Vol.6 信頼関係構築のためのあいさつ
あいさつを軽視してはならない
あいさつは、相手の心証を左右する大切な行為です。実際にビジネスの現場でも、経営層が社員を何かの役割に抜てきしたり、人材を採用したりする理由について、「気持ち良くあいさつをするから」と聞くことが多くあります。
そんな大切なあいさつを、適当に済ませていないでしょうか。ご自身の印象に大きく影響があるにもかかわらず、相手に伝わるようなあいさつができていない方もいらっしゃるかもしれません。「あいさつがない」「あいさつの仕方が悪い」など、ちょっとしたあいさつの行き違いから、相手との関係がうまくいかなくなった経験をお持ちの方も、少なくないでしょう。あいさつは毎日繰り返されるからこそ、意識的に行っていただくことで多くの効果が期待できます。
リーダーの声掛けが重要
最近、入社1年目の方とのカウンセリングの中で、「先輩たちとうまく関われず、落ち込んでいる」という内容の相談を受けました。その社員の席は、指導に当たる先輩たちと背中合わせになる場所に位置します。朝早く職場に来るのはたいてい新人の方で、背を向けてメールのチェックなどをしていると、先輩たちは気付かないうちに出社していることが多く、あいさつするタイミングを逸してしまうと言います。
業務中に質問をしたくても、「あいさつをしていないのに」と思うと躊躇してしまい、聞けないまま過ごすときがあるということでした。そのような出来事が重なり疎外感を覚えるようになってからは、自分の存在価値がないような気さえして、仕事に身が入らなくなったとの訴えです。
このように、「あいさつのタイミングが難しい」「あいさつができない」という相談は、非常に多く寄せられます。席の位置や時間差によって、いつどんなタイミングであいさつをすればよいか分からない状況が常態化し、いまさら対応を変えることが難しいといった声も聞かれます。
今回のケースの場合は、後から出社する先輩たちから新入社員の方へ、積極的に声掛けしてほしいところですが、先輩たちはもしかすると、「あいさつは下の者からすべき」という気持ちがあるのかもしれません。
職場ではまず、どちらが先だからダメといった勝ち負けのような感覚をなくすことを心掛けてください。そのためには、リーダーが率先して皆に声を掛けましょう。リーダーの振る舞いは、会社全体の雰囲気に直結します。
例えば、学生の頃を思い出してください。成績や素行などほぼ均等に割り振られた集団であるはずなのに、クラスによってその雰囲気がまるで違いませんでしたか? それは、リーダーとなる担当教員の個性や関わり方に、子どもたちが影響を受けるからです。それほど、上に立つ人の言動は重要なのです。
目線・名前・非言語を意識する
さて、あいさつについて具体的なポイントを何点かご紹介しましょう。一つ目は「目線」です。せっかく部下へ声を掛けても、目線が合わないと相手はあいさつしてもらっている感覚を持ちにくく、反応しづらい場合があります。
例えば、道で誰かとすれ違った時に、目を見て会釈されれば相手はあいさつされたと認識できるのに対し、目線が合わないまま「おはようございます」と声を発しただけでは、相手は自分に言っているとは認識しづらいものです。
反対に、部下からあいさつされたらきちんと目を合わせて応答するようにしましょう。声を発するだけでは承認のサインにはならず、相手はちゃんと応答してもらえなかったと判断しがちです。ですから、一瞬でも良いので目を合わせることが重要です。
あいさつ以外でも、何かを話し掛けられたりした時などに、パソコンの画面を見たまま「そこに置いておいて」などと反応するのも良くありません。自身がよほど危険なことや目を離せないことをしていない限りは、一瞬でも良いので相手に目線を向けましょう。
二つ目は、「相手の名前」です。あいさつの声が聞こえているにもかかわらず反応しない人がいます。そうしたことを防ぐためには、「○○さん、おはようございます」など、相手の名前を付けてあいさつをすると、効果的です。
名前は固有名詞なので、呼び掛けるだけで承認のサインになります。特に下の立場の人は、上の立場の人から名前を呼ばれると、モチベーションが上がる傾向があります。
とある大学で行われた実験では、教授が特定の学生へ授業中や廊下で擦れ違う際などに、名前を呼んで話し掛けたところ、該当学生の成績が著しくアップしたという例があります。簡単にできる方法ですので、ぜひ取り入れてください。
三つ目は、話をする時にしっかり相づちを打ったりうなずいたり、「相手に分かるように応答する」ことです。特に表情や言い方に気を付けてください。私たちは、相手とやりとりをする時に、視覚(表情や動きなど)・聴覚(声の音調や話す速度など)・言語(内容、言葉の意味など)で、相手を判断します。その中の9 割以上を、非言語といわれている視覚と聴覚が占めます。
例えば、すごい形相で語気も荒げながら「怒っていない!」と言ったところで、相手には怒っていると伝わってしまうでしょう。よって、相手と関わる時には、非言語に当たる表情や言い方に気を配る必要があるのです。
自分と相手のためになるあいさつを
だからといって、職場でいつもにこやかに笑っているのも無理な話だと思いますので、まずは表情豊かに抑揚を付けて話すよう、意識してみてください。変化を付けることが大切です。というのも、人は無表情や抑揚のない声に不安や威圧を感じやすいからです。何を考えているのか分からない態度が相手を萎縮させてしまうので、表情や話し方に動きを付けるよう試みてください。
それだけで、相手は自分にきちんと向き合ってもらえていると自覚を持てます。そうすると安心して関われるので、落ち着いて分かりやすい話をしてくれるようにもなります。つまり、しっかり相手を受け止めることは、相手のためだけではなく、分かりやすい報告や連絡を受けられることにもつながるのです。
あいさつ一つで、今回のケースのように存在価値がないように感じるほど深刻に捉える人も実は少なくありません。ぜひ、職場でリーダーからあいさつしやすい雰囲気をつくり、関わる時は、目線を合わせ、しっかりと受け止めるようにしてください。