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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

事業領域を再定義して新事業に挑む「くらしまるごと戦略」 佐久間 昭光:ヤマダホールディングスの戦略解説

ヤマダホールディングス  

歴史と成長転換に至るストーリー

 

群馬県高崎市に本社を構え家電量販店を全国に展開する株式会社ヤマダホールディングスが、さらなる成長に向けて展開するのが「くらしまるごと戦略」だ。これにより、従来の家電販売や家電リサイクル事業に加え、住建事業、リフォーム事業、家具・インテリア事業、保険・金融事業へとビジネスモデルが広がっている。

 

同社は、代表取締役会長兼社長CEOの山田昇氏が、1973年に松下電器産業(現パナソニックホールディングス)の系列販売店であるヤマダ電化サービスを開業したのが始まりである。創業時に経営理念として掲げた「創造と挑戦」「感謝と信頼」は、現在も同社の経営理念として生き続けている。

 

わずか8坪からスタートした町の電気店は、飛躍的な成長を遂げた。1983年にヤマダ電機を設立後、家電量販店のフランチャイズ店舗チェーン展開に乗り出した同社は、業界初の自社物流センター網の構築と並行して、郊外型のロードサイド大型店舗を全国展開。低価格と豊富な品ぞろえというロープライス戦略の推進で、2005年に47都道府県への出店を果たすと、業界初のナショナルチェーン化(全国展開による物流・管理の効率化)に成功した。

 

絶頂期は成長の転換点でもあった。家電量販店は、2000年代後半から2010年初めにかけて家電バブルを追い風に好景気を謳歌おうかしていた。同社もその追い風に乗ったが、同時に危機感を抱いていたという。

 

家電量販業界では早くからM&Aによる再編が進んでいたため、M&Aによる事業拡大の余地は少ない。家電量販店大手が占める市場シェアが70%超の状況では、成長フロンティアは残されていなかったのだ。

 
くらしまるごと戦略の推進とポイント
 

そうした環境下、同社が導き出した成長の方向性が、くらしまるごと戦略だった。キーワードは、①6000万人超のヤマダポイントカード会員、②LTV(顧客生涯価値)発想による顧客の再定義、③家電と住宅の顧客の親和性に気付きバリューチェーンを再構築、④経験も知見もない事業領域への挑戦を決断、の4つである。

 

ポイントは、顧客の再定義にある。家電をまとめ買いするきっかけが、住宅購入やリフォームだと気付いた同社は、それまで「個」と捉えていた顧客を、「住宅を購入・リフォームした家族」と再定義し、①家電販売およびリサイクル事業、②住宅事業、③トータルリフォーム事業、④家具・インテリア事業、⑤保険・金融事業という5つの事業からなるバリューチェーンを再構築することで、新たな成長フロンティアを発見したのだ。

 

経営理念である「創造と挑戦」を体現するかのように、未知の事業領域へ挑戦した同社。その突破口となったのが、M&A戦略だ。「住宅業界に確かな地歩を築いてきた住宅ビルダーのM&Aを目指す」という明確な方針に基づいて、2011年に大阪の住宅メーカーであるエス・バイ・エルを、2012年にはハウステックを子会社化した。2018年に住宅事業を統合し、ヤマダホームズを設立すると、2019年に大塚家具、2020年にヒノキヤグループなど、関連領域の企業を次々と子会社化していった。

   
「家電のヤマダ」から「くらしのヤマダ」へ
 

ヤマダホールディングスが住宅事業に本格参入して13年、くらしまるごと戦略を打ち出して6年が過ぎ、同社は、自ら成長軌道を生み出すことに成功した。そのポイントは、大きく次の3つである。

 

❶ 圧倒的なスピード感

家電と親和性が高い住まいにターゲットを絞り、持続的な成長とノウハウの取り込みを図るため、「時間を買う」こと目的にM&Aを実施。自社の成長戦略と合致する住宅関連企業のM&Aや、業務提携を積極的に推進することで、住建セグメントは早期に高い成果を上げている。

 

中でも、高性能の付加価値住宅を提案するヒノキヤグループは、グループインによって相乗効果を発揮し、2023年12月期に過去最高売上高、営業利益を記録するなど好調だ。優良企業ながら単独での成長に限界を感じ、資本力のある企業との未来を模索していたところを、ヤマダホールディングスが子会社化した。この圧倒的なスピード感が、くらしまるごと戦略を推進する要となっている。

 

❷ 5つのセグメントの有機的な活用

「くらしまるごと」をコンセプトに、5つのセグメントがシナジーを創出して成長戦略を加速している。例えば、家電セグメントの圧倒的な知名度と、全国47都道府県に広がる店舗ネットワークを生かして家電店舗敷地への住宅展示場を拡大するほか、資材調達、住宅施工、物流の効率化など、同社が司令塔となって保有するインフラの有効活用とコストダウンを実現。特に、住宅をバリューチェーンの入り口として各セグメントの商材販売につなげることで、住宅業界のみならず家電量販業界でも独自の地位を築いている。

 

❸ 「やってみる」企業文化

創業者の山田昇氏が実践し続けてきた「失敗しても良いから、とにかくやってみよう」という考え方が、同社には浸透している。これは、経営理念の「創造と挑戦」に通じており、あくなき起業家精神を表している。

 

M&Aによる事業拡大や、優れた組織や制度を整備したとしても、成長エンジンとなる変革を起こす人材が育ち、機能する起業家精神や企業文化がなければ、時流や市場変化の荒波を乗り超えることはできない。

 

創業50周年から新たな50年へ歩みを進めるヤマダホールディングスでは、普遍的価値を伴う経営理念のもと、過去の成功体験にとらわれない未来志向のビジネスモデルへの転換が現在進行形で続いている。

 
PROFILE
著者画像
佐久間 昭光
Akimitsu Sakuma
タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー 外資系飲料メーカーで戦略的広報、食品製造小売業でMD(マーチャンダイザー)部長、経営企画室長、新規事業開発リーダーを経てタナベコンサルティングへ入社。ものづくり企業を中心に、次世代幹部育成、原価マネジメント、新規事業開発を含めた中期ビジョン策定支援などを手掛ける。また、前職での3000を超える商品開発の経験から、新商品開発から食品工場マネジメント強化まで、食品業界でのコンサルティングを得意とする。