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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2021.10.01

DXで成果を上げる3つの決断: タナベ経営 取締役副社長 長尾 吉邦

 
「実装」なくして「成果」なし
  「ファーストコールカンパニーフォーラム2021」のテーマは、「DX価値を実装する」。   「価値の実装」――この言葉にメッセージを込めた。   「実装」とは、「装置や機器の構成要素となるものを、すぐにも使えるように組み込むこと」を意味する。すなわち、「すぐにでも使える」「組み込む」というレベルにまでDXを引き上げることである。   さらに、「DXの価値を組み込む」という“手段”ではなく、「DXの価値を組み込み、経営成果を上げる」という“目的”の実現に対する強い思いを、このテーマに込めている。   「デジタルトランスフォーメーション」という言葉の初出は、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン(Erik Stolterman)氏が2004年に発表した論文「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOODLIFE(情報技術と豊かな暮らし)」である。
 
DXの概念としては、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」(総務省「情報通信白書(2019年版)」)という説明がなされるが、ビジネス用語としては定義・解釈が多義的である。
  日本では、経済産業省が2018年に公表した「DX推進ガイドライン」の中で次のように規定されており、それがおおむねDXの定義として定着しつつある。   「本ガイドラインでは、DXの定義は次のとおりとする。『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。』」   17年も前から提唱されていた事実にいささかの驚きを禁じ得ないが、いまやDXは産業界のみならず、社会のトレンドワードとなっている。「2025年の崖」問題への対処という切迫感も相まって、DXの推進に対して異を唱える声はほとんど聞かれない。
  ただ、「DXを実装しているか」「DXによる新しい価値が成果に結び付いているか」と問われれば、「いや、そこまでは……」と口ごもる経営者が多い。「課題は強く認識している。しかし、具体的に進んでいない」というのが実態であろう。   とはいえ、タナベ経営のDXを冠にしたセミナーはいずれも盛況であり、DXへの経営者の意欲が高まっていることは確かである。
 
しかし、その一方で、「日本は社会も企業もDXが遅れている」という指摘をよく耳にする。例えば、米デル・テクノロジーズが世界18カ国の大・中規模企業のビジネスリーダー4300人を対象に実施したDXグローバル調査によると、全体に占める「デジタルフォロワー(デジタル投資の計画を始めた企業)」と「デジタル後進企業」の割合が、日本は51%といまだに半数を超えている。グローバル平均は16.2%だ。(【図表1】)
 
 
【図表1】Digital Transformation Index 2020
資料:Dell Technologies「Digital Transformation Index 2020」
出所:デル・テクノロジーズ/プレスリリース(2020年11月19日)
 
 
また、米ガートナーが世界のCIO(最高情報責任者)1877人を対象に行った「2021年CIOアジェンダ・サーベイ」によると、DXが成熟段階にある企業の割合(グローバル平均)は、2018年の33%から2020年には48%へ増加した。一方、日本企業の成熟割合は23%から37%へ上昇。同社は「日本企業のデジタル化の取り組みは加速しているものの、世界のトレンドラインより約2年の後れを取っている」と指摘した。   これらのリポートが指し示す指摘は的確であり、多くの経営者が認めるところであろう。社会インフラなどの根深い問題があるものの、やはり現実は受け止めなければならない。   その中で、「日本のDXが進まない要因」として挙げられているのが次の3つだ。
  (1)経営者の意識の低さ (2)経営者の理解不足 (3)デジタル人材の不足
  これら3つの事実を決断に換え、DXを実装して成果を上げることが重要である。
 
 
事実を「決断」に転換する
  経営とは、「事実」である。その事実に対する「決断」と「実行」なくして経営はない。   経営者の仕事は「決断」にある。「決断」は、「決定」とは違う。決定は、十分な情報と選択肢がある中で決めることだ。しかし、決断は、情報が不十分で選択肢も見えない中、判断を下すことである。   前述の通り、DXが進まない3つの要素に対して、ただそれを認めているだけでは経営にならない。経営者はこれらの要因に対して3つの投資の決断(【図表2】)を行い、DXを実装して成果を上げる必要がある。DX価値を実装するに当たっての事実(課題)をつかみ、決断へ転換することこそが、経営者の仕事なのだ。     【図表2】DX投資の3つの決断 出所:タナベ経営作成  
  決断1:
戦略テーマを実現する 「DX投資額への決断」と「成果へのこだわり」
  機械設備への投資に毎年1億円を決裁する経営者でも、マーケティングDXへの投資には5000万円でひるんでしまう。コンサルティングの現場でよく遭遇するシーンである。   日本の経営者の多くは、機械・工場・店舗への投資を何度も繰り返して成功と失敗を積み重ねており、何にいくら投資すれば、どれくらいの利益を見込めるかが経験則で判断できる。「目的→投資→効果」が検討の過程で腹落ちするから、大きな投資でも決断できるのだ。一方、DX投資は経験が浅く、投資対効果(ROI)もよく分からないために、大きな投資を決断できないことが多い。   また、多くの経営者は、設備投資に対する優遇制度(融資、補助金、税制など)も熟知しているため、どれだけの投資対効果を上げればよいかを理解しており、必然的に投資の心理的ハードルは低くなる。しかし、DX投資は経験が少ないだけに心理的ハードルが高く、抑制的な姿勢に終始するケースが多い。   コロナ禍による業績低迷で企業のDX投資が滞ることに危機感を覚えた政府は、2021年度の税制改正でDXを進める企業に対する優遇策を新設・拡充した。いまやDX投資は、機械設備投資と同様に税制面での支援措置が受けられるようになっている。   このように国を挙げてDX投資へ誘導しているにもかかわらず、自身の経験不足と心理的ハードルの高さから、DX投資の決断に踏み切れない。この決断の遅れが、「経営者の意識の低さ」として表れているのだろう。   だが、多くの経営者は優秀で、自社の経営課題、ビジョン、戦略テーマが明確である。「A事業を売上高50億円規模へと成長させる」「売上高100億円、経常利益率10%の新規事業を創出する」「粗利益率50%のEC直需事業を売上高構成比3割にする」「サプライチェーンを高度化、効率化して人時生産性(従業員1人の1時間当たり粗利益額)を10%伸ばす」など、取り組むべき課題をはっきりと認識している。   だからこそ、経営者は正しい思考プロセスで、DX投資を決断することが大切だ。経験不足と心理的ハードルの高さからDX投資に踏み切れないでいる経営者は、「戦略テーマを実現し、成果を上げるためにいくら投資をする」という、ROIC(投下資本利益率)を基準に置いた決断をする。そして、戦略テーマに目標を定め、実行し、経営成果を追求する。これが正しい経営者意識ではないだろうか。
   
決断2: 強みと戦略テーマとDXをつなぐ 企画デザインへの投資
  デジタルホールディングス(東京都千代田区)が2019年に実施した「企業のデジタルシフトに関する調査」によると、「デジタルシフトの意識が低い経営者の下で働きたいと思うか」との問いに対し、ビジネスパーソンの過半数(55.5%)が「働きたいと思わない」と回答した。理由は、「今後の企業の業績に大きく関わると思うから」(37.8%)が最多だった。経営トップのデジタル化に対する理解度が、今後の企業活動に影響を及ぼすと考える社員が多い。   デジタルに対する「経営者の理解不足」。この課題の本質は、どこにあるのか。もちろん、デジタル技術への理解が不十分であることは否定できない。では、そこにメスを入れる決断とは何か。   DXを推進する上では、①トップダウンによる推進、②DX推進プロジェクトの組成、③部門最適主義による抵抗勢力の排除、などが求められる。多くの経営者は、力強くリーダーシップを発揮し、実行している。また、業務を担当するSIer(システムインテグレーター)も秀でた仕事をし、価格に見合った価値を発揮している。   では、なぜDXが進まないのか。その本質は、「強みや戦略テーマとDXをつなぐ企画デザイン(現状認識~戦略デザイン)」のフェーズの深さと人材が不足していることにある。つながっていないし、伝わってもいないのだ。   経営者にとって戦略テーマや目的・目標は明確である。その戦略は企業の持つ強みから派生するものであり、生かすべき強みも経営者は深く認識している。経営者と同じ目線に立ち、「DXを企画デザインするフェーズ」がボトルネックであり、ここへの投資(アウトソース)の決断が必要だ。   ゆえに、2つ目の決断は、鍵となる現状認識から戦略構築、企画デザインという上流・中流工程へのチームと人材への投資である。このフェーズを経営視点でサポートできるのは、経営者の戦略パートナーであるTCG(タナベコンサルティンググループ)しかないと自負している。  
 
決断3: 構築から実装までをけん引する 「プロジェクトマネジメント人材」への投資
  電通デジタル(東京都港区)が発表した「日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査2020年版」によると、DX推進の障壁について、「スキルや人材不足」を挙げる企業が最も多い。最も大きな経営課題は、デジタル分野の人材不足なのである。   また、日本情報システム・ユーザー協会(東京都中央区)の「企業IT動向調査報告書2021」でも、現在のIT部門要員数が「充足している」と答えた企業は29.0%にすぎない。人材のタイプ別に見ると、「運用管理・運用担当」(60.2%)と「ベンダーマネジメント担当」(60.5%)は充足企業が過半数を占めた半面、「IT戦略担当」(30.2%)や「新技術調査担当」(26.8%)は低い充足度となっている。また「データマネジメント担当」(25.2%)や「データ分析担当」(19.5%)はさらに低い。   このうちIT戦略立案や技術調査、データ分析などの専門人材は、簡単には社内で育成できない。中途採用でも確保が難しいため、当面はスタートアップ企業やコンサルティングファームといった外部パートナーを活用することが現実的であろう。   また、注目したいのが、社内のDXプロジェクトのまとめ役である「プロジェクトマネジメント担当」の人数の充足度が40.6%と、半数以下にとどまっていることだ。さらに、プロジェクトマネジメント担当のスキル充足度は36.8%と4割を下回っている。   ビジネスDX、マーケティングDX、バックオフィス(マネジメント)DX、ヒューマンリソースDXのどれを実装しようとしても欠かせないのが、「部門横断」や「機能横断」だ。1つの目的・目標に対し、複数のプロジェクトとの連携が必要となる。それを統率し、推進していくには全社へのリーダーシップと、卓越したプロジェクトマネジメントスキルが求められる。   すなわち、経営者をリーダーとするDXプロジェクトの下、全プロジェクトを動かし、実装・成果まで導いていく実務責任者が必要である。中堅規模の上場企業で言えば、役員クラスか、社外から経験者を求めるか、アウトソーシングするかの3択になる。   経営者には、正しい思考プロセスでこの3つの決断を行い、DXを実装し、自社のビジョン実現という成果を上げていただきたい。      
 
PROFILE
著者画像
長尾 吉邦
Yoshikuni Nagao
タナベ経営 取締役副社長。タナベ経営に入社後、北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年に常務取締役、13年に専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアント先の特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。