DX元年
──コロナショックという「世界同時リセット」のインパクト
「この2カ月で2年分に匹敵するほどのデジタルトランスフォーメーション(DX)が起こった」(米マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、2020年5月)。DXをリードするGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の一角、米マイクロソフトのトップにそう言わしめるほど、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は極めて大きなインパクトを私たちにもたらした。
アップルのiPhoneをきっかけにスマートフォンが普及して人類のコミュニケーションは一変したように、コロナ禍においてもZoomを中心としたDXツールの社会実装が劇的に進んでいる。新しい生活様式やビジネス手法が日常・常識となる「ニューノーマル」時代に突入し、社会課題のプライオリティー(優先順位)が強制的にリセットされたと言えるだろう。
“リセット”には、「元の状態に戻す、切り替えるためにもう一度スタート位置に立つ」、あるいは「パソコンなどの機器を操作する時に始めるところまで戻ってスタートし直す」という意味がある。コロナショックによって世界経済が同時リセットされた今、私たちはDX戦略において、世界の企業と同じスタートラインに立っている。
「2025年の崖」から落ちない経営
──システム戦略投資の決断
2021年は「DX元年」と呼ばれている。そして4年後、日本企業は大きな“崖”と直面する。いわゆる「ITシステム2025年の崖」である。
新しくデジタル戦略に取り組もうとしても、レガシーシステム(時代遅れのITシステム)によって阻まれ、前に進めなくなる。その場合、2025年以降に最大12兆円/年の経済損失を被ると予測されている。これを「技術的負債」(または「設計上の負債」)と呼び、その臨界点を迎えるのが「2025年の崖」である。
古いサーバーシステムを1つでも残していると、Web化やクラウド化が進まず、DXに取り組めない。ITシステムが統合されていないと、ビジネスや経営ができなくなる時代が来るのだ。経営者がDXの必要性を理解していても、レガシーシステムが事業部門ごとに構築されていると全社横断的にデータを活用できない。過剰なカスタマイズによってシステムが複雑化・ブラックボックス化してしまっている企業も多い。
皆さんの会社のシステムは、時代遅れになっていないだろうか。2025年までにIT経営システムを「まるごとアップデート」するシステム戦略投資を行う必要がある。
4つのDX戦略モデル
──経営をアップデートする方法
「アップデート(update)」とは、コンピューター用語でソフトウエアの内容をより新しいものに変更することである。パソコンやスマホ、タブレットも、OS(オペレーティングシステム)をアップデートしなければ、その上で稼働するソフトウエアやアプリが動かなくなる。
企業も同じであり、経営をアップデートしなければならない。経営をアップデートする先にDX戦略があり、その実装、オペレーションがある。そして私たちは、そのDX戦略モデルを大きく4つに区分している。
1つ目の「ビジネスDX」とは、事業や商品・サービスにデジタル技術を組み込むことだ。例えば、SaaS(インターネットを経由してソフトウエア機能を提供するサービス)などのクラウドビジネスやサブスクリプションモデル、EC(電子商取引)戦略におけるDtoC(Direct to Consumer)ビジネスなどへの取り組みである。DXによるサプライチェーンやバリューチェーン戦略の変革もこれに含まれる。
2つ目の「マーケティングDX」とは、顧客創造活動のデジタル化を意味する。ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保を求められる現在、直接対面での営業活動や展示会・イベントの開催がますます難しくなっている。デジタルマーケティングにアップデートしなければ顧客創造活動が成り立たず、トップライン(売上高)が上がらない。それは損益分岐点操業度の高止まりを意味し、収益構造にも影響を及ぼす。
具体的には、リード(見込み顧客)の発掘・育成を目的としたWebページの作成や広告運用、SEO(検索エンジン最適化)、ABM(特定企業に個別アプローチを行うマーケティング手法)、MA(マーケティングを自動化・可視化するソフトウエア)ツールといったCRM(顧客関係管理)システムの実装が求められている。
3つ目は「バックオフィス(マネジメント)DX」。まずはERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)の導入である。ERPとは、企業の資産であるヒト・モノ・カネを一元管理し、経営の効率化・見える化を図るためのソフトウエアだ。コロナ禍のテレワーク推進においては、クラウドによるシステムデザインをベースとする必要がある。
次に挙げられるのがRPA(Robotic Process Automation:ソフトウエア型ロボット)システム。RPAとは“仮想知的労働者”(デジタルレイバー)と呼ばれる概念に基づく、事業プロセス自動化技術の一種である。
ERPとRPAのどちらを先に導入すればよいかと言えばERPだ。これらを駆使してKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)のマネジメントダッシュボード(経営判断に必要な指標を一覧表示する情報システム)をデザインし、マネジメントスタイルそのものを全社的にアップデートしていく。その上で、非効率な仕事や作業を組織変更によって集約(大型化)し、人海戦術ではなくRPAで自動化する。
最後の4つ目は「ヒューマンリソース(HR)DX」である。人事労務マネジメントをシステムに乗せることだけでなく、タレントマネジメントシステム(社員の基本情報やスキルを一元管理して育成・適正配置に生かすシステム)を活用し、人材スキルの棚卸しや連携が行えるようにアップデートする。
社員数が増えてくると、HRシステムを使わずに人材マネジメントを行うのは難しい。加えて、メンタルヘルス上のフォローアップシステムも導入する必要がある。また、人材育成のDXとしてアカデミーシステム(企業内教育システム)も重要だ。いつでも、どこでも、誰でも、学びの機会を手に入れることができるクラウドシステムを構築することである。実は経営資源の中で、最も大事な人的資源に対するDXの投資回収スピードは速いのである。
経営者が企業変革に挑むとき、デジタルリーダーシップ、DXリーダーシップの発揮が不可欠であり、その際に取り組むべきテーマとして行程表(ロードマップ)の作成が必要になる。DX経営はバランスが大切である。
いずれにしても、経営戦略にこれらのDXが不可欠になった。だからこそ、2021年は「DX元年」なのである。
DXのビジョン実装戦略
──ONEプラットフォーム
「実装(implementation)」とは、「装置を構成する部品を実際に取り付ける作業。コンピューターのハードウエアやソフトウエアに新たな機能を組み込むこと」を指す。
私たちTCG(タナベコンサルティンググループ)は、東証1部上場のコンサルティングファームであるタナベ経営と、リーディング・ソリューション、グローウィン・パートナーズの3社でグループ経営を行っている。プロフェッショナル約500名による全国展開モデル(北海道から沖縄まで10拠点にコンサルタントを配置)を経営する中で、さまざまなDX戦略に取り組んでいる。戦略コンセプトは「ONE(ワン)プラットフォーム戦略」。判断基準は次の10項目である。実装事例として参考にしていただきたい。
①DX戦略でビジネスモデルのバリューチェーンを形成
②ONEプラットフォームのシステムインフラは「クラウド」化
③DXへのアプローチとして「マーケティング」「ファイナンス」「クライアント」「ナレッジデータベース」「コミュニケーション」「ハードウエア」「Webサイト(アプリ)」の7つからアプローチ。重点部署を決めるよりも「つながる価値」を優先
④ソフトウエア&ハードウエア(モバイル機器、通信環境など)のバランス重視
⑤「コンサルティングテック®」の開発によるコンサルティング価値の向上
⑥DX・デジタル戦略と組織体制のセットアップで変革をデザイン
⑦組織の生産性(業務効率、テレワークなど)の向上、投資回収成果を確認して推進
⑧社員のデジタルリテラシー向上と教育を推進しながら導入
⑨M&A戦略を前提として、グループ経営、連結経営のシステムを構築
⑩東証1部上場のプロフェッショナルファームとしての情報管理、コーポレートガバナンスおよび社内外システム監査に沿った経営システムの構築
DX経営はハイブリッド経営を経て、デジタル経営へ進化していく。それは、あたかも自動車の動力源がGV(ガソリン車)、HV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)へと、その姿を変えていくことに似ているのだ。
プロフェッショナルDXサービスを実装する
──DX人材の不足を乗り越える
日本にはDX人材が大幅に不足している。ソフトウエア開発会社のフレクトが全国の企業経営者・幹部300名を対象に行った「企業のDX推進に関する実態調査」(2021年4月)によると、DXを進める上での課題について尋ねたところ、「推進できる人材がいない」との回答が40.3%を占めた。また、「開発できる人材がいない」という回答も27.3%に上り、DX人材の不足が大きな障壁となっている。
DX人材は需給ギャップが大きいキャリア層であり、ようやく国内の大学でも実践学部が誕生しつつある段階だ。ただ、これは世界的な現象でもある。コロナ禍前に私が米国のニューヨークとシリコンバレーへ出張した際も、「データサイエンティスト」の争奪戦が行われていた。今、まったく同じことが日本でも起きている。そして、コロナ禍によってますます人材不足が進行しているのが現状である。
この分野の人材を自前主義で求めると、結果的にはDX戦略を先延ばしすることになる。そして「2025年の崖」から転落してしまうだろう。したがって、「社内プロジェクト+外部パートナー」というチーム編成により、DX実装をスピーディーに進める必要がある。
最後に、私たちTCGが提供している、DX戦略をビジョンへ実装するためのプロフェッショナルDXサービスのいくつかをご紹介したい。
1.ビジネスDXの実装戦略
(1)DtoC事業の立ち上げ
DtoCビジネスの目的に合わせ、事業戦略、商品政策(開発を含む)に即したECサイトを構築。「開発→販促→ECサイト構築→運用」のノウハウが社内に蓄積される体制をつくる。これらは、タナベ経営のドメインコンサルティング、マーケティングコンサルティング、そしてブランドプロモーションコンサルティングで対応可能だ。
2.マーケティングDXの実装戦略
(1)BtoB営業のデジタルシフト
自社のレベルを客観的に測定した上で、デジタルマーケティングの本丸となるマーケティング目的のWebサイトを立ち上げ、リアル&デジタルの双方から運用・定着を図る。これはタナベ経営のマーケティングコンサルティングと、グループ会社であるリーディング・ソリューションにおいて対応できる。
3.バックオフィスDXの実装戦略
(1)RPA実装
経営の視点からRPA実装対象の業務を絞り込み、導入効果が高い業務からRPAの設計・開発を推進し、本格導入につなげる。タナベ経営のファンクションコンサルティングと、「ロボワーキング」システムが効果的だ。
(2)ERP実装
バックオフィスの正確性、生産性、システム化はERPへの実装で決まる。ERPシステムと実際の業務との統合を図るために、BPR(Business Process Re-engineering)によって業務プロセスを分析し、再度、基幹系システムに乗せるように新しいシステムの要件定義を行い、実装へ導く。これらは、私たちTCGのコーポレートファイナンスコンサルティングと、グループ会社であるグローウィン・パートナーズのERPソリューションで対応可能だ。
4.HRDXの実装戦略
(1)アカデミーDX(人材育成システムのクラウド化)
自社に求められる人材を育成するためのコンテンツを棚卸しし、社内のプロフェッショナル人材を主役としたオリジナル教育コンテンツ(動画)を設計。いつでも、どこでも、誰でも学べる環境をデジタルで構築する。TCGのアカデミーコンサルティングでは、業種を問わず、すでに120校のDXアカデミーの開校実績がある。
(2)HRDX(人事システムのDX化)
あらかじめ人事システムのDX領域をゴールに定め、新人事制度のフレームワーク、評価制度の改編とタイミングを合わせながらシステム統合、テスト運用を実行する。タナベ経営のHRコンサルティングで対応可能である。
皆さんの会社や組織のビジョンに「DX戦略の実装」を具体策として組み込み、ビジョン策定に生かしていただければ幸いである。ウィズコロナ/アフターコロナを「経営者のDXリーダーシップ」で乗り切り、ファーストコールカンパニー(100年先も一番に選ばれる会社)へと変化・成長するために、今こそリスタートしていただきたい。
PROFILE
若松 孝彦
Takahiko Wakamatsu
タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長。タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。