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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2023.10.02

パーパスと向き合うヴィスの文化づくり

 
働く環境を変えると人も会社も変わる
  タナベコンサルティング・山中(以降、山中) ヴィスは、Great Place To Work® Institute Japanが毎年発表している「働きがいのある会社ランキング」において過去5回の受賞歴があり、エンゲージメントが非常に高い企業です。オフィスデザインから、働き方や働く人のエンゲージメントを考えるワークデザインへと事業を拡大し、現在は東証スタンダード市場へ上場。社員数約250名超の規模に成長を遂げています。   中村 大阪で1998年、私が独りで起業し、当初は商業空間系の店づくりが中心でした。2003年に、ある町工場との出会いがなければ今の当社はなかったでしょう。それは古い工場のリノベーションの依頼で、最初は断ろうと思ったほどでした。それでも「全て任せる」と言われ、5カ月でリノベーションをやり終えました。   山中 その出会いが、デザイナーズオフィス事業を始めるきっかけになったのですね。   中村 店づくりやリノベーションの仕事は、本来「つくったら終わり」です。ただ、創業時から企業ブランディングも手掛けていたので、建物だけでなくホームページもつくることになりました。自分がつくったオフィスに打ち合わせに行く度に、社員の皆さんに喜ばれるのです。つくったら終わりが当たり前だったこれまでとは違い、そこで働く人に「ありがとう!」と言ってもらえるのは初めての経験でした。   そこから「おしゃれで格好良いとうれしいのは、お店だけじゃなくオフィスでも同じ」「働く環境を変えると社員が変わり、会社が良くなっていく」と気付きました。そして、自分が培ってきたスキルがそのまま使えると思い、デザイナーズオフィス事業をスタートさせました。   しかし、そこからが困難の始まりでした。社員数4名でやってきたところに営業担当者を一気に4名も中途採用したのに、仕事が全く取れない日々が続き、ようやく実を結び始めたのは半年後でした。あと3カ月遅かったら、ヴィスは存在していなかったでしょう。    
誰もが自分らしく最大の力を発揮できる職場
  山中 具体的にどのような仕組みや取り組みが、高いエンゲージメントにつながっているのでしょうか。   中村 やはり人が増えていくことが一番大事ですし、そのためには会社の価値観を明文化する必要があると思いました。偶然手にしたリッツカールトン日本支社長の著書に、「世界中のホテルでホスピタリティーを発揮できているのはクレドがあるからだ」と書いてあったのを目にし、「よし、クレドをつくろう!」と決めました。   当社は、パーパス(存在意義)、アンビション(目指すゴール)、バリューズ(価値観)、クレド(約束)を定めており、これらをまとめて「フィロソフィー」と呼んでいます。みんなと共有する考え方や行動規範であり、朝礼では全員で唱和しています。   パーパス「はたらく人々を幸せに。」は、自分たちの思いを言葉にしたシンプルなフレーズですが、抜群に効果を発揮しています。「はたらく人々」は、お客さまや協力会社、自分たち、そしてステークホルダーの皆さんを指していて、パーパスによってその全てが一丸となれるのです。   採用にも良い影響があり、「パーパスを見て良い会社だと思った」と入社後のミーティングで話してくれる社員もいます。   山中 パーパスを定めても、社員が腹落ちして行動に移すのが難しいと悩む経営者は少なくありません。   中村 先ほど少し触れたように、パーパス浸透のため朝礼の時間を活用しています。当社では、ミーティングなど社員が集まって何かやる時間を多く設けています。朝10時からの全員朝礼もその1つで、独自に「クレド(の時間)」と呼んでいます。   円陣になって全員でパーパスとアンビション、バリューズを唱和し、さらに代表して1人が15項目あるクレドのうち、1つのクレドにまつわるエピソードを紹介します。人として何が正しいかを常に考えて行動し、関わる全ての人に感謝し、利他の心を実践し続けることを示しているクレドについて、自分が持つエピソードを語ることでしっかりと腹落ちできます。   朝10時は、通常の会社の営業なら「外へ出て行って、商談して来い!」と言われる時間ですが、あえて「絶対に集まろう!」とコアタイム的に、全員がそろう時間として大事にしています。他にも10~15分の「マッピング」という毎朝のチームミーティングや、午前中の進捗を振り返り午後のアクションを確認する「ハーフタイム」というチームミーティングなどがあります。そうした機会を使ってベクトルを同じにすることが、独自のカルチャーを醸成する力になっています。   山中 社員の皆さん一人一人が、パーパスやクレドを自分自身の言葉で咀嚼して語ることは、共感にもつながっているのでしょう。他にもカルチャーを育む取り組みとして、「ひよこ」や「にわとり」と愛着が湧くネーミングのミーティングも特徴です。   中村 新卒入社の1年目社員を対象に、月・火・木・金曜の週4回、会長の私と代表取締役社長の金谷智浩、専務の大滝仁実が交代で、朝30分行っているミーティングが「ひよこミーティング」です。もう10数年続けていて、ミーティングでは自由に質疑応答し、会社の考えも伝えながら、昨日の自分が何をしたかを語ってもらいます。   また、「ひよこ」が終わった後に30分程度、私と社長で週4日、理念や文化を共有する「にわとりミーティング」を実施しています。こちらはキャリア採用の社員が対象で、入社後3カ月間実施しています。   ベストセラーになった『ビジョナリー・カンパニー』(ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著、日経BP社)には、「強い会社にはカルチャーがある」と書かれています。独自の名前を付けるラベリングには意味付けもあって、社内だけで通用する言葉が生まれて愛着が湧くことがすなわちカルチャーなのです。例えば、会議室をヘミングウェイと名付けて「ミーティング、ヘミングウェイでやるよ~!」なんて社員に声をかけています(笑)。   山中 社員の方々の提案を受け入れる環境づくりにも力を入れているそうですね。   中村 船員が船長に提案できる機会を「パーレイ(交渉)」というそうで、社員の発案から「それをやろう!」と決まって制度化しました。また、「ジャーニー」も長く続いています。旅をするように、デザインをはじめさまざまなことを見たり勉強したりして、皆の前で発表する取り組みです。キャリア入社の社員が、前職で良いと感じた制度もどんどん取り入れて仕組み化しています。   キャリア入社は、誰でも最初は緊張しますよね。ですから、初日に各部署の皆で書いたウエルカムカードを渡しています。さらに、ランチタイムをキャリア入社者の歓迎会として活用したり、週1回誰かとご飯を食べに行ける「メンターランチ」ではランチ代を会社が補填していたりします。   従業員に配布しているフィロソフィーカード 従業員に配布しているフィロソフィーカード   新卒1年目メンバーと役員(会長・社長・専務)で週4回行われる「ひよこミーティング」 新卒1年目メンバーと役員(会長・社長・専務)で週4回行われる「ひよこミーティング」    
フィロソフィーに立ち返り諦めずに伝え続ける
  山中 社員の皆さんと目線を合わせるために、大事にされていることはありますか。   中村 社員250名の氏名を全て覚えて、必ず名前で呼んでいます。やっぱり名前で呼ばれるとうれしいじゃないですか。クレドにも掲げていますが、人にされてうれしいことを、とても大事にしています。   社員と、より深くコミュニケーションを取れるように、会長室や社長室は昔からありません。今のオフィスで私が座るのは、社員通用口に一番近いところです。みんなにあいさつするためで、毎日顔を合わせて、誰よりも大きな声を出しています(笑)。   山中 トップが率先して取り組む姿勢ですね。   中村 もちろん、それには理由があります。当社のビジネスは、形あるプロダクトをつくる仕事ではありません。私はよく「無形商材」と言うのですが、何もないゼロの状態からデザインしてオフィス空間をつくるので、人との関わりが薄ければ仕事になりません。ミーティングでみんなが「ダンマリ」だったら、何一つ進まない仕事なのです。   山中 コミュニケーションが自然発生的に生まれることが、社員の皆さんの能動的でスムーズな活動につながるということですね。   中村 そうありたいと願っていますし、経営層としてやるべきことが1つあるとすれば、それは、諦めないで言い続けることじゃないかと思っています。そんなに簡単には、人は動きませんからね。   私は、1度言うだけでは相手に50%しか伝わらないと思っています。100人いれば50人にしか伝わらないので、2回目は残る50人に、3回目は25人に対してといったように、どこまでもめげずに、諦めずに言い続けています。   それぐらいやり続けてもゼロにはならないのが難しいところですが、常にパーパスやクレドなどのフィロソフィーに立ち返れることが強みではないかと感じています。   山中 立ち返るところがあるから、社員の皆さんの判断軸や物の考え方、価値観が育まれていくのでしょうね。    
言行一致で先頭に立って動く
  山中 最後に、中村会長の経営思想についても教えていただけますか。   中村 私の考えにはオリジナリティーがないと思っています。それは、若い頃に稲盛和夫さんの著書『ガキの自叙伝』(日経BPマーケティング)を読んで感動して以来、いつも書籍から学んでいるからです。   私が尊敬する人は稲盛さんと松下幸之助さん、坂本龍馬さんの3人です。それぞれに経営思想がありますが、共通して大事にされているのは、自分が先頭に立って動くということ。私の座右の銘は「言行一致」で、言うことと行うことは一致させないとダメだと思っています。   「私が何を考えているか、どんな行動をしているのか、社員は全部見ている」と自分にプレッシャーをかけています。これも書籍から学んだことですが、経営者として最も重要なのは、自分がやっていることと同じことを部下がやっても許せるかどうか、自分に問いかけることです。   実は、これが結構きついのですが、歯止めにもなりますし、それができる経営者なら多分、周りにも良い影響が自然と生まれるはずです。   山中 今回の対談で学んだポイントを3つ、あらためて整理します。1点目は、パーパスに関する相互コミュニケーションや独自の特徴的なネーミングで、社員が自社に愛着を持つことを通して、企業としてのカルチャーを育まれていることです。トップダウンだけで落とし込むのではなく、クレドに対して自ら発信する場があるなど、社員と並列的な立場でコミュニケーションを取ることで、企業としての判断基準と社員から見た判断基準、互いの水準を合わせていく。それが、結果的に企業カルチャーを育みながら、非常に強固な組織へと成長することを実感しました。   2点目は、パーパスやクレドの浸透を人材育成の一環として、優先度高く取り組まれていることです。人材育成と聞くと、専門知識や業務遂行のスキルを高めることをイメージされる方も少なくないと思います。しかし、ヴィスでは新しく入社した社員とすぐにコミュニケーションを取り、対話を重ねて、個人の働く目的や企業として進むべき方向性の共感を育み、社員が取り組む業務や、その業務の社会への貢献度合いを高めていきます。それが、結果として自発的・能動的に行動する人材の育成につながっているのです。   3点目は、トップ自らがパーパスと向き合い、社員と同じ目線に立ってコミュニケーションを取ることです。フィロソフィーは、社会に対してどんな価値を提供するのか、経営トップの思いが明文化されています。   ただ掲げるだけや周知するだけというレベルではなく、トップが自ら一人一人と真摯に向き合い、その声に耳を傾けることで社員が腹落ちするため、フィロソフィーに基づいて判断しながら日々の業務を進めることができ、高エンゲージメント企業として成長し続ける、ということです。本日は、ありがとうございました。     ㈱ヴィス 代表取締役会長 中村 勇人(なかむら はやと)氏

PROFILE

  • ㈱ヴィス 代表取締役会長 中村 勇人(なかむら はやと)氏 1960年大阪府生まれ。大手ディスプレイ・商業空間デザイン会社を経て、1998年ヴィス創業。2004年からデザイナーズオフィス事業をスタートし、オフィスデザイン業界の拡大に尽力。2020年東証マザーズ上場、2021年東証二部上場を経て2022年より東証スタンダード市場。2022年現職。
  Interviewer 山中 惠介(やまなか けいすけ) タナベコンサルティング HR 人的資本経営チーフマネジャー 山中 惠介(やまなか けいすけ)
タナベコンサルティング HR 人的資本経営チーフマネジャー
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