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21世紀のラグジュアリー論 イノベーションの新しい地平

ミラノ在住のビジネスプランナー安西洋之氏による連載。テクノロジーだけではなく、歴史や文学、地理、哲学、倫理が主導する21世紀の「新しいラグジュアリー」について考察しています。
その他 2021.05.06

Vol.19 意味の探求が新しい文化を創造する

 

ラグジュアリー市場が「今後は『高級品業界』というくくりではなくなり『文化と創造性に秀でた商品が入り乱れる市場』になっていく」(2020年11月25日)という米ベイン・アンド・カンパニーのリポートが現実味を帯びてきている。今回はラグジュアリー教育に携わる2人へのインタビューから、各国の特徴や今後の動向などを紹介したい。

 

 

女性のファッションが先頭を切る

 

これからラグジュアリー市場に参入するかどうかを検討するに当たって、この20~30年の間で「ラグジュアリー」と称されたモデルを参考にするのはあまり意味がない。なぜなら、そうした市場が終焉を迎えつつある今、これまでのプレーヤーは変化を強いられているからだ。新たなプレーヤーがひしめく中、過去の成功モデルは役に立たない。

 

しかしながら、日本のビジネスパーソンの口からは「ラグジュアリーを目指すなら、フランスのコングロマリットから学ばないといけない」との台詞がよく出る。これがまったくの見当違いであることは、これまでの本連載の内容で十分にご理解いただけたと思う。

 

「この先、新たなラグジュアリーへと先頭を切るのは、女性のファッションやバッグなどのアクセサリーであろう」と連載18回目(2021年4月号)に書いた。この市場はトレンドがダイナミックに動きやすいからだ。他方、男性のファッションは蘊蓄とこだわりが多いため動きが鈍く、女性のファッションの後追いになるに違いない。試作から商品販売までのプロセスが多いインテリア雑貨や家具も、その後追いの1つになるだろう。

 

したがって、女性のファッションとつながりのない市場に身を置くビジネスパーソンは「関係ない」と気後れするのではなく、自分たちを先導するともしびだと捉えるのが賢明だ。

 

そこで、今回はラグジュアリー教育に携わる2人の女性へのインタビューの内容を紹介したい。どのような人たちが行動しているのかを知れば、親しみが持てるはずだ。

 

 

 

ロンドン大学 ゴールドスミス校 ラグジュアリーマネジメントコース プログラムディレクター ケリー・メン・パーンウェル氏

 

 

ラグジュアリーは幅広い視野を要求される

 

1人目に紹介するのはロンドン大学ゴールドスミス校ラグジュアリーマネジメントコースのプログラムディレクターである、ケリー・メン・パーンウェル氏だ。

 

彼女は中国の大学で英語と国際ビジネスを学び、卒業後は不動産企業で小売り店舗開発に1年間従事。ラグジュアリー企業のクライアントを担当したことからラグジュアリー分野に関心を強く抱き、2006年、英国の大学の修士課程に留学した。

 

そのころの学びのテーマは「ラグジュアリー」ではなく「アジアのビジネス」だった。当時、フランスやイタリアの大学でラグジュアリービジネスのコースはすでにあったが、英国にはまだなかったのである。「ラグジュアリーはアカデミックの研究対象には成り得ない」と指導教官に助言を受け、大学の図書館でラグジュアリー関連の資料を探したが、「ラグジュアリービジネス」の書籍は見つからなかったという。

 

中国と南アフリカで仕事をした3年後、修士と同じ大学の博士課程に戻り、「南アフリカにおける中国ビジネス」を研究。その後、英国で小売りのコンサルティングなどをしている最中、現在勤めている大学でラグジュアリーマネジメントコースをつくる企画があることを知って転職した。

 

彼女の経歴を細かくつづったのには理由がある。ラグジュアリー領域で自らの道を定めるには、それなりの経験が後押しすることを示したいからだ。現に、パーンウェル氏はラグジュアリーに興味を持っていたものの、自らの居場所を得るのに時間がかかった。ラグジュアリーは多くの分野を横断する。経営学だけではない。人文学や芸術など幅広い視野を要求されるのだ。

 

ゴールドスミス校の学科の学生は5大陸20数カ国の出身者。本連載で何度も書いているように、ラグジュアリーの認知は文化圏によって異なるので、それが実体験できる環境であるのが望ましい。パーンウェル氏も文化的に多様であることが必須だと考えている。彼女の大学はラグジュアリーを学ぶ環境として理想的である。

 

 

 

頭角を現す中国独自のブランド

 

ゴールドスミス校のラグジュアリーマネジメントコースは起業に向いている。スタートアップに関するパーンウェル氏の話の概要を紹介しよう。

 

「数々のカンファレンスを含め、英国にはさまざまな学びの場があります。例えば、本校ではブリッティッシュ・カウンシル(英国文化振興会)や美術館などとコラボレーションをしています。そこでは、ロンドンのオープンな空気も相まってラグジュアリーのナレッジがシェアされやすい。英語が公用語であることに加えてスタートアップが生まれやすい環境であり、それが世界各地から留学生がやってくる動機にもなっています」(パーンウェル氏)

 

一方、アジア諸国はどうだろうか。

 

「中国は日本を参考にできるところが多いと考えています。日本は明治時代から西洋文化を咀嚼しながら独自の文化を形成してきた歴史があります。また、欧州ラグジュアリー商品の市場として数十年先行した経緯があり、学ぶところも多いでしょう。ラグジュアリーブランドは一夜にしてできるものではありません。歴史の再評価にも時間がかかります。それでも今の動向を見ていると、かなり近い将来、中国独自のブランドが国内外で実績を上げていくことが予想できます。そういう勢いがあります」(パーンウェル氏)

 

いずれにせよ、特殊な技術がなくてもラグジュアリーと称する分野に踏み出せる可能性があると彼女は話す。

 

「ラグジュアリー領域に今、世界各地でイノベーションが起こりつつあるのは当然の現象だと思います。サステナブルという世界の共通目標があり、『人がラグジュアリーに惹かれる理由』は以前にも増して問われています。『社会的責任を取る商品にお金を使いたい』と。そうすると人は、サステナブルをうたう企業や商品へさらに敏感になります。中国の若い世代も例外ではありません。巨大な市場の動向が、良い意味で世界に波及すればと願っています」(パーンウェル氏)

 

ラグジュアリービジネスは主に欧州文化の遺産で成立してきた。したがって欧州のスタートアップは有利な立場にあるのは確かだが、他の文化圏発のビジネスも生まれつつあり、時代は確実に動いている。

 

 

※文化交流と教育機会を促進する、英国の公的な国際文化交流機関

 

 

 

PROFILE
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安西 洋之
Hiroyuki Anzai
ミラノと東京を拠点としたビジネスプランナー。海外市場攻略に役立つ異文化理解アプローチ「ローカリゼーションマップ」を考案し、執筆、講演、ワークショップなどの活動を行う。最新刊に『デザインの次に来るもの』(クロスメディア・パブリッシング)。