児教育の専門性を深掘りし、直販体制と安全で高品質なものづくりを掛け合わせた高付加価値商品の提供を強化していったのだ。
結果として、教材や遊具の製造販売から園庭のランドスケープデザイン、園舎の建築・リノベーション、街づくりまで、幼児が関わる環境全体をワンストップでプロデュースするようになった。さらに、園の新設や運営、ブランディング、商業施設の空間づくりコンサルティングまで事業化。子どもの関わる空間を一気通貫で提供できるバリューチェーンを構築した。ワンストップの価値提供こそ戦略によって磨き上げた強みであり、同社が価格決定権を持つ理由である。
2000年代に入り、多くの園舎の老朽化や共働き家庭の増加による待機児童問題、2016年の認定こども園制度のスタートなどを受けてニーズが多様化すると、同社はバリューチェーンの機能を強化。
特に、世の中のトレンドがモノ消費からコト消費へと移る中、商品購入前と購入後にこそ顧客価値が求められると判断し、研究開発や設計、アフターメンテナンスに対する設備投資を実行。専門性のある人材の採用・育成に取り組みながら、製品・サービスの購入前から購入後までの全プロセスで利益を上げられる体制を構築し、付加価値の向上を図った。
その一環として設立したのが、2015年に開設した「PLAY DESIGNLAB」だ。同組織は、建築家やデザイナー、医師、研究者、アスリートなど多様な外部フェロー約30名が集まるあそびの研究所である。研究を通して高付加価値のオリジナル商品の開発や、「あそび」を中心とした事業領域の拡大に取り組んでいる。
さらに、2019年のホールディングス化を機に福井本社に新工場や開発拠点を新設。企業ロゴやスローガンなどコーポレートメッセージを一新し、「未来は、あそびの中に。」をスローガンに「あそびの環境をデザインすることで、未来価値を創造する。」を新たな使命として定義した。また、事業ドメインを「子ども」から「あそび」に変えることで事業領域は拡大し、異分野連携も活発化している。
例えば、コーヒーチェーン店における新店舗設計の安全コンサルティングをはじめ、動物園や美術館、商業施設との連携。さらに、高齢者施設の環境づくりなど福祉分野への参入を果たすなど、子どもに関する知見をあそび環境や安全・安心という横軸でつなぎ、新たな価値を生み出している。
メーカーとしてあそびに関する現場の声を聞き、製造し、届ける一方、PLAY DESIGN LABであそびを研究し、構想して社会課題を解決する。この2つを相互作用させながら「未来価値」を創造していく。同社はこれを新たな経営方針として打ち出している。
未来価値を創造する一環として作成されたのが、「ブランドブック」と「バリューブック」だ。ブランドブックでは、同社がこれまでの100年間、何を大切にしてきたのか。そして、これからの100年間、あそびを通して社会に対して何ができるのかをつづっている。バリューブックは、「未来価値への9つのアプローチ」を定義した行動指針であり、バリューに基づく現場の成功事例をまとめた「エピソードブック」を通して社内への浸透を図っている。このように、理念やパーパスに共感する社員の存在が、戦略を実装に移す原動力になっている。
社会事業として創業し、事業を通して未来に何を残すか。この問いに向き合っているからこそ未来価値創造を戦略へと昇華できる。創業から現在に至るまで、顧客に真摯に向き合って戦略を立て推進する。これがジャクエツの強さの源泉である。