Vol.13 テレワーク運用に必要なこと(後編)
テレワーカーの不調の理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、働き方は大きな転換期を迎えました。今回は、前回(2020年8月号)に引き続きテレワークをテーマとし、テレワークの際に陥りやすい心身の不調について、また、気持ちをうまくコントロールするためのセルフケアの方法をお伝えしたいと思います。
緊急事態宣言発令に伴ってテレワークを全社的に導入した企業は少なくないでしょう。解除後も出社を交えながらテレワークを継続したり、もう一歩踏み込んで印鑑の廃止やオフィスを閉鎖して完全テレワークに移行したり、企業によって対応はさまざまだと思います。もちろん、そのようにできる企業ばかりではありません。しかし、感染症や災害に限らず、コスト削減、多様な人材を雇用できるなどメリットが多く、テレワークの導入はこれから当たり前になっていくと思われます。今後を見据え体系的なフローをつくることが、職場環境管理上の責任であり、安全配慮義務を担っていく上で必須の取り組みです。
テレワーカーが訴える不調の理由は、大きく分けると次の三つです。
1.オンオフの切り替えが困難(生活リズムが崩れる)
2.心身の不調(腰痛、肩こり、体重の増加、不安、不眠)
3.モチベーションの維持が難しい(孤立感、孤独感、焦燥感)
それぞれの項目について、対策を解説しましょう。
時間管理と運動で健康に
まず、一つ目のオンオフの切り替えについてですが、手段の一つとして「在宅ルーティン」が挙げられます。毎日の通勤は心身への負担が大きいものの、実はメリットがあります。気持ちの切り替えに一役買っているのです。「終業後も仕事のことを常に考えている」「嫌なことがあると、ずっとそのことが頭を離れない」といった経験は、誰にでもあるでしょう。
この「気持ちを引きずること」が心に負荷を掛けます。完全には忘れられませんが、心の健康を保つためにはどこかで強制的に気持ちを切り替える時間を持つことが効果的です。その方法の一つが物理的に環境を変える行為です。つまり、通勤で家から会社へ、会社から家へ、自分の身を置く場所を変えるのが、気持ちの切り替えに効果的なのです。
しかし、テレワークだとそれが難しくなります。仕事から離れた「リラックスモード」と、気合の入った「仕事モード」を切り替えられません。気持ちの切り替えができないと、心身が軽度の「時差ボケ」のような状態になります。こうした状態に一度慣れてしまうと脱出するのに時間がかかり、最悪の場合、抜け出せなくなってしまいます。これを回避するために、在宅時の「1日のルーティン」をつくり、実践しましょう。
ポイントは、出社時と大きな変化が生じないスケジュールを組むところにあります。まずは起床時間や昼食の時間、始業と終業の時間など、重要な「時間の区切り」を設定し、それから、着替える、髪を整える、化粧をするなど、最低限のルールを決めると良いでしょう。きっちりし過ぎる必要はありませんが、自分なりにマインドセットできるようなルーティンをいくつか用意しておきましょう。
二つ目は、心身の不調についてです。家で仕事をしていると体を動かすことがほとんどなくなります。仕事をしている部屋からトイレへ移動するくらいで、1日に数十歩しか動かない人は珍しくないでしょう。実際に出社するときは、駅や社屋の階段を上り下りしたり、コピー機へプリントを取りに行ったり、何げない運動を繰り返しています。それらを合わせると、思いの外、結構な運動量になっています。
したがって、「頭は疲れているけれど、体は全く疲れていない」という状態に陥るテレワーカーは非常に多く、夜眠れないなど、睡眠に良くない影響を及ぼします。また、運動不足による腰痛や肩こり、肥満なども引き起こしやすく、長く続けば深刻になります。
ですから今まで以上に、業務の合間にストレッチをしたり、朝夕にウオーキングをしたりするなど、運動を積極的に生活へ取り入れましょう。体と心は連動していますので、体に不調が生じると、気持ちもめいりやすくなります。
また、パソコンを使用した仕事は胸を圧迫するような前傾姿勢を取り続けるので、深い呼吸がしづらくなります。呼吸が浅いと不安な気持ちになりやすいので、姿勢を正し、体のコンディションを整えることが大切です。
オフィスでは作業環境の管理は管理者の責任ですが、家での状況までを把握するのは難しく、個々人に任されがちです。しかし、状況をリサーチする、体を動かすよう声掛けを行うなどの配慮は必要でしょう。
相互交流できる場を
最後に、三つ目のモチベーションの維持についてです。メールやチャットで事務的なやりとりはできても、リアルタイムに相手の気持ちをおもんぱかることは困難です。問題の共有はできても、ちょっとした気持ちのやりとりが難しくなります。
実はここが、不調を誘引する大きなポイントになります。実際の職場でも、雑談が少ない部署にメンタル不調が起こる傾向があります。ちょっと嫌なことがあっても、その気持ちを吐き出す場があれば、実際にはどうにもならないことであっても、気持ちが収まることはよくあります。「こんなことがあった」と話すだけで、気持ちの整理につながったりもします。
また、雑談は業務に直接関係した話題だけではなく、日常のちょっとした話もやりとりするので、気分転換になったり、心の距離を縮めたりする効果があります。「調子はどう?」といったやりとりだけだったとしても、会話する機会を持つことでメンタルヘルスは保たれるのです。1人暮らしで、会話を交わす相手がいない方にとっては、特に重要です。
1日に1回でも良いので、時間を決めて管理者の方から部下と直接話す機会を設けましょう。世の中にはさまざまなオンラインツールがありますので、状況によって使い分け、一対一でなくとも少人数で顔を合わせるなど、相互交流の場を設けましょう。一方的な指示出しで与えてしまう不満を緩和し、相手の意向を確認することもできますし、何よりも「従業員を孤独にさせずに業務を進める」という管理者の重要な役割を果たせます。
人と直接話す機会が減り、「孤独な気持ち」を抱え始めると、自分の存在意義を見いだせなくなるといった悪循環に陥りかねないので、早めの対処が大切です。毎日関わることで部下の変化にも気付きやすくなりますし、今日あったとりとめのない話をするだけでも、心の荷下ろしになり、各自のセルフケアに大いに役立ちます。
テレワークを活用できるか否かは、組織の柔軟性を示す客観的な指標にもなると思います。メリットを生かしつつ、より良い活用方法を模索していかれることを願っています。