日本最大級のDIY工具通販サイトを運営
タナベ経営・山本(以降、山本) 大都の会社概要をお聞かせください。
山田 当社は創業84年の老舗企業です。私は3代目の経営者で、社員からは「ジャック」と呼ばれています。当社は全スタッフがイングリッシュネームで呼び合う文化があり、役員も「トニー」や「ジョニー」と呼ばれています。直近の売上高は54億5000万円(2020年12月期)、社員数は25名。2021年にベトナムで立ち上げた子会社にも7名の社員がいます。
ビジネスモデルは非常にシンプルで、工具メーカーや塗料メーカーの商品・情報をEC(インターネット通販)でユーザーに提供しています。この「DIY FACTORY ONLINE SHOP」は取扱アイテム数が約150万点以上の日本最大級のDIY工具通販サイトです。ECサイト、物流システム、物流センターなどビジネスのポイントになるところは全て自前で運営しています。当社がEC事業に参入したのは2002年で、それから19期連続で増収を達成しました。
山本 EC事業へ参入する前には、どのような事業を手掛けてこられたのですか。
山田 創業以来、おの、かんな、はさみといった工具の卸売事業を続けてきました。私は妻が先代の一人娘であった関係から、1997年にリクルートから当社へ転職。すでに厳しい状況だった卸売事業を手伝いながら、新規のEC事業を立ち上げました。
2004年に卸売事業からの撤退を決め、古参社員15名が退職。EC事業の売り上げがほとんどを占めた2011年に私は代表取締役に就任し、2012年には卸売事業から完全撤退してEC事業に一本化しました。2013年には新卒の第1期生が入社し、独自の組織化を推進しています。
そして、2014年には「体験できるリアルDIYショップ」というコンセプトでリアル店舗の「DIY FACTORY OSAKA」をオープン。翌年にはグロービス・キャピタル・パートナーズの大阪第1号案件として資金調達が決定し、「DIY FACTORY FUTAGOTAMAGAWA」もオープンしました。しかしながら、リアル店舗とアプリサービスの事業からは2019年に撤退しました。
「創業84年のベンチャー企業」として、25名の社員と共に、ビジネス・組織・顧客体験などのトランスフォーメーションへ挑戦している
コロナ禍でも4カ月連続で最高月間売上を更新
山本 DIY分野に特化したEC事業を推進しておられますが、そこに着目した理由を教えてください。
山田 3代目の私は、インターネットを通じて一般ユーザーに販売するビジネススタイルに変えましたが、仕入れ先の工具メーカーや塗料メーカーは創業のころからお付き合いいただいている会社がほとんどです。2002年というECの初期段階でその可能性に気付き、売り方をシフトしたのが大きな成功要因だと思います。
山本 山田社長は自社を「創業84年のベンチャー企業」と称されますが、どのようなところがベンチャーなのでしょうか。
山田 私の代で卸売事業からEC事業へ全面転換したので、第2創業のベンチャー企業と定義できると思います。現在でも社員の平均年齢が31歳くらいで、社内にはベンチャー気質がみなぎっていますよ。「世の中を変えるのはよそ者、若者、馬鹿者」と言われますが、リクルートから転身してきた私自身、そして大都で働く社員は皆、工具業界を変革しようという心意気で事業に取り組んでいます。
山本 卸売事業からEC事業へ転換する中で、「潮目が変わった」と感じたポイントはありますか。
山田 大都に入社した当時は卸売事業が100%で、私はトラックを運転して工具や塗料をお客さまの店舗に配達する業務を5年間続けました。
そんな私への「これからはネット通販の時代」という友人のアドバイスが、EC事業を始めるきっかけになりました。その翌日にはパソコンを購入し、昼間はトラックに乗り、夜はパソコンに向かって作業を続ける日々。「EC事業は伸びる」という手応えを感じたのは2004年あたりです。2008年には、売上高は互角ながら収益はEC事業の方が圧倒的に高くなりました。
例えば、卸事業は450円で仕入れた商品をホームセンターに500円で卸し、ホームセンターはその商品を1000円で販売するといった構造ですが、EC事業では450円で仕入れた商品に1000円の値付けをしても売れますから、収益率が高まるわけです。それに伴ってキャッシュフローも潤沢になったため、卸売事業では主体だった約束手形での取引を全廃しました。
山本 コロナ禍の影響はいかがでしたか。
山田 先ほど話しましたように、リアル店舗をオープンしたものの赤字が続き、2019年にアンテナショップとしての役割は果たしたと判断して閉店しました。かなりの経営資源を投下したので閉店には大きな抵抗がありましたが、もし閉店の決断が半年遅れていたら、感染拡大の影響を大きく受けて数千万円に及ぶ損失が出たと思います。
一方、コロナ禍で巣ごもり需要が生まれ、DIYで住まいを快適にしようという動きが活発化。ECを使えば外出せずに買い物ができるという利点も重なり、2020年3月から4カ月連続で最高月間売上を更新しました。
取引先を巻き込んでDXを推進
山本 EC事業を展開する過程で苦労されたことを教えてください。
山田 最大の課題は「当社がDXを進めても、取引先がそれに対応できない」という状況の改善でした。工具や塗料の業界は古い体質なので、当社がEDI(電子データ交換)を使ったオンライン発注を提案しても、多くの取引先は「今まで通りの電話やファクスでの注文がいい」と、否定的な考えでした。
そこで当社のスタッフが発注現場に赴いて、パソコンの画面を見ながら操作や確認の仕方を説明すると「ファクスよりずっと楽!」と納得してくれました。5、6年かかりましたが、1社ずつ現場での説明を積み重ねた結果、現在は発注の99.9%がオンラインです。これによって業務を効率化できました。
また、オンラインを使った商談にも取引先は当初、難色を示していました。しかし、コロナ禍でオンライン商談の必要性が高まったこともあって、当社スタッフのレクチャーへ熱心に耳を傾けてもらえるようになりました。現在は各社で月1回のオンライン商談を実施しており、時間やコストの節減につながると好評です。
山本 DXを成功させる要因は何だと思われますか。
山田 インターネットを使ったビジネスには商圏という概念がありません。世界中のユーザーを相手にビジネスができる半面、世界中の企業が競合相手になります。このような環境では、まずユーザーから見つけてもらうことがポイントになります。それに必要なのが、ネット検索を行ったときにウェブサイトを上位表示させるSEO(検索エンジン最適化)対策です。当社でも研究に励み、さまざまな対策を施しています。
発信も重要な要素です。自社のサイトにたどり着くSNSやウェブメディアなどの経路を探り、そこに影響を及ぼすTwitterやInstagramなどに情報を発信していきます。
山本 特に発信に関して、大都のメディア戦略は非常に優れていると思います。
山田 2015年に自社のDIYメディアサイト「Makit!(メキット)by DIY FACTORY」をオープンして、DIYで使う工具や塗料の商品や使い方、役立つ知識などを紹介しています。また、「GreenSnap(グリーンスナップ)」という植物SNSのアプリも提供し、1日4万枚ほどの植物画像が投稿されています。
山本 ちなみに、大都の取り扱うアイテムはどれくらいあるのですか。
山田 現在、取り扱っているアイテム数は約150万で、DIY関連のサイトでは圧倒的な商品数を誇ります。ECにおいては、商品数が増えるほど売り上げは伸びます。
山本 Amazonや楽天市場などは意識しますか。
山田 当社はAmazonや楽天市場にも出店しています。よく「競合関係にあるのでは?」と聞かれますが、当社は「日本のDIY市場におけるシェア」をKPI(重要業績評価指標)にしていますから、Amazonや楽天市場などに出店しないと業界全体のシェアを伸ばせません。「出店料は広告費」と割り切り、「“Amazon経済圏”や“楽天経済圏”におけるDIY分野でNo.1」を目指し、実現させています。
本社の壁には、社員や取引先の方々によるサイン&メッセージがびっしり。
中にはアマゾンジャパン社長、ジャスパー・チャン氏の直筆メッセージも
“リアルへの揺れ戻し”に対応した「暮らし方改革」
山本 これからのビジョンをお聞かせください。
山田 ここ数年は「働き方改革」が取り沙汰され、2020年からコロナ禍によって生活様式が一変しました。私は「暮らし方改革」が起きていると考えます。
働き方改革は「とにかく働く時間を短縮しろ」と上から目線で押し付ける半面、「空いた時間はこのように使いましょう」といった提案がありませんでした。ところが、コロナ禍で緊急事態宣言が発出されてリモートワークが浸透すると、郊外生活者や2拠点生活者が急増するなど、余暇や家族に対する意識が以前と大きく変わってきました。
この流れの中で、当社は「『自分たちの暮らしを自分たちでつくる』というムーブメントをさらに加速したい。そのために必要なのは、ユーザーとのリアルな接点ではないか」と考えています。“リアルへの揺れ戻し”が起き、人々はリアルを求める――。このような状況が起きると考え、リアルなイベントやコーチングなどにしっかりと取り組むつもりです。リアル店舗の再開も視野に入れています。
山本 欧米に比べて日本のDIYはレベルが低いと聞きます。
山田 その通りです。例えば、自分で壁紙を貼ったことのある日本人は5%しかいないと言われます。一方、パリで暮らす人の60%は壁紙の貼り替え経験者だそうです。
ただし、昨今は日本においてもDIY需要が高まっており、壁関係だと当社でもしっくいは昨年より6倍くらい売れています。要因として考えられるのは、まず、リモートワークなどで家にいる時間が長くなったため、自分で壁の貼り替えをやってみようと思う人が増えたこと。もう1つは、YouTubeでしっくいの塗り方を検索すると、驚くほど多数の画像が出てきます。誰かに無料で教えを乞うことができるデジタル環境がDIYを加速しているのですね。
山本 2002年にEC事業を立ち上げてから約20年が経過しました。これからの20年をどのように見ていますか。
山田 時代が進化するスピードは加速していると感じます。米国では、著名な研究者が算出した10年後のEC化率(インターネットで買い物をする比率)を1年で達成したそうです。私たち経営者もそれくらいのスピード感を持って物事を考えなければならないと思います。中小企業が大手企業に勝る数少ない要素はスピードですから。
特にDXにはスピーディーに取り組むべきです。それに必要なのは、トップの決断です。
私はかつてコミュニケーションがあってこそチーム運営が成り立つと考え、リモートワークを禁止していました。しかし、子どもが生まれるスタッフの強い要望でリモートワークのトライアルをやってみると、業務をデジタル化することでパフォーマンスを落とすことなく、家族との充実した時間を過ごせることが判明。新型コロナの緊急事態宣言発出に合わせて全社でリモートワークに踏み切りました。DXのような新しいことに挑戦するには、トップの迅速で確固な決断が必要です。
山本 貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
山田 岳人(やまだ たかひと)氏大都 代表取締役
PROFILE
- (株)大都
- “DIYを文化にする”を合言葉に、ECサイト「DIY FACTORY」、メディアサイト「Makit!」を展開。1937年に創業した当初は工具卸業だったが、同社代表取締役・山田氏の入社後、2002年にEC事業を立ち上げたことで、ホームセンター向けBtoBからデジタルを通じたBtoCへとビジネスモデルの転換を実現した。「創業84年のベンチャー企業」として、ビジネス・組織・顧客体験などのトランスフォーメーションを推進している。2020年7月テレビ番組「カンブリア宮殿」に出演。
