防災・環境・教育をCSRテーマに
タナベコンサルティング・藤島(以降、藤島) 草野作工は1936年に北海道の江別市で、橋脚の工事を中心に土木工事を施工する、草野組として創業されました。創業者の草野眞治氏は橋造りの名人としてその名を轟かせ、北海道の三大名橋のうち、旭橋(旭川市)と、(旧)豊平橋(札幌市)を手掛けました。唯一、そのまま現存する旭橋に、その功績を垣間見ることができます。
戦後、草野作工に改称されてからも、新技術を積極的に活用され数多くの「道内初」を成し遂げてきました。今日は同社の副社長である小町谷信彦氏にお話を伺います。創業当時から、チャレンジ精神に富んだ社風だったのでしょうか。
小町谷 パイオニア精神にあふれていました。創業者がとても進取の気性に富んでいて、新しいものをどんどん導入しました。
北海道は雪や寒さのため、冬に工事ができなかったのですが、創業者は電熱養生法という、冬でもコンクリートを作ることができる新しい方法を開発しました。もちろん、日本で初めてです。創業者の精神を受け継いで、近年も道内初の工法やi-Construction、建設DXなどの最先端技術を導入しています。
藤島 タナベコンサルティングは、さまざまなステークホルダーの体験価値を良い方向に変容させていく方程式を考え出しました。体験価値の変容を「XX(エクスペリエンス・トランスフォーメーション)」と定義した「XX=DX(CX※1+EX※2+SX※3)×デザイン思考×OMO」です(【図表】)。草野作工では、働く意義を創造するために、北海道の人々の産業や経済を支える基盤づくりを進めるという、大きなビジョンを掲げていますね。
【図表】草野作工流「体験価値変容」方程式
※本稿ではOMOの前段階としてのデジタル活用も含む出所:タナベコンサルティング作成 小町谷 建設業は社会基盤づくりで社会に貢献しています。また、特に「防災・環境・教育」の3つの分野で、CSR活動に取り組んでいます。 やはり、命・財産・生活を守らなければ暮らしが成り立ちませんから、防災は非常に重要です。近年は地球温暖化の影響で異常気象による災害が増え、建設業の出番も多くなっています。毎年、防災用品を地元の江別市に寄贈しているほか、自社の敷地を非常時避難所として災害時に開放し、地下水や自家発電装置による電気を供給しています。 藤島 公共機関とも連携して、平常時の地域防災の啓発活動や道外の災害支援にも社員を派遣されているそうですね。 小町谷 国土交通省の災害支援(TEC-FORCE)に参加して、2019年10月に起こった福島県郡山市での水害時は排水ポンプ車で排水作業を行いました(2022年8月、江別市でTEC-FORCEに参加)。また、「地域防災建設フェア」というネーミングで、国土交通省や自衛隊、消防、警察、地元の江別市などの災害対応機関と協力し、訓練や講演会、災害対策マシンの乗車体験などを通して防災意識を高め、自分でできる災害対応活動を啓発しています。 藤島 3つの分野のうち、環境についてはいかがでしょうか。 小町谷 1995年に草野河畔林トラスト財団を設立。都市開発で消えつつある河畔林を保護・保全し、自然環境観察会などを実施して道民の環境教育にも力を入れています。 もう1つ、当社は江別市の都市公園指定管理者を務めた際に、「江別の自然環境が素晴らしい」と出店した蔦屋書店とコラボレーションをしました。地元の産直野菜の販売、アートペインティング、青空図書館、野外コンサート、夜はイルミネーションアートなど、緑道や広場の自然を生かした市民イベントを企画しました。 藤島 緑豊かな自然やアートに触れる、市民に喜ばれるイベントですね。教育分野では、小・中・高等学校などのキャリア教育を支援されています。 小町谷 建設業がどのような役割を果たし、土木はどのように社会を支えているのかを出前授業で子どもたちに教えるほか、大学や高専ではより専門的に、実業としての建設業の姿を伝えています。また、ホームページでは北海道の土木のパイオニアをテーマに、当社の創業者など先人の生涯をマンガにして、建設業の魅力を発信し続けています。 北海道は積雪寒冷の厳しい気候で、しかも泥炭地です。そんな環境でも治水から始めて道を通し、港を造って……と、人々の暮らしや産業が成り立つ基盤をつくってきた歴史やパイオニアとしてのやりがい、そしてこれからの社会の発展にどう貢献していくかを考える土木事業の醍醐味を、分かりやすく伝えるためです。 藤島 社員の方々は、CSR活動をどう感じていらっしゃいますか。 小町谷 市民の皆さまの生活に役に立つことなので、子どもに対して「お父さんは、こんなことをやっているんだよ」と言えるなど、仕事への誇りと自信にもつながっているようです。 ※1…顧客体験価値 ※2…社員体験価値 ※3…社会体験価値
現場で今、何がどう動いているかをリアルタイムで見える化するDXルーム。社員の安全と健康につながるスタッフファーストをDXでも実現している
採用応募者が急増
共感が信頼につながる
藤島 CSR活動を通して、ステークホルダーにどのような体験価値を生んでいるのでしょうか。
小町谷 1番のターゲットは、やはり子どもや若い人たちです。これからどんな職業に就こうかと考える選択肢として、建設業や土木工事がとても夢のある仕事で、社会の役に立つし、やりがいがあると、少しでも知ってもらえたらと思っています。
藤島 うれしい反響として、マンガを作ってから採用応募者が増えたそうですね。
小町谷 企業訪問者数は5~6倍に増えました。それまでが少なかったということもありますけど(笑)。
藤島 ターゲットの体験を良い方向に変容できた事例として、本当に素晴らしいと思います。地域防災フェアや環境イベントも、市民の皆さまや地域、自治体との結び付きが強くなる手応えを感じられたのではないでしょうか。
小町谷 それは、ありますね。CSR活動を進めるに当たって、建設業としてのノウハウや広い敷地を活用していただくことで、当社になじみ、結び付きをさらに深めていくことを考えています。
また、社員にとって自分の仕事に対するモチベーションが高まる効果を感じています。フェアに対して市民の方々の関心が非常に高く、イベントに参加して喜んで帰られる様子を目の前で見ることができますから。
藤島 体験が非常に大きな価値になって、さまざまな協力者を巻き込むことにも成功されています。
小町谷 体験価値という言葉自体にはあまりなじみがなく、意識していませんでした。ただ、建設業の振興や、自然との触れ合いの促進など、私益ではなく公益的なところに狙いを定めて取り組むことが、市民の皆さまや国、発注者などに喜ばれ、たくさんの共感を得ることが結果的に当社のメリットにつながっていると感じます。メディアで広く取り上げていただくことで「草野作工って、こういうことをやっている会社なのか」という信頼を生み、ブランディングにもなっています。
藤島 素晴らしい体験価値が生まれる理由に、草野作工独自の理念体系があります。経営理念の上に哲学として「美しく、繋げる」を掲げ、クレドカードで社内に浸透されています。なぜ「美しく、繋げる」なのでしょうか。
小町谷 若手社員、中堅社員、幹部クラスの代表が集まって、当社のこれまでとこれからの取り組み、強みや弱みなどの意見を出し合う「ブランドコンセプト会議」を設けています。そこで、草野作工の強みとして、「創業者の時代から現場がとてもきれいだと定評があって、仕上がりの美しさに対するこだわりも伝統だ」という意見が出ました。また、社会基盤をつくる建設業は、1つの橋を架けると町と町が、道を造ると地域と地域がつながり、人と人との交流も生まれるという仕事をしているわけです。そうやって確かめたことを哲学として掲げています。
藤島 「美」を追求される姿勢に、私は感銘を受けました。実際に、工事現場で車が一糸乱れずに美しい列を成して駐車されているのを見たことがありますが、そうすることで安全や安心の追求にもなって、実に理にかなっています。
造る構造物だけではなく、建設の仕事そのもの、働く人の姿の美しさ、所作や言動全てに行き届いた哲学の実践が、CXやEX、SX、業界や地域の価値を高め、多様なステークホルダーのXXを生み出す経営の原動力になっていると私は見ています。「美の追求」の輪を、広く社会のあらゆるシーンにつなげていく、社会共創のブランドですね。
もう1つ、大切にされているのが「スタッフファースト」という考え方です。会社を支えているのはやりがいと情熱を持って働く社員で、「子どもを働かせたい会社になる」という目標を掲げていますね。
小町谷 具体的な制度や仕組みとしては、業績の良し悪しにかかわらず安定収入を得られる年俸制、業界に先駆けた週休2日制の導入などです。
他に、配偶者手当・子ども手当は男女平等に主婦として家庭を支えている女性社員にも支給し、社員同士が互いに評価する人を投票してボーナスを与え合う「ピアボーナス制」を導入しています。
藤島 一人一人のモチベーションも、「チーム草野」の一員としての貢献意欲も高まるでしょうね。社員視点で非常にうれしい温かな対応ですし、期待されていることを実感し、充実した仕事をしながら「自分の居場所はここにある」という安心感も醸成できます。社員の皆さまが幸せでハッピーな体験をすることで体験価値が高まり、一騎当千の存在へ成長するという流れがデザインできています。
「草野作工流の方程式」で次代も生き残る
藤島 独自の哲学を起点に、新たな体験価値を生み出すDXも始まっていますね。
小町谷 スタッフファーストを本当の意味で実現するには、きちんと利益を上げ続ける必要があります。良好な職場環境を整備し、生産性を向上するツールとして建設DXは極めて重要ですし、先行投資でどんどん進めて新しい未来を開いていけたらと考えています。
藤島 貴社のDXはあくまでも、スタッフファーストに基づいたものなのですね。固定のライブカメラやウエアラブルカメラを活用して、現場の施工管理を本社が支援しています。その他、社員や作業員にスマートウオッチを装着させ、安全管理や熱中症対策を本社としても支援されています。
小町谷 脈拍の変動や位置情報が動かないなどの異変を、本社のDXルームから監視できる仕組みで、何か起こればすぐに現場へ急行し、万全を期しています。
また、全ての現場にリモートカメラを取り付け、現場の進捗から検査まで、本社にいながら隅々まで見ることができます。先ほどお話ししたキャリア教育では、DXルームを見学してもらい、工事現場の事務所とオンラインでつなぐ仕事体験もやっています。
藤島 建設DXのフロントランナーとして、若い世代に建設現場の今を、身をもって教えているということですね。新しいチャレンジはDXだけではありません。
小町谷 ビート(サトウダイコン)が原料である「発酵ナノセルロース」の事業では、特許を取得し、北海道大学と組んで多用途の製品化を目指しています。植物由来の原料で自然に優しいので、SDGsの観点からも大きな期待を集めています。他にも農業法人や太陽光発電なども事業展開していて、多面的にさまざまな方向性を探っているところです。
藤島 結びとして、私なりに「草野作工流、体験価値変容の方程式」をまとめました(前頁【図表】)。草野作工は、スタッフファーストに重点を置いたEXの体験価値戦略があります。また、「美の追求」を根幹に、CXやSXへの波及効果も非常に大きいと見ています。
デザイン思考は、「美しく、繋げる」哲学を原動力に、相手の視点に立つ共感力やアイデア提案につながり、さらにOMOのデジタルとリアルの融合も「人にやさしいDX」として、他社に先駆けたチャレンジをされています。そうした取り組みを掛け合わせることで、たくさんの素晴らしい体験を生み出し、体験を変容させることに成功されているのだと思います。
小町谷 スタッフファーストで次代も生き残る会社として、建設業としてこれから何が必要かを考えながら、頑張っています。皆さまのご参考になれば幸いです。
藤島 本日は貴重なお話をありがとうございました。
小町谷 信彦(こまちや のぶひこ)氏草野作工 執行役員 副社長
PROFILE
- 草野作工(株) 北海道内の建設会社で唯一、河畔林保全を目的とした公益法人設立や、働き方改革のフロントランナーとして「完全週休2日制工事」導入、建設DXの導入など先進的な取り組みを行う。顧客・地域・業界の体験価値を高める「社会共創のブランド」企業。
藤島 安衣(ふじしま あい)タナベコンサルティング ブランド&マーケティング東京本部 課長