その他 2020.07.31

Vol.12 テレワーク運用に必要なこと(前編)

求められる柔軟な働き方

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、日常生活や仕事環境は大きな変化を余儀なくされました。完全な終息が見えない中、ただ日常生活を営むだけでもストレスがかかる日々が続いており、新たに取り組むさまざまな対応に疲弊している方々も少なくないでしょう。

 

在宅のテレワークに対する戸惑いも多く聞かれます。コロナ禍以前よりテレワークを導入していた企業を除き、多くの企業では世間の様子を見ながら慌てて導入したため、通信環境や社内体制の整備が後手に回ってしまったと推察します。

 

しかし、すでにその段階を終え、新たな課題が見え始めているころではないでしょうか。新型コロナウイルスに限らず、自然環境の変化や災害などによる「想定外」な事態はいつ起こってもおかしくありません。今回は、今後を見据えて、働き方について検討する際に留意いただきたいポイントをお伝えします。

 

 

楽じゃないテレワーク

 

「Microsoft Teams」や「Zoom」などのウェブ会議システムを介した打ち合わせでは、インターネット接続環境の差異が業務の質を左右します。通信の状態が悪いと、互いの音声が途切れたり、映像にタイムラグが生じたりします。すると、複数名でミーティングをしていても、メンバーがその人に声を掛ける頻度が下がり、本人は会話に入れませんし、相手が取引先であれば会話の時差により不快感を与えかねません。

 

ほかにも、取引先との対応中に自分のマイクをミュートにしないまま、自社のやり取りを聞かれてしまったというケースも聞きます。これらはテレワークを導入した当初なら許されるでしょうが、数カ月たっても改善されていないとなると顧客からの評価が下がりかねませんので、早急に対応する必要があるでしょう。

 

また、仕事の内容にもよりますが、膨大なデータ通信量を使用してしまい、思いがけない高額の請求が来たという話も聞きます。各家庭によって料金プランの契約はさまざまでしょうが、これまで出社する形態で勤務してきた方の中で、自宅での仕事を想定して契約を結んでいた方はそう多くないでしょう。自宅でインターネットを利用するのにはスマートフォンで十分だと思っていた方々にとっては、パソコンのスペックだけでなく、データ通信量も問題になるかと思います。

 

ここで一つ覚えておいていただきたいのは、環境整備を全て社員に丸投げするのは不平不満の原因になりかねないことです。家庭が職場になるわけですから、作業環境の管理は組織やリーダーの仕事でもあるのです。ルーターやパソコンの貸与、テクニカルなサポート、金銭的なサポートが必要な場合もあるでしょう。

 

 

 

フレキシブルな対応を

 

作業環境へのサポートは、ハード面だけでなくソフト面にも必要です。まずは、ウェブ会議などで画面に映り込む自宅の様子です。無線LANでノートパソコンを使用しているならまだしも、LANケーブルやデスクトップのパソコンを使用している場合、使用場所が限られてしまいます。そのため、自宅の様子が丸見えになります。

 

家族の使い勝手や住宅事情から、パソコンがリビングに設置されている家庭は少なくありません。家族が使用する頻度の高いリビングは、常にきれいな状態を保つのが大変です。「事前に部屋の整理整頓や映り込む範囲の物の片付けをせねばならず、会議前に疲弊してしまう」といった声も聞きます。加えて、打ち合わせ中にさまざまな生活音が混じり合い、会話が困難になるケースもあります。

 

もちろん、各人がより良い環境を整備することは仕事の一つですが、小さな子どものいる家庭や家の中でペットを飼っている家庭では、同じ空間で子どもやペットが遊んでいる場合もありますし、世話をしなくてはならない状況に陥る時もあります。誰しもが静かな環境を確保できるとは限りません。

 

これらのことから、バーチャル背景を設定できるウェブ会議サービスを利用したり、全員が集まるチームミーティングの時間帯を社員それぞれの生活リズムをリサーチした上で検討したりといった、フレキシブルな対応が求められるでしょう。

 

私がテレワークについて見聞きした中には、気を使って家の階段やクローゼットの中からウェブ会議に参加する方がいる一方で、部屋がぐちゃぐちゃでも意に介さない方や、テレビを付けっ放しにしたまま参加する方がいます。親しい間柄なら意見できるかもしれませんが、関係性によっては非常に難しいので、折に触れ、組織内で意見交換しながらオンラインマナーを周知徹底することが望まれます。人の感覚はさまざまですので、具体的なルールを決める必要があるでしょう。

 

 

ウェブ会議の限界

 

ウェブ会議システムを利用した画面上でのやりとりが得意な人はそうはいないと思います。実際に対面していないため、表情が分かりにくく、相手に「伝わった」実感を得にくいデメリットもあります。リアクションが少ないと「聞こえていますか?」と確認されてしまうこともあるため、相づちを打って聞いていることを表現したり、しっかりと発声したりせねばならず、対面よりもエネルギーを消耗します。

 

私たちは会話をするとき、無意識にさまざまな情報をつなぎ合わせています。例えば、朝、人と会ったときに「お…う」という音が相手から投げ掛けられたら、最初の「お」と最後の「う」しか聞こえなくても、「おはよう」と発声されたと認識します。要するに、足りない情報を、経験やその場の状況に応じて補いながらキャッチするのです。これは、音だけではなく、五感を総動員して行う、いわゆる肌感覚のようなものに当たります。

 

ところが、画面でのやりとりだと情報量が圧倒的に少なくなります。より多くの補完が自分の中で必要になり、精神的な疲労が大きくなる上、主観的な推測や憶測が入り込んでくるため行き違う可能性も高まります。正確にやりとりをするためには、普段以上に具体的な言葉で細やかに、はっきりと伝えることが大切です。部下の方に指示を出すときにもこれを心得ていただき、重要な内容は繰り返し伝えるなどのフォローが必須です。

 

多少、面倒に思う場面もあると思いますが、これが習慣化されれば、リアルコミュニケーションの質もぐっと上がります。互いの勘違いをなくし、より精度の高いやりとりが可能になりますので、ぜひこの機会に習得していただければと思います。

 

次回(2020年9月号)は、テレワークで陥りやすいメンタル不調と、気持ちをコントロールするためのセルフケアの方法についてお伝えします。

 

 

 

PROFILE
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大野 萌子
Moeko Ono
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。内閣府、防衛省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間150件以上の講演・研修を行う。著書に『言いにくいことを伝える技術 ~もう振り回されない! ストレスフリーな人間関係を一瞬で手に入れる』(ぱる出版)、『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー携書)など。