その他 2022.01.05

Vol.10 必要な支援が得られる職場に

 

【図表】2種類の支援

出所:筆者作成

 

 

コロナ禍の影響による働き方の多様化で、従業員の支援が難しくなったと感じる企業は少なくない。そのような環境下でも、従業員自身がウェルビーイングの重要性を理解し、能動的に取り組むための手法を探る。

 

 

前回(2021年12月号)は、ウェルビーイング経営に上手に取り組むための3つ目のポイントである「現場を巻き込むこと」について紹介しました。今回は、その中でも「従業員自身がウェルビーイングの重要性を理解して能動的に取り組む」ことについて詳しく取り上げます。

 

 

職場における2つの支援

 

本連載の第7回(2021年10月号)で紹介した米・スタンフォード大学のジェフリー・フェファー教授の著書『ブラック職場があなたを殺す』(村井章子訳、日本経済新聞出版)によると、支援の少ない職場が従業員の健康とウェルビーイングに悪影響を与えることが分かっています。

 

また、最近の研究では、従業員の支援には2つのタイプがあることも指摘され始めています。1つ目は、従業員が自ら求めずとも企業から支援を受ける「受動的な支援受容」、もう1つは、自ら求めた場合に支援を受けられる「能動的な支援受容」です。

 

これまで、企業が「助け合う職場を目指そう」と目標を掲げる場合、どちらかというと受動的な支援受容を増やす意味合いが強かったと思われます。職場の上司や同僚、部下の仕事ぶりを見て、困っている時に「大丈夫か」「何か困っているか」と声を掛けるイメージをされたのではないでしょうか。

 

 

企業に支援を求める「援助要請」

 

ところが、近年では受動的な支援受容を増やすことが難しくなってきました。自宅で業務を進められるようになり、仕事の進捗状況が分かりづらくなってきているためです。新型コロナウイルスの感染拡大を機に大半の企業で導入されたテレワークも、その傾向を強める一因になりました。また、支援を積極的に行う職場独特の困難があることも指摘され始めました。

 

例えば、周囲に常に気を配らなければならない業務で忙しくなり、他の業務に支障をきたすことが挙げられます。業務量で心の余裕がなくなり、「個人の事情を職場に持ち込みにくい」と感じることもあるでしょう。助け合うことで、かえって柔軟な働き方を阻害してしまうケースも出てくるかもしれません。

 

このような背景から、最近では「助けを求められた場合に助ける」という能動的な支援の受容、つまり、従業員が必要だと感じたときに企業に支援を求める「援助要請」という考え方に注目が集まっています。「助けが必要なときには本人が求めてくる」ということが分かっていれば、必要以上の声掛けは不要になります。また、本人からの具体的なリクエストがある方が、必要な支援ができる可能性も高まります。

 

支援の重要性を理解した上で、適切な支援の手段についても考える必要がありそうです。

 

 

経営トップが支援の重要性を示す

 

状況によって、異なるタイプの援助要請が求められる場合があります。それは、従業員が病気になってしまったときの援助要請です。大きな病気に罹患した従業員の中には、体力の回復状況に合わせた業務上の配慮が必要だったり、治療との両立を可能にする勤務形態を取り入れたりする必要があります。

 

病気を抱えていたとしても、本人にとって就業が可能な範囲で、かつ能力を発揮できる働き方が実現できれば、ウェルビーイングな仕事生活を送ることができます。このような働き方の実現は、ウェルビーイング経営を実践する上で重要な項目と言えます。

 

ところが、従業員の中にはこの申し出を行わずに離職してしまったり、病気を隠して勤務を続ける方が多いようです。特に、中小企業においては「治療と仕事の両立」に関する認知が大企業と比べて進んでいないと言われています。

 

治療と仕事の両立に向けた援助要請を促すために、まずは経営者自身が「治療と仕事の両立に向けた働き方を支援する」という姿勢を社内にはっきりと示すことが求められます。両立を支援するに当たっての留意・準備事項などを詳しく知りたい方は、厚生労働省が運営する「治療と仕事の両立支援ナビ」をご参照ください。

 

皆さまの職場には、困ったときに周囲に助けを求めることができる環境があるでしょうか。当たり前のことに思えますが、実際は難しいこともあるようです。ぜひ、必要なときに援助要請ができる職場づくりを心掛けてください。

 

 

 

 

PROFILE
著者画像
森永 雄太
Yuta Morinaga
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。近著は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方健康経営の新展開』(労働新聞社)。