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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2023.10.02

「終身成長」と「共創力」を育む人財戦略:旭化成

グローバルで成長を続ける100年企業

タナベコンサルティング・松本(以降、松本) 100年の歴史を持つグローバル企業である旭化成は、唯一無二の人事戦略で成長を続けています。まずは会社の概要について教えてください。 白井 当社はマテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域で事業展開しており、グローバルでの従業員数が4万6000名を超えています。マテリアル領域は化学品やエレクトロニクスなどの事業、住宅領域は「HEBEL HAUS(へーベルハウス)」やその部材であるヘーベル板をつくる建材事業などがあり、ヘルスケア領域は医薬医療や救命救急といったように、非常に多岐にわたって事業を展開しています。 当社の創業は1922年。当初は繊維系の事業が中心でしたが、後に石油化学へ展開し、1970年代ごろから住宅やヘルスケア、エレクトロニクスへ多角化を進めてきました。2000年代からグローバル化が進展し、米国などで企業買収も含めて事業を拡大しています。 2016年には事業持株体制に移り、売上高は2兆7265億円(グループ計、2023年3月期)。売上高比率はマテリアルが約半分、住宅建材が約3分の1、ヘルスケアが約5分の1という構成です。直近ではヘルスケアが拡大しており、今後も拡大していく計画です。

独自の文化を守りながら変革を進める

松本 本対談のテーマである人財戦略について、旭化成グループの考え方や取り組みをお聞かせください。 白井 当社は、時代とともに変化する社会課題に挑戦しながら、事業ポートフォリオを変革してきました。そうした転換を進める一方、旭化成がもともと持っている風土や文化を大事にしていこうと、「野心的な意欲」「健全な危機感」「迅速果断」「進取の気風」からなる『A-Spirit』をまとめました。 それをベースに「中期経営計画 2024 ~Be a Trailblazer~」では「人財」に関する戦略のキーワードとして、「挑戦・成長を促す終身成長」「多様性を促す共創力」を掲げています(【図表1】)。 100年の歴史で培った無形資産であるグループバリュー「誠実・挑戦・創造」、多様性「幅広い技術 多様な事業 多様な市場との接点」、自由闊達な風土「“さん付け文化”トップと現場の近い距離感」を維持しながらA-Spiritを維持・発展していこうと考えています。 【図表1】求められる人財・組織と人財戦略骨子 出所 : 旭化成講演資料よりタナベコンサルティング作成 人財戦略においては「人は財産、すべては『人』から~多様な個の終身成長と共創力で未来を切り拓く~」を掲げて取り組んでいます。 「挑戦・成長を促す終身成長」では、個人が自律的にキャリアを形成して成長していくことが基本ですが、個人任せではなく、マネジャーの力も非常に重要だと考えています。「自律的キャリア形成と成長の実現」「個とチームの力を引き出すマネジメント力の向上」の2つを掛け合わせて取り組んでいます。 「多様性を促す共創力」では、「多様性を広げる」動きと、広がった多様性をつなげて新しいものを生み出していく「多様性をつなげる」動きが大事だと認識しています。これらによって従業員のウェルビーイングと働きがいを向上させると同時に、会社としてもグループ全体の競争力を高めていきたいと考えています。 また、こうした活動がうまく進んでいるかを確認するKPI(重要業績評価指標)を定めています。主なKPIとして「高度専門職人数」は2024年度末で360名。「成長行動指標」では、エンゲージメント調査の指数を参考にしています。「多様な人財活躍指数」は、ラインポストと高度専門職における女性比率を2030年度に10%まで高めるという目標を掲げています。 KPIの推移については、高度専門職人数が2018年の180名から2022年は294名へ、成長行動指標が2020年の3.65から2022年には3.71へ上昇。ラインポストと高度専門職における女性比率も2018年の2.2%から2022年には3.7%へと、着実に高まっています。

人は財産、すべては人から

松本 「人は財産、すべては人から」という思想をカルチャー(企業文化)として展開されていることがよく分かりました。終身成長について、具体策なども含めて紹介いただけますか。 白井 終身成長を促す施策をいくつか紹介します。 1つ目として、「CLAP(クラップ)」という学習支援システムを2022年度から導入しました。正式名称は「Co-Learning Adventure Place」で、社内外の有益なコンテンツを整備した旭化成独自の学習プラットフォームです。 「自律的キャリア形成と成長の実現」と「個とチームの力を引き出すマネジメント力向上」の支援策として、社員一人一人の志向やニーズに応じた専門性強化とキャリア形成支援を目的としています。 社内外の学習コンテンツを利用できるラーニングプラットフォームとして、社外のコンテンツである「Schoo(スクー)」「テンミニッツTV」や、社内で作成した学習教材・動画教材・資料などが閲覧できます。現在のところ一部の現場で利用できない状況ですが、将来的には国内の全社員を対象に展開していく予定です。 CLAPのポイントは、「終身成長」「みんなで学ぶ」「文化を作る」の3つ(【図表2】)。キャリア自律を推進するために、共に学び、他者から学ぶことで、学んだ状況や情報を共有し合えたり、情報を共有したりできるように設計しました。上司が全てを決めて押し付けるのではなく、社員が自分で考えて行動していけるように支援していくプラットフォームといえます。 【図表2】キャリア自律を推進するために、旭化成が目指すこと 出所 : 旭化成講演資料よりタナベコンサルティング作成 2つ目として、経営人財の育成に向け、次世代の経営人財を選抜し育成する全社プログラム「FLY」や、次世代の事業部長層を選抜し育成するプログラム「NEXT」を実施しています。目的は、次世代の経営人財や事業部長人財を育成して、継続的にリーダー人財を生み出していくことです。 FLYはグループの社長がプログラムのオーナーになり、全社の人財育成委員会で運営していきます。メンバーは事業部長層や部長層、課長層の各層から選抜され、研修や計画的なローテーションを実施することで、将来のグループ役員の候補者層を厚くしていきます。FLYの事業部版がNEXTです。部門長がプログラムのオーナーとなり、各部門で設計している人財育成委員会で運営しています。 3つ目は、「KSA」というエンゲージメントサーベイです。毎年1回サーベイを実施し、個人と組織の状態を可視化しています。サーベイの結果を見ながら「職場や組織をもっと良くするにはどうしたら良いか」について職場で対話をします。その上でアクションプランを策定して取り組みを実行し、1年後にその結果をサーベイでチェックしながら個人と組織の成長と活力の向上を図っていきます。 KSAの設計に当たっては、大阪大学大学院経済学研究科の教授、開本浩矢氏の「活力と成長循環モデル」に基づいて、個人と組織の状態を「上司部下関係・職場環境」「活力 (エンゲージメント)」「成長につながる行動」という3つの指標で測定しています。各指標とそれらの影響度合いを確認することで成果を可視化し、組織の状態を把握して次の打ち手に役立てています。

自律的なキャリア形成を支援

松本 CLAPを通した社員のキャリア自律や永続発展に向けた次世代人財育成、進取の文化形成に対する取り組みを教えていただきました。最後に共創力についてお聞かせください。 白井 共創力を高める施策を3つ紹介いたします。 1つ目は高度専門職制度。これは新規事業創出・事業拡大に必要な専門性を持つ人財を継続的に育成していく仕組みです。2008年から実施しており、2017年に積極的に活用できる仕組みへリニューアルしました。専門人財が会社の中にどれだけいるのかを可視化することで、専門人財に相談したり協力を依頼したりと、つながりをつくりながら新規事業創出・事業拡大を図っていきます。 高度専門職は「シニアフェロー」「エグゼクティブフェロー」「プリンシパルエキスパート」「リードエキスパート」「エキスパート」の5つに分かれています。例えば、プリンシパルエキスパートはその業界の第一人者といわれるぐらい専門力の高い人財。リードエキスパートはそこに次ぐ専門職であり部長相当の位置付け、エキスパートはリードエキスパートの候補者でライン課長相当の位置付けとなっています。 運用面では、新規事業創出・事業拡大に必要な専門領域を設定し、領域ごとに人財育成委員会を設置して候補者の選定や育成などを協議しています。専門領域は技術系に限りません。法務や経理、人事といったスタッフ部門にも設定しています。現在、295名が高度専門職として任命されていますが、2024年末に360名とするKPIを設定しています。 2つ目は女性活躍推進の取り組みです。D&I(ダイバーシティー&インクルージョン)の実現に向けて、具体的な課題を把握しやすい点や取り組みの結果が測定可能である点から女性に焦点を当てました。具体的には、ラインの課長以上のポストと高度専門職における女性比率について、2024年度末までに5%、2030年度末までに10%を目指すという全社KPIを掲げています。 中期経営計画に女性活躍推進のKPIを盛り込んで社内外に発信したことをはじめ、社長が各部門に取り組みを指示しており、さらに女性活躍推進の進捗状況が役員の処遇の一部に反映される形になっています。 ほかにも、役員向け講演会の企画や部門長からの発信、事業部長メンバーでの議論、ワーキンググループの結成、若手社員を含めたヒアリングの実施、社内報でのD&I特集記事の掲載など、さまざまな形で取り組みを進めております。女性に焦点を当てていますが、こうした環境が実現できれば多様な人材が働きやすい環境につながると考えています。 3つ目は、「CaMP(キャンプ)」というタレントマネジメントシステムについてです。正式名称は「Career Management Place」。従業員個人の職務経歴やキャリアプランを一元管理するシステムです。さまざまなシステムに点在していた職務経歴やキャリアプランをCaMPにまとめたことで、例えば閲覧許可のある事業部長層がサクセッションプランを考える際、社内にどういった人財がいるのかが分かる仕組みになっています。 また、保有スキルや専門性については全従業員が閲覧できるので、互いのことを知るきっかけになります。また、まだ検討段階ですが、従業員同士のつながりを推進するために検索性を持たせたいと考えています。

人財を可視化し、活用・キャリア形成につなげる

白井 現在の活用法としては、従業員自身が情報や職歴を確認したり、過去を振り返ったりできるほか、今後のキャリアを検討・発信することができます。今後、どのようなキャリアプランを描きたいかをきちんと書き込んでおけば、上司とのより深い対話にもつながります。上司にとっても部下とのキャリア面談や育成配置方針を記録できるため、部下のキャリア形成支援に役立てることができます。 松本 詳しく説明いただきありがとうございます。本対談を通して、人財価値を創造し続ける人財戦略のポイントが見えてきました。 1点目は、経営戦略と人財戦略を連動させ、そのモニタリング指標として人的資本KPI、あるいは人事KPIを設定していること。2点目は、100年企業に根付いた旭化成スピリットです。A-Spiritを企業DNAとして、人事部門が経営に深く関わる形で、キャリア形成を支える環境やプラットフォームを用意しています。 3点目は、グローバル企業らしく多様性を広げたり、つなげたりする仕組みです。HRDXのような仕組みも活用しながらエンゲージメントを高めています。 まさに経営戦略と人財戦略を融合させることによって、自社の業績や価値を高めていらっしゃいます。本日は誠にありがとうございました。

PROFILE

  • 旭化成㈱ 人事部 人事制度室 室長 白井 彰(しらい あきら)氏 1997年に旭化成に入社。工場勤労、労務、人事制度企画、海外駐在(米・欧)、事業部門のBPを経験し、現職。役割等級制度の導入、業績連動賞与導入、リハビリ勤務制度(復職支援制度)導入、諸制度の改廃等、人事制度設計について幅広い経験を有する。海外駐在では米国での駐在経験を活かし、欧州で人事業務支援体制を立ち上げる等、グローバル人事に関してもさまざまな経験を有する。

Interviewer 松本 宗家(まつもと むねや)
タナベコンサルティング HR ゼネラルパートナー