その他 2020.03.31

Vol.6 企業活動に倫理的視点が求められる時代

【図表】エリートショッパーの国籍と年齢分布

出典:ALTAGAMMAとGlobal Blueによる”European Tax Free Shopping Overview & Contribution of VIP shoppers to Growth”(28 November,2019)

 

 

「エシカル」が求められる背景

 

ミレニアル世代は便利な新しさを追求してきた。前述したように、レンタルやシェアを好む。服やアクセサリーの高級品レンタルのオンラインサービスも、この流れの一つである。経済的合理性の顔はどうしても隠れなかった。

 

一方、Z世代は倫理的なけじめに重きを置くのだ。まだ使えるものは再生し、必要なものがあれば自分で作る。3Dプリンターの普及により自分でできる範囲が増えたので、それを大いに活用しないのは経済的にも倫理的にも適当ではないと考える。

 

この点が「エシカルファッション」をバックアップする。

 

ファッションメーカーの行う製品の大量廃棄処分が社会的批判を浴び、続々と各メーカーがそれらの処分の中止を決め、再生などの方向で検討している。さらに、この業界の大きな問題は「不透明なサプライチェーン」が成立してきたことだ。貧しい開発途上国の子どもたちを作業に従事させていた疑いである。もちろん、ブランドメーカーとサプライヤーの間に労働環境に関する取り決めはあるが、テキスタイルやファッションは下請けの先、いわば孫請けから先の距離があまりに遠い。

 

自動車分野であれば子どもの手に頼る部品メーカーの存在は想像しにくい。あるいは食品は人の命に係わることもあり、安全意識が倫理を近づける。しかしながら語弊を恐れずに言えば、生地や服は安全や倫理にさほど配慮しなくてもビジネスが成立しやすい分野であった。サプライチェーンもあまりに複雑なため、問題が露呈しづらいとの事情もあっただろう。

 

このようなことから、「エシカルフード」(フードの場合はオーガニックかどうかがチェック項目になる)や、「エシカルカー」(車の場合は地球環境への影響や安全性が問われるから「グリーンカー」「セーフティーカー」という名称が一般的)という表現はないが、テキスタイルやファッションの分野では「エシカル」が問われるのである。

 

そしてラグジュアリーのジャンルに入るメーカーが、この要求に応える最初の主人公になっているのだ。すでにミレニアル世代からも突き上げを食らっているが、次の新しいZ世代からは倫理性をさらに強く求められる。しかも、それを発信側の人間として求めてくるのである。

 

いわゆる「グリーン派」や「(循環経済にフィットした)サーキュラー派」が、その主張を商品コンセプトのコアに入れ込むことでセールスポイントをつくるのに対して、ラグジュアリーは「そんなの当たり前でしょう」という表情をしているわけである。こうして冒頭のテーマに戻ってくる。

 

 

世代交代は主要経済圏の移動と対

 

ラグジュアリーの性格の変化の大きさは、世代交代の影響によるところが大きい。「世代はいつでも変わるでしょう?」という指摘があるかもしれない。しかし、ラグジュアリービジネスの場合、主要経済圏の移動という現象と対になっているのである。

 

スイスにある免税サービスのグローバル・ブルー社が公表したイタリア免税市場2018年10月から2019年9月までのデータを見ると、この変化をよく物語っている。(【図表】)

 

「エリートショッパー」と定義される人たちがいる。彼らは毎年3回以上の旅行、年間15日以上の外国滞在、年間12回以上免税店で購入を行い、5万5000ユーロ以上(約660万円)の出費をする。この層は免税購入客数の0.5%しかいないのにもかかわらず、金額ベースで免税市場の17%を占めている。

 

エリートショッパーの国籍と年齢分布を見ると、米国だけが55歳以上の割合が突出して高い。50%だ。それに対し、中国はわずか13%である。

 

それから注目したいのは、中国の20~34歳の層の厚さだ。東南アジアも今後の経済成長で若年層の増大が見込まれるが、高額品を買う人たちのボリュームゾーンがこの年代に移るとすると、この市場の風景が大きく変わるのは必然だろう。

 

繰り返すが、彼らが倫理を重視する購買層の筆頭になるのである。消費者が企業活動に倫理的視点を求めるのは、言うまでもない。

 

 

 

 

PROFILE
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安西 洋之
Hiroyuki Anzai
ミラノと東京を拠点としたビジネスプランナー。海外市場攻略に役立つ異文化理解アプローチ「ローカリゼーションマップ」を考案し、執筆、講演、ワークショップなどの活動を行う。最新刊に『デザインの次に来るもの』(クロスメディア・パブリッシング)。